夏の大作に落とし前をつける終戦。

　一観客として「プレデターズ」へ。リブートとはよく言ったもんだが、そもそも話の骨子は10年ほど前に製作のロドリゲスに振られていた「3」以外の何ものでもなく、自身が執筆したシナリオが可能な限り再利用されているのが嬉しい。ただ背景は現代風でも、会話の中に一作目のシュワの話やら二作目のダニー・グローバーの話が出てくるのは鮮度が気になる。だがそうした内部情報に、一介のスナイパーたるアリシ・ブラガが通じているのも、これまで「シティ・オブ・ゴッド」に始まり、「ブラインドネス」やら「アイ・アム・レジェンド」といった“修羅場女優”としての地位を確立があるのに加え、彼女が紛れもなく南米系であることから、一作目の生き残りであるアンナとの血縁（？かつ、背後が明かされないことから、一作目のゲリラ関係者でもある可能性？）すら感じさせるキャスティングが憎い。彼女の起用が「AVP2」のケリーがリプリー（「エイリアン2」で既に地球で死亡を報じられた娘のような関係者？）を想起させるような描き方で、事実がどうあろうとファンタジーを高めるに充分機能し、さらにこの上なく美しいことが最大のオマージュとなっている。他にもパッと見にはプレデター星に拉致された一人がミニガンを所持してるのが重要に見えるかも知れないが、それはリブート用の間口の広いネタであって、目を凝らせば主人公・ロイス自身が、かのジャック・クレイン作“ライフ・サポート・プレデター”ナイフを装備という素晴らしいこだわりが堪能できる。しかし、未知の世界という設定ゆえ明確に言及されないが、最大のネタは、とある罠に囮で利用される“人類同様拉致された別の異星人”に、幻のヴァン・ダム着用版のプレデター没デザインを使用していること！こんなラブコール（挑発）受けて応えないのは、「エクスペンダブルズ」拒否同様寂しいぜ！続編あるなら出ないとな、ヴァン・ダムさんよぉ。

　一観客として「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」へ。会話がとにかく下品でいい。悪友の結婚式前に野郎同志で羽目を外すためにヴェガスへ行く話なんだから当たり前だ。だがそこに花嫁の弟、新郎にとっては義理の弟を参加させたことから記憶が欠落するほどの次の朝を迎え、新郎が行方不明になっているのに記憶が戻らない残りが右往左往する。要するに全ての元凶はザック・ガリフィアナキス演じるところの花嫁の弟だが、全体を通すと、（エンドロールで全てがぶちまけられるとは言え）バカには違いはないが予告の印象よりはおとなしめ。俺はこの監督の作品と言ったら「アダルト♂スクール」か「スタスキー＆ハッチ」および「恋愛ルーキーズ」を観た程度なので、随所に入る下品なネタや、主役の一人の恋人であるところの嫌な女といったホモソーシャル的要素が「アダルト〜」の傾向を強めたものに見えたが、語り口に謎解きとタイムリミット要素を加えて格段にメリハリをつけている。しかもヘザー・グラハムが「トゥルー・ロマンス」のアラバマや、「シン・シティ」の娼婦たちと同様、心身ともに最高のヒロインとして絡んでくるため、あくまで『“悪い女”が悪い』と言うだけで、決してミソジニーに陥っていないし、彼女のキャリア的にも「ドラッグストア・カウボーイ」や「ブギーナイツ」あるいは「ギリーは首ったけ」等にも関連し、結果的なブレ補正として全体に機能している。しかもこの展開でガリフィアナキスとロバート・ダウニー.Jrとの共演作「Due Date」を挟み、「The Hangover 2」が待機中だというんだから気になるじゃないか！

