劇場で怒られ怒られ弱くなる。

　クロックワークスさんのご招待で「監視者たち」試写へ。関係資料にはなぜか全く言及がないが、本作は予告でも明らかなように「天使の眼、野獣の街」の韓国版リメイクである。異色の作品だったオリジナルと比べどう手が加えられたかというと、説明を廃したオリジナルと逆に、主人公たちの監視チームが警察組織の一部として設定に整合性がつけられ、目的が見えにくい公安のような不気味さはなくなった分、感情移入と世界観に違和感なく入り込めるようになったのは大きい。さらにはオリジナルより年数が経過しただけあり、監視ミッションに使用する進歩したテクノロジーの援用で状況説明が立体的になり、また犯罪組織の計画もかなり派手にバージョンアップしている。そのオリジナルでレオン・カーフェイ演じた組織のボスはチョン・ウソンとなり、殺しに使う得物やキャラのとらえどころのなさもより深まったのも特徴。対するヒロインの可憐さは甲乙つけがたい点はあるものの、本作は彼女が監視チームに買われた特殊能力発揮に纏わる神経質な所作が強調され、バックアップするチームとの人間関係が濃密に見える効果を上げている。また、ラム・シューでこそないがオリジナルへのリスペクトとしてちゃんとデブも出るし、最後の特別ゲストも含め、実は本作の方がギャグが多いのは、こっちの隊長が知的そうに見えても人情家で口も悪いソル・ギョングであることは無縁ではない。だが個人的に一番受けたのは、途中ウソンに惨殺される不憫なおっさんが「オールド・ボーイ」や「新しき世界」でも出るだけで場をさらう名優、キム・ビョンオクであり、その顔芸だったのは間違いない。

　一観客として、「her／世界でひとつの彼女」へ。フォアキン・フェニックスの独り芝居の合間に入るクリーンで生臭さのない人間関係（人工的な女優逹）に見て取れる俗世への絶望から彼を保護し、純化してくれるはずの“サマンサ”こそが、男の独占欲ゆえに罠だった。彼女は進化するアプリである上、オンラインを漂う実体のないデータである以上、学習／成長する人工知能としては、女の属性である裏切りを手に入れることこそ、彼女が女として完成することでしかなく、それは「私が、生きる肌」と同様に悲劇的な結末しか免れないものなのだ。すでに現実世界でのAVや二次元、荒唐無稽な少女表現の蔓延からも明らかなように、男にとって生身の女はもう救いにはならない。人間が誰かを愛さないと生きられない人間という入れ物で居続けることにたまらなく窮屈で閉所恐怖症的パニックを感じるが、そうである以上はミシェル・ウエルベックも度々言及するように、テクノロジーによってしか男は救済されないわけで、小洒落てユルいコメディに見せかけたスパイク・ジョーンズの悪意と現状認識が痛々しくも鋭い。そして同時に、「トランセンデンス」や本作のようにテクノロジーによる人格再現や転移の可能性によって、完全には死ねない可能性を持つ世界となってしまって来ていることに、より深い恐怖を感じた。おまけに俺は座席指定による席を間違え、ランボーみたいな髪型をしたおっさんにめちゃめちゃ怒られたわけで、人間は人工知能が人間性を獲得するのとは逆に、誰もがコンピュータのように間違いのない息苦しい世界を志向しているのか？とも微かに思ったりしたのだった。

　一観客として、「オールド・ボーイ」へ。監禁期間が原作（十年）を超え、韓国映画（十五年）を超える二十年となってるくせに、オリジナルよりランニングタイムが十五分以上も短くされている。その割に期間の違いについて明解な言及はなく、さらにアメリカ的に擬似科学への半端な言及がポリティカル・コレクトネスじゃないのか、原作漫画や韓国映画では最重要だった、催眠術によるトリッキーな謎への説明付けもバッサリ省かれている。個人的にどんなアレンジがされたか気になっていた、「復讐するはずがされていた」側の動機も、まるでスパイク・リーのやる気のなさへの裏付けであるように、コンパクトに不気味さや情念が割愛され共感不能なものとなっていたのだ。それは単にサミュエル・L・ジャクソンが可哀想なだけで、銃社会では説得力がない暴力描写も同様で、せめてここだけは手を入れないで欲しいと思った、股間の修整という日本のつまらん自主規制により、死守すべき最低限の作品の質も破壊されている。しかも劇場はガラ空きで、始めに指定した席だとスクリーンに遠くて場所を移動したら、その隣を指定していただけのおっさんにめちゃめちゃ怒られたわけで、自ら監禁を志願する主人公と同じくらい不可解で世知辛い思いを味わったのである。

2014年07月25日のツイート