どん詰まりでもまだ観るものはあった段階の生活。

 アルシネテランさんのご招待で「隠された日記」試写へ。相手はいるのにシングルマザーとして生きるべきか?という、贅沢極まりない悩みを抱えたヒロインの取るに足らない現実が、帰省した実家にて発見した祖母の日記から類推される事実によって、文字通り暴力的に吹き飛ばされる。時代の偏見と拘束の中に生きざるを得なかった祖母(マリ=ジョゼ・クローズ)が、抑圧の中に情熱を湛え、その奔出により反旗を翻す過程が、同じように抑圧される立場としては一番共感を持って見つめることができる。ヒロインは祖母の残した日記を通し、彼女と同じタイムラインで対話することにより、自らの矮小さを克服していく。そして彼女に捨てられたという思い込みで屈折しながらも、五月革命を経験した世代として主人公の精神的土壌を牽引、かつ互いに自立しているが故に軋轢の絶えない母(カトリーヌ・ドヌーヴ)との和解の過程も丁寧に描かれる。クローズの節制の行き届いた人工的なエロスと、ドヌーヴの地に足の着いたエロスに挟まれたヒロインが、単なる生々しさからエロス的存在に昇華して行く予感の物語でもあるだろうが、ここは「ミュンヘン」であからさまな女スパイを演じたクローズによる、理想の(妻であり母でもある)女性像が持つケミカルな味わいに絞っても、視覚的だけでなく充分にその魅力が堪能できる。自由が抑圧されてきた女性の歴史を、一つの家族を通して振り返るという表面上のテーマ以外にも、支配の果てに予期できる行動に出る祖父の役を、「96時間」で素敵な人身売買オークションを主催していたオッサンに演じさせている点からも、監督は娯楽的な部分にも意欲的であることはそれなりに覗え、配慮の行き届いた作品。


 一観客として「ゾンビランド」へ。「ナチュラル・ボーン・キラーズ」のセルフパロディみたいなウディ・ハレルソンは確かに活躍する。しかし、一応主役は「イカとクジラ」やら「アドベンチャーランドへようこそ」の童貞役が似合うジェシー・アイゼンバーグなので、本質は同系列のボンクラ・コメディなのだ。要するにゾンビ映画の設定は借りているだけで、主役の名に反し「恐竜大戦争・アイゼンボーグ」のようなハードかつダイナミックな物語ではない。ガキが恐慌に巻き込まれているくせに色恋沙汰が核になってるような、現代風の小説やマンガと似たようなもので、ゾンビの登場する終末世界への愛が感じられないのだ。ただ、予告やキャストからオフビートなコメディのイメージがあったが、題材にゾンビを扱う以上、展開はアクティヴにならざるを得ず、ゾンビの撃退方法や数、世界の荒廃度合いなどの描写は意外に娯楽している。特にビル・マーレイが「ゴーストバスターズ3」の前振りのような登場(および退場)をするという、物語における一連の寄り道は、純粋にコメディとして素晴らしい。だがネットゲームに明け暮れ世界の荒廃に気づかない主役だけでなく、ヒロインも「スーパーバッド・童貞ウォーズ」における“童貞に都合のいい女友達”であったエマ・ストーンである。よって“童貞”や“消極的ダメ人間”を擁護する空気が全体を支配しており(その点だけでは彼女の美しさを観賞する邪魔にはならないが)、ゾンビ化した近しい人間を殺す苦悩や、またその反対も全く描かれず、あくまで能天気で都合のいい話なのだった。にもかかわらず散見される件の描写のせいで、事前情報なしにゾンビ映画マニアが観た場合、先の展開は読めないとは言えるけどね。


 一観客として「ジェニファーズ・ボディ」へ。ミーガン・フォックスが化け物になっていくのが見せ場のはずだが、大した化け物にはならない。というのも俺はエイリアン系(例:「スペース・バンパイア」)なら納得したのだが、現実感のない悪魔(結局オカルト映画だったのだ)というのは、個人的な物語成立のロジックが飲み込めないだけに、スムーズな賞味が難しかった。まぁミーガン・フォックスのPVだから、彼女で抜ける奴(エロいとは思うが俺は抜けない)には何の問題もないけど。まぁカリン・クサマの過去の監督作品である、「ガールファイト」や「イーオン・フラックス」を観ても、“女は笑顔を見せずに暴力を振るっていれば美しい”のは分かりきっているが、発見としては、アマンダ・セイフライドは笑わない方がもっと魅力的である。ただ彼女の役柄自体が本作においてはフォックスの引き立て役なので、彼女のシリアスな顔だけを堪能したければ、次の「Chloe」に期待するしかない。それでも単純に学園モノとしての不発感が高い描写の中、セイフライドが彼氏と一緒になってゴムを装着したりの青臭い描写には、「俺にもこんな時あったな…」なんて、個人的にはオッサン化という衰え感覚ではなく、人生という四季の切り替わりが確実に感じられた意味で評価できる。しかしフォックスはポルノ女優にしか見えないので、ゲロ描写は素晴らしくとも、学生役にはもう無理があり、次回作の「Jonah Hex」での、“売春婦崩れの賞金稼ぎ兼エクソシスト”という役の方が本気汁が滴って見えるな。ミュンヘン スペシャル・エディション (2枚組) [DVD]ポーラX [DVD]潜水服は蝶の夢を見る [DVD]96時間 [DVD]ナチュラル・ボーン・キラーズ ディレクターズカット スペシャル・エディション [DVD]イカとクジラ コレクターズ・エディション [DVD]アドベンチャーランドへようこそ [DVD]円谷プロ 特撮メカニック大全[SFドラマ篇] [DVD]ゴーストバスターズ コレクターズ・エディション [DVD]ゴーストバスターズ2 [DVD]ゴーストバスターズ  MD 【メガドライブ】スーパーバッド 童貞ウォーズ コレクターズ・エディション [DVD]ジェニファーズ・ボディ (完全版) [DVD]スペース・バンパイア [DVD]ガールファイト [DVD]イーオン・フラックス スタンダード・エディション [DVD]