若さと少数派の反逆、腐敗と体制側の暴力。

 クロックワークスさんのご招待で「ランナウェイズ」試写へ。これは単に俺が個人的に苦手としているだけで本来は賞賛すべき露悪性なのだろうが、滴り落ちる経血で幕を開けるという辛いオープニングである。俺は時代的にリアルタイムで経験していないが、ボーカルの自伝を素材にギターが製作となり作られたバンドの伝記映画だけあって、前記二人のメンバーのエピソードが中心となっている。音楽プロデューサーが中心となってメンバーが集められた即席バンドにしても、彼女たちが当時の男社会やロックシーンに対して抱いていた怒りがちょうど良く融合し、危うげながらもバンドとして開花し、即席ゆえにやがて解体していく過程が描かれている。また、作られたバンドゆえの葛藤やメンバー間の確執を交えつつ、ロックの基本はどこまでも“怒り”と“反逆”でなければならないことが、バンドを組ませたプロデューサーによって強調されており、そうした激情は若い人間が社会に向けて発してこそ意味があることも良く分かる。なぜなら彼女たちの出現により世界は結果的に少し変わったのだし、その顛末がこうして映画になり、同時代を生きた人間からのある程度の共感を見込めるだけの歴史を持っているということが、彼女たちが時代を撃った(単なる自画自賛ではない)証だ。そして予め去勢された現代の、特に去勢が徹底しているためにロックが育たないこの国でも、最も必要とされている感覚なのだ。そして前述のように本作はダコタ・ファニング(ボーカル)とクリステン・スチュワート(ギター)主演作に留まらない美少女映画で、中でもドラマー役だったステラ・メイヴの70年代実在感が群を抜いて生々しかったため、彼女の起用は「ブギーナイツ」におけるマーク・ウォールバーグに匹敵する収穫であると断言しよう。


 一観客として「クロッシング」へ。何の映画か分かりにくいが、スタッフ&キャストが並んだ時点で佳作とは分かる。しかし「ノトーリアス・B.I.G.」もソフト化されただけに「Brooklyn's Finest」の原題を残して欲しかった。本作はアントワーン・フークア作品に「トレーニング・デイ」以来、その後日談のようにイーサン・ホークが復帰し、西ではなく東を舞台としている点が原題も含めて重要なのだ。フークアが手掛けた「トレーニング〜」シナリオ担当のデヴィッド・エアーは、後にエルロイ原案の「ダーク・スティール」のシナリオを手掛け、ついにはそのコラボの延長として「フェイクシティ ある男のルール」を監督するに至った。つまり本作でフークアはエアー抜きにエルロイ的な境地へ挑もうとした野心作であり、しかも現代を描きながらその独自性に東を舞台としたという、大変に志のある作品なのである。だが志の高さが良し悪しに反映されるかと言えばそうとは限らず、東を舞台とした組織の腐敗では「コップランド」に及ばず、エルロイの関わるエアー作品に対しては情念の点で及んではいない。それでもリチャード・ギアやホークの腐敗をやり過ごす疲労感はもちろん観るに値するし、東だからこそ、「ニュー・ジャック・シティ」の“If?”を思わせるウェズリー・スナイプスの登場は、その「ジャッキー・ブラウン」における“ルイス”の服役ボケに相似するズレ具合も相まって、作品全体を引き締めた(“ほほえみデブ”もいるよ!)。とはいえ本作は、三人の警官を並列的な主人公としながらも各自が孤立しており、各エピソードの進行をそれぞれ意識していない点が問題なのである。それが巨悪に収束せず、偶然の結果三者が居合わせてしまう点で、せっかく意識したエルロイではなく、警官版「クラッシュ」になってしまったのが心底惜しまれるのだ。それにしてもドン・チードルは「トレイター 大国の敵」といい、潜入捜査官づいているのは本人の意向なのか気になる。Live in Japanブギーナイツ [DVD]ノトーリアス・B.I.G.(特別編) [DVD]トレーニング デイ 特別版 [DVD]ダーク・スティール [DVD]フェイク シティ ある男のルール<特別編> [DVD]コップランド [DVD]ニュー・ジャック・シティ [DVD]ジャッキー・ブラウン [DVD]フルメタル・ジャケット [DVD]クラッシュ [DVD]トレイター 大国の敵 [DVD]