昨年の総括および“残り汁”。

1.「(500)日のサマー」
2.「渇き」
3.「ブルーノ」
4.「アウトレイジ
5.「サバイバル・オブ・ザ・デッド
6.「恐怖」/「インセプション
7.「キックアス」
8.「ヒーローショー」
9.「2012」
10.「エンター・ザ・ボイド


 一観客として「トロン:レガシー」へ。前作ありきであるのはもちろんだが、結局その発展形であった「マトリックス」ありきになってしまっている。もちろん3Dで鑑賞することを前提に作られている点では一応考えられているのだが、差別化を図ろうとしているのかビジュアルは単調で、本来続編であるならオリジナルで突っ込みの甘かった哲学性も発展させなければならないところだが、その辺はは意図的に完全無視。しかも実質リメイク?と言ってもいい平板な作りである上、前作における最重要キャラの扱いはあんまりである。唯一の収穫といえばオリジナルで大した働きをしなかったヒロインが、今回“トリニティ”的に進化したのが存在としてのヒロイン、“クオラ”なのだとは言える。しかし彼女のキャラクター造形やファッションにおいての魅力でしかないので、生のままの女優として考えると魅力的なのかは疑問だ。それでもやはり、男には、「タイタンの戦い」にも登場した、“イオ”のような守護天使が必要であるというメッセージは、曲解ではあるが俺にはビンビン伝わって来た。まぁ通常、それは大抵男にとっては、人生の始めにおいて母親という形を伴って現れるが、もちろんそれが女でなければならないことは全くないので、俺も探し、待ち続けなければならないのだろう。一応今回のジェフ・ブリッジスのダークサイドが、若返った姿として登場し物語の暴走を促すので、「ベンジャミン・バトン」→「T4」→「サロゲート」に続く若返りブームの系譜における最新型のビジュアルなんだが、これが微妙極まりないのは辛い。また、なんだかんだ言って一番の問題は、ブリッジスが「革命的な発見だ!」とか散々言っていた割には、世の中は何も変わっていないので、さらにその続きを世界観として観せなきゃ嘘だろ。


 一観客として「レバノン」へ。軍事機密から戦車内を精密に見せられない事情があるのに、戦車内を舞台にしてしまっているので、その穴埋めに画面や台詞が説明過多になり、限定空間を成立させるための設定としての戦車内という意味合いを殺いでしまっている。また、レバノン侵攻が虐殺であるということが「戦場でワルツを」によって広く知られた後なので、兵士たちの言い訳に見えてしまう。さらに非人道的な兵器と誤解されている“白燐弾”についての一連のデマを作り手が鵜呑みにする形で、イスラエルの側の言い訳に使われてしまっているので、公開のタイミング的な不幸だけでなく、考証的にも甘いと言わざるを得ない作品。


 一観客として「キックアス」へ。この作品の素晴らしい部分は既に多方面から指摘されているので多くをここで語る必要もないだろうが、ジョン・ウーのデビュー作品について言及した上で、マフィアの情婦に、ウーのハリウッドデビュー作である「ハード・ターゲット」のヒロインである、ヤンシー・バトラーを起用している時点で、ウー作品への愛が炸裂している。日本公開において扱いが迷走している「Scott Pilgrim vs. the World」の原作にも軽く触れている時点でかなりの確信犯だ。しかもそのそばに佇むソフィー・ウー!本作から俺の中ではソフィーといえばマルソーではなく、ウーと間違いなく言ってしまうほどの衝撃の美少女ぶり。さらに美しいと言えばセンズリ描写と冴えないルックスの役作りで熱演していた、主役であるところのアーロン・ジョンソンの美少年ぶりも凄まじく、物語の重要なキーワードが“センズリ”である点を差し置いても、その着眼点の偉大さと彼の美しさが妙に頭に残る。そしてさらにセンズリ(=キンタマ)と来たところで唐突に断言すれば、ヒットガールにも、女優クロエ・モレッツにも、奇しくも同じ劇場で観劇することになった成海璃子ちゃんにもタマはある。彼女たちはみんな、近日上映される「ランナウェイズ」でも度々クローズアップされる、ジョーン・ジェットのメッセージを、単に本作でも劇中曲に使われているというだけでなく、その発言の真意を裏付ける素晴らしい存在なのだ。2月に閉館となる劇場への弔いという点でも行くべし!


 一観客として「モンガに散る」へ。台湾独特の(チンピラにユーザーの多いといわれる)ビンロウの赤い唾がビチャビチャに画面に吐き出され、クレジットの文字の形を成していく。初めは単なる赤色に過ぎないが、物語を貫く非常に印象的な色であることが「散る」というタイトルの意味とともに後々分かってくるように、やたらと粘度が高くリアルなウンコにたかるハエや、殴られて飛び散るフケ、刺されて背中に突き出るドスや血しぶきといった具合に、CGの非常に独自の使い方が、「直撃地獄拳・大逆転」ばりに大きなインパクトを残す。南国の湿度の高い暴力描写とほのかに同性愛的な青春群像が、時間にしてコンパクトな「沖縄やくざ戦争」レベルの体感をもたらすが、実は140分超えの大作なのだった。外省人組織の進出により、本省人組織の気風までもが脅かされつつあった80年代を舞台に、(ガキならではの愛情に近い)濃密な友情と、(チンピラならではの損得に塗れた)離反が紡がれていく。キッチリその中にも童貞喪失関連のエピソードが盛り込まれているあたりに非常に好感が持て、かつヒロインは主人公共々薄幸な出自。さらに芦名星似の彼女は、俺が別に芦名星が好みではないにも拘らず“青あざ”というルックス上の欲情ポイントを抑えているため、まるで「はだしのゲン」を彩ったヒロインたちのように心奪われてしまったのであった。(500)日のサマー [DVD]渇き [DVD]bruno 完全ノーカット豪華版 [DVD]アウトレイジ [DVD]サバイバル・オブ・ザ・デッド [DVD]恐怖 [DVD]インセプション [DVD]ヒーローショー [DVD]2012 スタンダード版 [DVD]エンター・ザ・ボイド ディレクターズカット完全版 [DVD]トロン [DVD]マトリックス 特別版 [DVD]タイタンの戦い 特別版 [DVD]ベンジャミン・バトン 数奇な人生 [DVD]ターミネーター4 コレクターズ・エディション [DVD]サロゲート [DVD]ハード・ターゲット 【ベスト・ライブラリー 1500円:サスペンス特集】 [DVD]直撃地獄拳 大逆転 [DVD]沖縄やくざ戦争 [DVD]〔コミック版〕はだしのゲン 全10巻