暴力と異形の果てに突如生じる美しさ。

 アスミック・エースさんのご招待で「エージェント・マロリー」試写へ。海外版のトレイラーを見るなり、ジーナ・カラーノに一目惚れしていた俺は、「Haywire」での公開がなされると待ちかねていたのだが、邦題は変わってしまった。まぁ「プリズン・ブレイク」の登場人物と混同されても困るし、本格劇映画発主演の彼女を、志穂美悦子的にアピールするにはタイトルに名前が欲しいのも分かる。それに、本来ムエタイ系の格闘家であるにも拘らず、それ風の動きを封印し、銃器の発砲も必要最小限に留めて展開する、徹底したリアル志向な格闘アクションの数々が「ジェイソン・ボーン」シリーズの影響下にあるのは明らかなので、邦題に主人公の名前が冠せられるのには意味があるのだ。しかし彼女、やっぱり本編でも俺にはメチャメチャ好みで超美人に見えるのだが、一般的にはそうではないらしい。偶然お会いした墓場プロの同志、コンバットRECさんのご感想をお聞きする機会は逸したが、硬派なアクションを貫きながらもテンポの良いスコアやフィルター撮影の多用により、ソダーバーグ色をも維持しているため、俺的にはかなりの好感触あることは言うまでもない。また、表面上の超豪華キャストに限らず、殆ど死んでる「マトリックス・リローデッド」のゴーストこと、もう一人のアンソニー・ウォンや、俳優業で目にすることの多くなったマチュー・カソヴィッツの登場など、細部に渡っても贅沢さが満喫できたのであった。


 一観客として「私が、生きる肌」へ。俺はアルモドヴァルの不徹底さにいつも不満があって、時折その不徹底が補われているのではないか?という微かな希望で作品をチェックしたりすることもあるが(毎回ではない)、やっぱりこいつはダメだった。というか俺の見抜いた資質の限界はやはりその通りでしかなかったとの思いに囚われた。そういう意味では浮き沈みの激しいトリアーなどと同じく、問題作をコンスタントに作ることができる監督なんだと思うが、やっぱり毎度のこけおどしに終始していて、結局てめえの欲望に合致した話を映像化したかっただけだったのだ。そういう意味では問題作ではあっても問題提起はない。自分の娘を強姦されたと思い込んだ気違いが、犯人への復讐にそいつを女へ改造するが、心を許しかけた主人公に対して嘘をつき、男(主人公)を裏切ることで完全な女として完成したというだけの話。そう、誠実なままでは女としてはカタワなのであって、あくまで嘘をつき、男を裏切らなければならない。つまりマッドサイエンティストの生み出した化け物は親を殺し、化け物になる前から見初めていたフランケンシュタインの花嫁を自分が化け物になることで恩賞として手に入れる(報われる)。それは復讐自体の方向性とそもそもの動機が見当違いであったことの証明でもあるのだが、誰も真の意味でそこに決着をつけようとはしないのだった。でも、熟女(老女?)好きには「デビルズ・バックボーン」ほどではないものの、マリサ・パレデスの安定感に心を揺さぶられるのも事実。


 一観客として「ダーク・シャドウ」へ。俺は「猿の惑星」以降のティム・バートン作品は全て駄作として外していると思っているが、それらをチャラにする良作であった。「ノスフェラトゥ」やその他のサプライズ的なモンスターの登場というような表層的なジャンル映画としての評価ではなく、俺のような、投げられたものを投げ返すことしかできない奴、さらには無条件に与えられたものを与え返すこともできない奴にしてみれば身につまされ感が半端ではない。旧「バットマン」シリーズが、明らかに狂人と異形への憐憫と愛着によって撮られていたように、こちらでも主役はジョニー・デップではなく、彼をヴァンパイアにした狂女(魔女)なのだ。屈折した愛情を押し付けて拒絶される人間が、その拒絶を理解できないのはなぜなのか?の極めて辛辣なひとつの答えが本作にはある。それは要するに「愛の挫折」でも「掛けられた呪い」でもなんでもなく、(俺も含めた)そいつから愛する能力が先天的に欠損していただけのことだったんだよ。誰もが己の心の不在に気づきたくなかったり、認めたくなかったりするから、その事実への悪意溢れる指摘としてバートンはこういう作品を作ったのだし、それは傑作となることを免れ得ない。


 一観客として「メン・イン・ブラック3」へ。結局ジリ貧になったウィル・スミスの思い付きによる小遣い稼ぎでしかないので、これまでの関連性もパグやリンダ・フィオレンティーノもどっか行っちゃってても気にしなくていいのは気が楽。無理に呼ばれたんでトミー・リー・ジョーンズもあまりやる気がなくジョッシュ・ブローリンに丸投げ。だから時間遡行しているのにタイムパラドックスにもやや難があるし、エイリアンも余裕で昔の自分と会うという「タイムコップ」ではタブーとされている行為に手を染める。それくらいには目をつぶっても、70年代に戻っているのに人種差別に晒されないのは意味ないんじゃないの?でも途中でウォーホルが出てきて、結局そこを描きたかったのねと、スクリーンに再生された「ファクトリー・ガール」におけるガイ・ピアース以来のウォーホルと再会すると若干腑に落ちた。それ以外は物語全体を通して正体が不明ながら、アフリカ系の超美人も堪能できるし、スミスのバカ息子が出て来なかったのは心底ホッとする。それにカエル星人もかわいい。しかし途中から並行時間を見ることができる掟破りのキャラのせいで、シリーズ毎度の楽しみだった、特殊かつ捻ったオチが非常に陳腐なものに堕落していたのは超残念。でももう続きはないだろうな。Haywire/エージェント・マロリー[日本語字幕無][リージョン2][PAL-UK] [DVD][Import]プリズン・ブレイク シーズン1 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]プリズン・ブレイク シーズン2 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]プリズン・ブレイク シーズン3 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]ボーン・アイデンティティー 【プレミアム・ベスト・コレクション】 [DVD]ボーン・スプレマシー 【プレミアム・ベスト・コレクション】 [DVD]ボーン・アルティメイタム [DVD]マトリックス リローデッド [DVD]マトリックス レボリューションズ [DVD]ENTER THE MATRIX (Playstation2)マチュー・カソヴィッツ DVDコレクションオール・アバウト・マイ・マザー [DVD]デビルズ・バックボーン [DVD]ダーク・シャドウ Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)PLANET OF THE APES/猿の惑星 [DVD]吸血鬼ノスフェラトゥ 《IVC BEST SELECTION》 [DVD]ノスフェラトゥ [DVD]バットマン [DVD]バットマン リターンズ [DVD]メン・イン・ブラック(1枚組) [DVD]メン・イン・ブラック2(1枚組) [DVD]メン・イン・ブラック3 blu-ray & DVDタイムコップ [DVD]ファクトリー・ガール [DVD]

2012年06月26日のツイート