「おれの恋人はまんがや!」って言う人もいるけど、俺は?

 アルシネテランさんのご招待で「リミット」試写へ。ソウル・バス風のタイトルバックにCGを交えた立体的なデザインは、本作でもって新世代のヒッチコックとなりたいという監督の決意表明なのか、願望なのか。生き埋めになっているアリの巣の断面のような地下を表現したポスターなどからも分かる通り、(「救命艇」のように)ワンアイディアで押し切るという宣言は既になされているので、その達成が出来るのか否かだけでも単純に楽しめたし、埋められた棺桶という、本来の俺なら閉所恐怖症で堪らなくなるシチュエーションでも、縦横無尽のカメラワークによってさほど息苦しさを感じなくて済んだという点も画期的。従って件のヒッチコック絡みの大風呂敷については、俺は単にこれから頑張って欲しいと思ったね。そもそも隙間から砂が落ちて来たり、動物が移動をできる程度の土砂の密度なら、ポスターに描かれているほどの深さではなく、棺桶の蓋さえクリアできれば、「キル・ビル vol.2」と同じく脱出可能である。しかしそれでも本作は(「ライフポッド」のように)ワンシチュエーションが売りなので、マッチョな役柄が多いライアン・レイノルズ主演でもなかなかそうは行かないのである。この緊急時ほどそれを察知できない仕事モードの人間と、バッテリーの少ない携帯で話すほどイラつくものはないし、それを逆手に取った犯人側の邪悪なオーダーも完全に一枚上手で、「結局、人間同士が言葉などという頼りないものを媒介して分かり合おうとしても無理!」と言わんばかりのシナリオのニヒリズムや、人間の孤独が浮かび上がる深さ。釘付けになってもまだ話し合える人間がいるだけ、「フォーン・ブース」の方が優しく思える、(設定面も含め)ハードコア版ソリッド・シチュエーション・スリラーと言ってよい。でも、俺は目に砂が入る描写は嫌いなので、それはいただけなかったけどね。


 一観客として「TSUNAMI -ツナミ-」へ。韓国映画なのでそれを求めるのは酷だろうが、内容が内容だけにソル・ギョングの役はジェット・リーでも良かった気がする。しかし主人公が「公共の敵」などに代表されるソル・ギョングらしいダメ人間だからこそ、被災に至るまでの人間描写の積み重ねが、退屈になるどころか説得力を持って時間を割けたというのはある。よって最大の儲け役、ハ・ジウォンの可憐さも際立ち、初登場で無残な整形顔を晒して場をさらうオム・ジョンファは、その娘が「チェイサー」の超美少女、キム・ユジョンなので見事に娘を立てることに貢献している。しかも終盤やってくるディザスター描写では、豪快に一次被害・二次被害での死屍累々を躊躇なく描いているので、その衝撃で重度にメスの入ったその整形顔も崩壊するのではないかというスリルまで味あわせてくれるのだから、いじりすぎて全編不自然な表情でも合格なキャスティングだ。 ただし、その退場がただの「ディープ・インパクト」の引用というのはいただけない(せっかくハ・ジウォンのような綺麗どころを出してるのに!)。こうした誰もが自力での生存が見込めない状態において、救助の際、子供や妊婦(どちらも未来がある)を優先するというのは止むを得ないが、何でもないただの女が優遇されるのは、韓国故のマチズモに満ちた男性差別描写だと思いたい。「タイタニック」などは意識の低い、頑迷な時代の話なので仕方がないが、生命を軽視される男同様、ただの女もこうした極限状況下では生命は平等に無価値である。同じ場面において、キム・ユジョンちゃんの功績から“泣きまくる子供描写”としては「八仙飯店之人肉饅頭」レベルのクオリティを誇っているという点も見逃せない。


 一観客として「ガフールの伝説」へ。初めて3D映画で赤青以外の偏光メガネもらった、嬉しいな!というわけで鑑賞した作品の飛び出し具合はザック・スナイダー作品だけあって、3D映画鑑賞史上初めての経験をしたのだった。それは水や火の粉といったこちらに飛んでくる飛沫に対して、初めて目をしばたたいたということなのだが、小手先の表現においては些少ながらも大きな3D体験としての進歩は味わった。では映画としての作品という観点ではどうだったのかというと、俺は全く原作は未読ながら、実はポール・バーホーベンの原案による「ダイナソー」は言うまでもなく、ジョージ・ミラーによる「ベイブ」や「ハッピー・フィート」など、動物が主人公の話はバイオレンス系作家との相性を感じており、なかなか期待していたのだ。しかし本作の内容は全く別もので、上述の作品群があくまで主人公となる生物の生態に即した行動原理や世界観を持っていたのに対し、こちらは人間の文明が滅んだかなり後の時代を舞台としているので、フクロウ自身が火を使うことも出来れば鍛造も出来るという設定なのだ。従ってそのテクノロジーをかつて人類が闘鶏(や闘犬)などに利用したように、自分たちの武装に向けて生かしているので、原作ファンと子供以外はファンタジー的な受け入れ体勢がなければ、不条理過ぎてキツいだろう(文字や楽器まである!)。だが、フクロウならではの空中戦に見られるスローを多用した演出や、押し殺してもにじみ出る暴力性は紛れもなくザック・スナイダー節だが、暴力の結果や傷痕程度のものも視覚表現することを避けているので、ヌルさは否めない。配役関連では、「デイブレイカー」に続き、サム・ニールのゲテモノ仕事が光り、ヒロインの声を担当する、愛しのアビー・コーニッシュは確実に「Sucker Punch」への前振りであり、そう考えただけで来年に向けてガマン汁が滲み出してしまう。まんが道 (1) (中公文庫―コミック版)救命艇 [DVD] FRT-108キル・ビル Vol.2 [DVD]ライフポッド [DVD]ブレイド3 アンレイテッド・コレクターズ・エディション [DVD]スモーキン・エース [DVD]フォーン・ブース [DVD]公共の敵 【韓流Hit ! 】 [DVD]チェイサー ディレクターズ・エディション【初回限定生産2枚組】 [DVD]ディープ・インパクト [DVD]タイタニック [DVD]八仙飯店之人肉饅頭 [DVD]【Amazon.co.jp限定】 ガフールの伝説 Blu-ray&DVDセット 外付け予約特典キャラクターぬいぐるみ付き [ 550個完全数量限定 ]ダイナソー [DVD]ベイブ 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]ベイブ/都会へ行く [DVD]ハッピー フィート [DVD]キャンディ [DVD]