アジア映画に残された爪痕の数々。

　松竹さんのご招待で「唐山大地震」試写へ。このところ「女帝［エンペラー］」であるとか、「戦場のレクイエム」といった、重厚な大作中国映画を手掛けているフォン・シャオガン監督の作品だけあって、原題もそのままなタイトルほど禍々しいものではなく、かつて俺は小学生のとき、調布市グリーンホールで鑑賞した、チャールトン・ヘストンの「大地震」のようなディザスターではない。こう言い切ると語弊があるが、凄まじい歴史的な大地震描写は冒頭にいきなり起こり、それによって散り散りになった家族の、以後数十年にわたる再生物語なのだ。そういう意味では人間ドラマに重きを置いた積み重ねの末に、溜めて溜めてカタストロフィが発生したことで記憶に新しい「TSUNAMI-ツナミ-」の逆の手法を取ったといえば分かりやすいだろう。死体置き場で息を吹き返し、記憶も失われたために、救援活動に当たっていた軍人夫婦に引き取られるヒロインが、「プロテージ」のジャンキー女、チャン・ジンチューという、薄幸そうで非常に説得力のある、しかも可憐さも併せ持つルックスの女優なので、並行して描かれる生き別れとなった残りの家族のドラマよりも、彼女のその後の人生や養父母との交流に感情移入してしまった。彼女の養父母が、父親は小池朝雄似、母親は「王妃の紋章」におけるチョウ・ユンファの元妻という、朴訥な人柄がにじみ出るような人選であるため、その後の現代中国への風俗描写の積み重ねとともに、中国の観客からの感情移入は我々の比ではないはず。日本は当時救助活動を断られたこともあって、どれだけの惨事であったのかという情報および実感は薄いが、少なくとも中国では言わずもがなであろう「鳳凰　わが愛」で刑務所が被災した地震よりは、都市が襲われただけに被害も深刻だったのだろう。

　一観客として「グリーン・ホーネット」へ。少し前に「精武風雲・陳眞」を観て、映画的にはアリだったが例のドニー・イェンのカトーもどきが、完コピによる物言いをさすがに香港でも懸念したのか、カトーマスクが既製品という設定のため、「ブラック・マスク」よりは格段にマシになっているものの、あまりフィットしてなかったのだ。よって、防弾と強調したいのか、こちらはちゃんとマスク鋳造場面もあり、カスタムメイドも納得のフィット感および全体のシェイプには満足（ジェイ・チョウに満足したわけではない）。映画全体は、「バットマン」と縁深い作品であるだけあって、その立ち位置がブルース・ウェインにハースト的な要素を加味したものと解体して見せている点は興味深く、さらにオリエンタリズムを高めようという努力はそれなりにしているが、カトーが完全に中国人になっているため、オリジナルで怪しい東洋人に徹したマコ岩松やブルース・リーを反映しているとは言えないのである。とはいえコメディタッチも想像より抑え気味で、オリジナルに忠実なバイオレントな展開は買えるし、見せ方に監督ならではの創意工夫が入っているお蔭で、3D特有の話の薄っぺらさはない。だがその代わり、3Dであることの特徴も感じられなかったので、わざわざ3Dで公開する必然性は皆無。さらに、敵のクリストフ・ヴァルツはニコラス・ケイジの代役にもかかわらずよくやっているけど、やはり“ランダ大佐”ほどのポテンシャルが発揮されておらず、結局何かの新技術の賜物かと思われた異様な外見の銃も、単なるこけおどしなのは残念である。だが単なるセクハラでしかないキャメロン・ディアスの存在は、特に上腕部の辺りのプリプリ感が「ナイト＆デイ」に比べても素晴らしく、ストーリーへの集中を阻害するほどで、最後に申し訳程度にかかる主題曲や エドワード・ファーロングの負け犬的名演も忘れがたく、3Dじゃなければ“B級アクション”的には良作と評価したいクオリティなのだった。[rakuten:amiami:10244125:image:small]