暴力性の抽出作業、環境の暴力性。

　ギャガさんのご招待で「KISS&KILL」試写へ。「トゥルーライズ」をよりコメディ寄りにしたような話（ドラマ版もこうなる？）。だから夫も一応政府系エージェントであったと仄めかしてはいるが、国家レベルの危機までには騒動は拡大せず、賞金首として追われつつ犯人を捜す物語なので、原題は「KILLERS」である。また、「トゥルー〜」と違い夫は既に足を洗っているので、女が身勝手に怒っているだけの痴話喧嘩もそれほど深刻ではない。だから同一題でも、ドン・シーゲルの「KILLERS（殺人者たち）」のような展開を期待できるはずもないが、それでも「暴走パニック大激突」みたいなカーチェイスなど、そこそこの暴力描写でためらいなく死が描かれ、スルーされるのは意外であった。しかも、「私立探偵マグナム」ことトム・セレック演ずる舅という分かりやすい伏線も用意され、随所に大袈裟な銃やらタントーも出てきて見た目には楽しい。しかしコメディとして家族の話に無理に落とし込むため、本当はエージェント同士の序列や標的の奪い合いを巡る、「殺しの烙印」だとか「スモーキン・エース」的な動きは犠牲にされているので、世界観は不透明なままで、最終的な敵がいないのは、題材の割には残念。それでも一応、「ハングオーバー!」のスタンガン警官による包丁での実践的なナイフワーク（「キル・ビル Vol.1」vsコッパーヘッド戦の影響下にある描写）や、近所の住人が豹変して銃を乱射するのは、「バトルランナー」の原作のような不穏さを湛えていたと言えなくもない。また、「リンガー！ 替え玉選手権」や「無ケーカクの命中男/ノックトアップ」のキャサリン・ハイグルは、一般人の役として暴力に訴えない演技に徹しているが、その骨格の美しさが堪能できるという点においては絶対の保証ができる作品。　　　

　一観客として「超強台風」へ。事前情報通り肝心のカタストロフはミニチュア多用しており、緻密ながらもやはり軽い。しかし画期的なのはそこに人を足す合成が試みられているので、往年の日本の特撮臭はやや軽減され、奇妙な味わいとなっている。他に日本の特撮との差異については、リアリティの追求なのか、全編に渡ってとにかく水が汚いのが気になり、これだと台風が去った後の疫病等の被害についても心配してしまう。結局見どころは太っ腹にも予告で全て公開しており、大神源太似の市長の活躍と（サメ等の）あり得ないディザスター描写と、中国の国策映画の割りにはサービス精神を発揮していて、人がロクに死なず、司令室からミニチュアを見ている間接パニックでありながらも頼もしい。ただ、娯楽としては緊急時の救命行為に関して、医師免許の有無で延々揉める描写が鬱陶しく「それだけ我が国は普段から法令遵守している」とでも言いたげである。後はやはり体制が根本的に違う国の娯楽作品で、前後のクレジットが異様に淡白である点に関しては、「プルガサリ」と同様の匂いを感じたのであった。それにしても劇中登場する出稼ぎ労働者のファッション（ダブルの上下にポロシャツ、キャップ）も凄まじいものがあったが、当日映画館に来ていた観客の一人も、現実に日本にこんな人間がいるのかというファッション（ケミカルウォッシュのGジャンとGパンの上下、前髪を降ろした汚い長髪、キャップ＆ポロシャツ）で、映画級のインパクトを残した。

　一観客として「パンドラム」へ。こけおどしに過ぎなかった「イベント・ホライゾン」の消化不良を晴らそうとしてか、ポール・W・S・アンダーソンが製作に回ってまで再び手掛けた、オリジナルのSFアクション（「ソルジャー」は純粋オリジナルじゃない）。正直もう薄っぺらい「バイオハザード」関係はどうでもいいから、こういう骨太な作品を待っていたのだ。これはなぜかアメリカ公開と同時に「ケース39」が速攻日本リリースされている監督の手柄の可能性も残るが、「やればできるじゃないか！」と言いたい。しかも驚くべきことに広大な宇宙船を舞台にした、人為的な「オフシーズン」というか、要するに食人族モノなのだ。よって結局は“人災”に由来する物語であるため、単にクリーチャーの造形に工夫がない不満点はあるものの（仄かに「ゴースト・オブ・マーズ」風ルックス）、“エンジェル”ことベン・フォスターの悪党面も頼もしく、全体的に垢と粘液に塗れた新しいタイプの汚し方と意匠に溢れ、さらに閉塞感が強いので、珍しいドンデン返しによるラストがまさにカタルシス。中でも重鎮となるデニス・クエイドは、確かな演技力よりも豪腕アクションに驚かされたし、ヒロインを演ずるアンチュ・トラウェの、いくら汚しても隠し切れない美しさと暴力性が素晴らしい収穫である。その上、館内に漂う加齢臭と歯周病臭が、いきなり状況把握不能な冷凍睡眠から覚まされ、不安と汚辱に右往左往する登場人物たちの心情に重なったからか、“「処刑人」弟”こと、ノーマン・リーダスが何もせずとも、特に不満を感じず観終えられたのだった。[rakuten:tokkai:10007335:image:small]