この呪わしい日の意味（記憶）を中和してくれた友に。

　あいつも生きていれば、俺と同じ意味のある夜を過ごしているはずだが、俺のためではないにせよ、その存在で別の意味をくれた友人に思いを馳せることに、またその時間が許されることに、失われた友にはもう会うことができないが、感謝したい。

　一観客として「ナイト＆デイ」へ。俺はキャメロン・ディアスのアップやフェティッシュな接写が観たいだけだ。これまでも「チャーリーズ・エンジェル フルスロットル」のロデオシーンでよく見える腿の肉割れまでも一筋に愛して来たのだ。周囲では「彼女が劣化した」とか抜かす声も時折聞いたが、俺的には単に魅力が増しているだけなのであって、全然オッケーなのだ。という事は逆に、「ベガスの恋に勝つルール」に苦言を呈している様な向きにはお気に召さないはずである（裏を取るほど“最低評論家”に言及する気はない）。その意味では彼女が画面に映り込んでいるだけで俺には至福なのだが、悪役とはまた違った、“腕の立つキチガイ”を演じているように期待させておいて、やっぱりただのトム・クルーズ映画なのだった。要するに予告で分かる通り、一言で言えば、軽めの「ミッション:インポッシブル」番外編の域を出ていないのだ。実際セルフパロディのつもりなんだろうし、例のシリーズを想起させるシーン（あるいは「カナディアン・エクスプレス」、「暴走特急」、「ディレイルド」、「ウォンテッド」系）なども視野に入れつつ、クルーズはオリジナル以上に身体を張っているわけだが、ネタが割れてしまえば陳腐この上なく、開き直ってもっと馬鹿馬鹿しさが欲しかった。その意味ではポール・ダノには救われているものの、ピーター・サースガード（グラサンだとキーファー・サザーランド似）を悪役にしてしまうのは「フライトプラン」の二番煎じでもったいない。結局ここで扱われているトラブルが理知ではなく直接的な暴力でしか解決できないという点に限界があるのだ。しかし、タイトルに通じる存在（！）を見守る姿に“結局トム・クルーズも人の子”という印象操作にはやや効果はあったが、やっぱり不孝者だな。　　

　一観客として「エクスペンダブルズ」へ。スタローン映画を観続けて来た人間にとって、御大自らがここまでのお膳立てをしてくれるからには観に行かねばならず、ましてその出来不出来をとやかく言うものではないので、作品については多くは語らない。というか観たままなので、御大のティアドロップに「コブラ」を、ベレーに「デモリッションマン」がフラッシュバックした程度で、内容についてそんなに語るべき事柄が見当たらない（語るべきでもない）が、本作の原型は恐らくパナマを舞台とした幻の「ランボー4」のボツ脚本である。加えて、本来ウェズリー・スナイプスが“当て書き”されていたというキャラを演じる黒一点、テリー・クルーズは、思い当たるところだと、「26世紀青年」における、“プロレスチャンピオンとポルノ男優を兼業している未来のアメリカ大統領”を代表として、体格に似合わずコメディ色の強いキャリアだったのだが、今回ようやくマッチョな持ち味を発揮。しかもフルオートのショットガンを愛する男という、素晴らしい特典も与えられている。また、誰もが語るであろう、本来の見どころは省き個人的な観点を抽出するなら、ランディ・クートゥアが想像以上に台詞回しと深みのある存在感で泣かせ、ミッキー・ロークはやはりもうその面構えだけで泣かせ、ドルフ・ラングレンは（vsジェットの）好カード設定のためにトリックスターを演じ泣かせる。後は破壊と暴力に笑うだけだ。ただし、シンプル過ぎて環境映像に近い凝縮された時間であるため、普段から野郎同士でで「エクスペンダブルズ」的な会話をしていない奴は理解できないであろう点は懸念される。つまり逆に同性でこうした会話をしているなら女だって楽しめるのは間違いないのだ。劇場が野郎で埋まっているのは案の定だったが、野郎同士で来ている奴はいても構わないが劇場内の「エクスペンダブルズ」濃度が高くなり過ぎるため、皆無だったのはやや安堵。こうした映画は独りで闇の中、己の魂に火を点し、外部の雨風によって消えないよう、そっと持ち帰るのが粋ってもんだからな。その意味では今回の観客の皆さん全員、さすが先輩方だけあって、心得ていらっしゃったのであった。