「死」が中心の試み、それぞれの差異。

 一観客として「冷たい熱帯魚」へ。着眼点は確実にいいのだが、ベースとなっている埼玉の愛犬家連続殺人や、北九州の監禁殺人事件の実録だけでも、充分に奇怪で面白いエピソードの連続なので、無理に盛り込まれたキリスト教的な意匠と後半のオリジナルな展開が観る側のテンションを減速させてしまう。そういう意味ではでんでんの妻を演じた黒沢あすかの起用は普通に美人過ぎて風間博子に及びもつかないところももったいない。よってもっと汚い画面で良かったと思うが、本当に志が高い日本人監督による作品であることは間違いがない。それに露悪的な意図が前面に出ていて鼻白らんでしまった「愛のむきだし」よりはリアリティがあるのでこちらの方が引き込まれる。出資からするとこれは邦画ではないが、全ての邦画はこれを観て反省した方がいい。それだけの毒(薬)がある。


 一観客として「ヒア アフター」へ。臨死体験や死後の世界を扱った作品ではあるが、物語上、謎が散りばめられているわけでは全然なく、並行するエピソードが最後に一枚の絵を完成させるように物語を築いていく。その絵が示すものは、死後の世界や霊感の不思議さと同じように、現世における出会いもまた不思議なものだということだ。思わせぶりな場面で驚異的なエロスを醸し出し、速攻退場したブライス・ダラス・ハワードも非常に良かったのだが、個人的にはかなりどうでもいいところにミレーヌ・ジャンパノワを起用したイーストウッドの女の趣味の良さに感じ入った。ちなみにジャンパノワは「ゲンスブールと女たち」にも出ているが、監督に劇中での置き場所を迷わせ、結果脇に回されてしまうくらい、ゴージャス極まりない美女である点は、どことなく大原麗子を髣髴とさせる。


 一観客として「男たちの挽歌」へ。半島情勢を絡めても基本的な話はさほど逸脱しておらず、キャラも案外オリジナルに忠実だが、それだけに、北の特殊部隊出身というマークのチンピラ臭大幅削減が物足りない。ジョン・ウーはプロデュースとして神輿に担ぎ出された感が強く、同じ監督の「力道山」もかなりアッサリ風味だったが、もっと泣きの展開を強調しないと半島リメイクの意味はない。ホーやキットに当たる役柄は合格としても、片輪になったマークを再現してもソン・スンホンというのが根本的にチョウ・ユンファへのリスペクトを欠いており、「宿命」と同様にヘタレ度の高さが目立つ。個人的には一作目のクライマックスは夜なので、白昼の銃撃戦が展開される「2」の方が好みなんだが、銃器のチョイスも安直に問題のナイトシーンまでなぞっているのでやはり物足りない。だが悪役としてのチョ・ハンソンはふてぶてしさと思想の一貫性のなさで輝いており、腕時計を拳にはめて殴る描写はレイ・チーホンに迫って見応えあり。しかし、これじゃ続編作れないじゃないか!と思いながら不快な主題歌が流れた瞬間に劇場を後にした。愛犬家連続殺人 (角川文庫)消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)愛のむきだし [DVD]ヒア アフター ブルーレイ&DVDセット(2枚組)【初回限定生産】 [Blu-ray]ゲンスブールと女たち「男たちの挽歌 A BETTER TOMORROW」 アクターズ・コレクション [DVD]男たちの挽歌<デジタル・リマスター版> [DVD]男たちの挽歌II<デジタル・リマスター版> [DVD]宿命 通常版 [DVD]力道山 デラックス・コレクターズ・エディション [DVD]