　一観客として「恐怖」へ。頭蓋穿孔術も想起させる“脳手術”、「洗礼」を想起させる“母と娘”、さらには「おろち」の代表的なエピソードでもある“姉妹”というキーワードが散りばめられている時点で表面上極めて“楳図的”であるが、さらに「うばわれた心臓」（『恐怖』の第一話）をも想起させるこのタイトルなので、ホラー的には明解な作品であるイメージを受けるのだが、実際はかなり違う。と言っても難解なのではなく、脳の一部を電極で刺激すると被験者が幽体離脱的体験をする部位があるという設定を導入したことによる、極めて野心的な物語なのだ。脳手術およびマッドサイエンティストと言えば、日本のスプラッター草創期の問題作「LSD-ラッキースカイダイアモンド-」も想起されてしまうのは止むを得ない。しかし本作の核心は、超常現象も、全ての恐怖（感情）も、感じるのは結局脳でしかなく、脳内だけの出来事かも知れないという疑義を呈するものなので、つまりは（“恐怖を感じる心”に訴えることで成り立っているはずの）ホラージャンルの解体を目指しているという意味では、手術描写そのものも案外マイルドである。ただし、劇中で触れられる「奴ら」とは何なのか、あるいは実験の果てに訪れる一貫した結果など、現実には再現できない実験であるだけに、ハッタリでも何らかの具体性ある描写が欲しかったのも事実。でもそこに一つの帰結を設けてしまったり、完全にホラーを脱構築してしまうと、今後の商売としてのジャンルが立ち行かなくなることが懸念されるため、高橋洋監督の内面における、ギリギリまでの職業人vs表現者としての葛藤、およびその過程が後半のカオスにも影響しており、重量級の見応えを残すのだ。今年の邦画で最重要な作品であることは間違いがない。

　一観客として「インセプション」へ。複雑だが難解ではない。挑戦的だがちゃんと娯楽している。案外すんなり頭に入るのは、それほど哲学的な問いかけが作中に込められていない、ということだ。そして個人的に驚きが足りなかったのは、俺自身が日常的に目にしている、仕事の邪魔をしてくる女、そして夢の中にあっても実在しないため、決して殺すことができない女についての物語だったからだ。そうしたファム・ファタール（主人公の妻）が非常に蠱惑的で鬱陶しく、彼女と共にある世界への解釈も贖罪意識が先行するので、とにかく前向きではないが、最終的には観客に委ねているから、各自勝手に考えればいい領域のもので、全体は理解しやすいのだ。また、既に死んでいる女に振り回される男という点では「シャッターアイランド」と全く同じであり、本作の一変種として捉えられる余地も残されているので、鮮度は落ちるかも知れないが、（スコセッシとノーランの示し合わせはなくても）より深く楽しめるようになっている。それに、本作は「ダークナイト」の褒賞として好き放題作った作品である。斬新で奇想に溢れた作品でもあるが、過去の作品の引用も多用されているため、その部分に気付けば“展開の意外性”に振り回されずに済む。そもそも夢の世界の物語なので、都市の奇形的な変容も「ダークシティ」同様、世界に記憶の隠蔽や無意識が介在しているという点では同じだ。さらに仮想現実ではあるが、本作の実存的主題に先鞭をつけた「マトリックス」における“赤いドレスの女”的に、ブラフとしての金髪美女（？）が登場するのは、当然ノーラン流の「マトリックス」への嫌味であったりと、楽しんで作っているのがその欲張りにも顕著なのである。だから詩・曲・タイトル共に物語全体に影を落とすエディット・ピアフの歌と、かつてピアフを演じたマリオン・コティヤールが妻に扮するという輻輳は、「ID4」にてクリントン風の大統領を演じた後のビル・プルマンに、リンチが「ロスト・ハイウェイ」にてサックス奏者の役を演じさせたようなギャグとして受け止めたい。なお、キリアン・マーフィーとトム・ベレンジャーの関係は「バットマン ビギンズ」のクリスチャン・ベイルとルトガー・ハウアーの関係を想起させ、“企業上層部の浅い人間像”が引き続き見受けられるのが難点だが、ノーランはマーフィーに袋を被せるのが好きらしく、その点も繰り返しているのに免じて不問に付す。しかし、全体を通して最も秀逸だったのは、エレン・ペイジの美しさであって、髪をアップにした彼女に、予告編の強面さで悪役に見えていた（が、実はそうではない）ジョセフ・ゴードン＝レヴィットが軽く接吻する場面がたまらなくキュートなのであった。 でもそのベタつかないキュートさって、本作では高尚になっちまって分かりづらいけど、芝居ながら階層構造（こっちは一階層少ない）も共に「恋愛戯曲」で先取りされてたんだよな。現実感には揺るぎはないが、こっちも奇しくも映画として近日公開なので、比べてみるのも一興ではある。[rakuten:holly-colle:10000108:image]