殺し合いはフィクションだけの自由だから。

　一観客として「クレイジーズ」へ。いきなり「博士の異常な愛情」の結末に目配せした出だしで、物語の結末がオリジナルを知らない人にもうっすら予感できるよう配慮が効いている。実際全体的にもロメロ作品のリメイクという敗色濃厚な素材を、ディズニーCEOのボンクラ息子ながら監督は、前作の轍を踏まずに意外にも健闘していた。というのも作品自体が今ではポピュラーな“細菌パニック”というジャンルに分類できることで、オリジナルの元ネタである「処刑軍団ザップ」はもとより、近作でも「28日後…」あるいは「キャビン・フィーバー」シリーズや、「フェーズ6」などの類似作品の研究により充分にブラッシュアップできる素材だ。加えて、恐らく前例としてのロメロ作品のリメイク、しかも成功作の「ドーン・オブ・ザ・デッド」を意識することから勝機を掴んでいる可能性が俯瞰描写の多用、視点の整理など随所に窺える。従って今回は襲われる一般人側の物語に絞られるが、牽引するティモシー・オリファントとラダ・ミッチェルはいずれもゲームの映画化（「ヒットマン」＆「サイレントヒル」）を経験している俳優なので、パニックの裏のゲーム的な陰謀の標的にはもってこいだ。特にミッチェルは並行して出演している文芸作品でも見せる深い感情表現が、作品の迫真性に一役買っている。また、今回の感染者はコミュニケーションや機械類の操作、連係プレイにも長け、邪悪さにおいてオリジナルを凌駕しているため、冒頭仄めかされる幕引きに向けての説得力も増すというものだ。この衝撃がオリジナルでは「バタリアン」や「AVP2」などに代表される“権力の横暴による強引な決着”に示唆を与えているので、今回その暴力的な対処を具体的に見せることで、一応作品のテーマとしては一貫し、不快感が快感であった。

　一観客として「GAMER：ゲーマー」へ。要するに「バトルランナー」であり、「デスレース」であり「監獄島」である。ではどこに新機軸があるかといえば、殺人ゲームに参加する囚人の脳にチップを埋め込み、一般のゲーマーがタイトル通り操作する点にある。だったらテクニック面はコントロールしている側に委ねられるはずで、単純に囚人に求められるのは肉体の頑強さだけであればいいと思われるが、どうもそうではないらしい上に特に説明もないため、元軍人（という設定）のジェラルド・バトラーが勝ち抜いている現状。また細かい部分で整合性はない割に、「WALL・E/ウォーリー」や「サロゲート」的な、仮想世界への逃避批判がまぶされていて、一応「アドレナリン」シリーズより教訓っぽい要素はある。しかしこの監督コンビはカメラマン出身だけあって、相変わらずその“見せ方”にこだわりを見せたがり、カメラワーク、演出、編集ともに相変わらずバタバタと画的に激しいのである。極みは後半いきなり始まるミュージカル場面で頂点を迎えるが、話の作り込みの足りなさと相俟ってとにかくもったいない。それも、ゲームの主催者（開発者）が“デクスター”だったり、その走狗としてバトラーの邪魔をする囚人テリー・クルーズ、非人間的なイベントに反対する集団の構成員にアリソン・ローマンやリュダクリスと、従来の作品に対しキャストの顔ぶれの質が上がっており余計にそう思うのだ。それでも、イベントをプッシュしているように見える番組のホスト、キーラ・セジウィックのキャラが不明確であるため、ゲーム転覆に話は向かうが、「バトル〜」のように社会転覆には向かわないので、実質スケールダウンしているのだった。だが、バトラーでプレイするゲーマーに“パーシー・ジャクソン”ことローガン・ラーマン君が扮し、現在ピークを迎えている美少年ぶりを見せているので、この贅沢さともったいなさは充分納得できるけどね。[rakuten:geoeshop:11301883:image:small]