EDじゃなく谷間の必然的事実。

　アルシネテランさんのご招待で「デイブレイカー」試写へ。地上が吸血鬼に制圧され、その社会や文化が確立している点で「流血鬼」のその後とも言える物語である。曲者ゾンビ映画「アンデッド」の監督のメジャー進出作であるため、その個性的なビジュアルや世界観は一見コミカルな要素を交えながらも通低している。海外版予告では、吸血鬼を主役とした「コンスタンティン」風ハード・ボイルドの印象だったが、イーサン・ホーク扮する主人公は絶滅危惧種となった人類を思いやる、吸血鬼にしては心優しい研究員なのであった。彼が勤務する血液生産工場（人類貯蔵庫）は人類の減少により、機械文明が人類を生体電池化した「マトリックス」的ではあるがより切実で、吸血鬼世界が10年程度で退廃期を迎えているのが分かる。血液（人類）の欠乏に加え、本作で吸血鬼は血を与えることで子孫を増やせず、渇きから同族の血を口にすることで奇病のような亜種が誕生する現象が蔓延しており、共食いの抑制と共に代用血液の開発が急がれているのだ。主人公は人間の抵抗組織と偶然接触するが、そのリーダーはかつて吸血鬼で、そこから人類に“治った”というウィレム・デフォーなのだった。吸血鬼時代のデフォーを濃密に描いてしまうと、「シャドウ・オブ・ヴァンパイア」になってしまうのでアッサリだが、車の趣味はいい。主人公の上司でありながら強欲なビジネスマンであるために敵対していくサム・ニールが「ブレイド」のウド・キアー風なので、近年の吸血鬼〜ゾンビ系作品を押さえている向きには非常に楽しく“If...”の世界を見せてくれる。二ールの娘で人類側の一員でもあるイザベル・ルーカスは、ほのかに「ブレイド3」のアビゲイル風。反捕鯨活動なんかしている暇があったら「トランスフォーマー/リベンジ」同様この手の映画に出るべきだ。それにしても驚天動地のラスト（の描写力）とその潔さには感心したので、監督にはこの調子で“斬新な世界観の表出”へのチャレンジを続けて欲しい。

　一観客として「The Men Who Stare at Goats」へ。ソフト化の際に作品が改題されることはあるが、本作も恐らく改題される、というか改題されて欲しい作品。なぜなら、現時点の邦題ではなく、単純にケヴィン・スミス作品や「ファンボーイズ」系列の「スター・ウォーズ（以下『SW』）」に入れ込んでるコメディとして宣伝した方が、映画にとっても観客にとっても良いのは明白だからだ。と言っても“入れ込んでいる”痛い奴が作品に大量に出るというよりは、観客が自信の入れ込みようで笑える度合いも変わるタイプの作品で、宣伝はそれを間口が狭いと判断したのだろうが、改題しても内容が変わるわけじゃない。一応実話と銘打った物語は、米ソの冷戦を発端として、“MKウルトラ計画”に絡んだ“ニュー・エイジ思想”と「SW（絵空事）」が、対イラク戦争にまで影響を及ぼしている危険性（馬鹿馬鹿しさ）を元ジェダイ、ユアン・マクレガーの目を通して指摘しているものだ。そのニュー・エイジ的部分を一手に負ったマスター、ジェフ・ブリッジスの、「クレイジー・ハート」の先を見越したようなヨレヨレ路線（「トロン」もこの系列）の継続、そのブレなさには頭が下がる。そのせいでダークサイド側の超能力者、ケヴィン・スペイシーがジョン・タトゥーロに見えてくるため、ジョージ・クルーニーの起用やデザイン、全体のオフビートさなども含めて監督のコーエン兄弟からの強い影響が窺えるが、変に突き放しておらず不徹底だ。しかし特に対イラク戦争はこう茶化さないと描けないほど大義のない戦争である側面は否定できないので、その点も「スリー・キングス」や「シリアナ」を意識したクルーニーが役立って、「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」系列の笑いに貢献しているのだった。「SW」とは関係ないが、戦争の愚劣さの一端を担っているブラックフォレスト…もといブラックウォーターもどき（「Aチーム」の影響が…）で奮闘するロバート・パトリックの活躍は高ポイントだ。