いつだって最悪なのは人間だ。

 一観客として「アンチクライスト」へ。以下は映画から俺が受け取ったメッセージを記しているのであって、別に個人的な意見をつらつら述べているんではないと思うよ。しかも俺はキリスト者ではないのでそもそもこの作品の射程から外れているわけだが、セックスが恐怖や悲しみに直結している場合、男は最悪の場合不能に陥るのに対し、女は忌避ではなく、セックスの上書きによって消去する傾向にある、またはそうした女が少なからず存在することは知っている。故にこの作品のタイトルは、最後の「T」の文字が「♀」となっていることがそこで意味を持ってくるのだ。さらに言ってしまえば、どんな宗教でも大抵人間は神の似姿であり、そしてとりわけキリスト教ではその再生産された存在として女が位置づけられており、その点でキリスト教は酷く女性嫌悪的だ。そして男の肋骨から作られたという原初のクローン人間であるとされる女には、その縮小再生産であることを象徴するように、ペニスのミニチュアが備わっている。それを恐れた未開の男たちは、切除することでその能動性を奪おうと考え、現在もそれは続いているが、教化されたキリスト圏においても、その出自を持つトリアーにおいても、その恐れは大して変わらないということが分かる作品と言える。さらに、その説教臭さと芝居臭さにおいて、俺は個人的にこの作品を好きにはなれない。だって少数かもしれないが、そうじゃない女も確実にいるはずだから。でもさ、いい加減「SATAN」を「悪魔」って翻訳するのはやめてほしいね。それは固有名詞じゃないか。


 一観客として「悪魔を見た」へ。どう見てもマックス・ケイディな、チェ・ミンシク演ずる殺人鬼ギョンチョルは、快楽殺人者ではあるが「ノーカントリー」における”シガー”のような純粋悪をより深化させ、かつ毒々しい欲望の権化となっており、動機なき悪に対し、人間はどうにか一矢報いることは出来ても、勝ち負けで言えば決してそうしたものに勝つことも駆逐することも出来ないというテーマは確実に消化することの出来る、出色のキャラクターであった。通常の警察の動きや社会のあり方にしても戯画化されており、復讐の連続に話を持って行くために無理をしている(韓国はおろか、法治国家でこれが通るとは思えない)部分も多々あるが、このレベルの作品として結実させたことに充分な意義があるし、傑作「チェイサー」などもさらに凌駕した、韓国暴力映画における現在の到達点であることは間違いがない。描写的に言えば、鈍器で女やジジイに滅多打ちを加えるのをワンカットで捉えており、とある状況下での車内における刃物の乱用と共に見ごたえのある極悪描写が頻出。さらに、いくつかあるエロ描写で久々に、映画に勃起させられてしまったことに我ながら驚いた。甘い人生 通常版 [DVD]グッド・バッド・ウィアード [DVD]オールド・ボーイ プレミアム・エディション [DVD]ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]チェイサー ディレクターズ・エディション【初回限定生産2枚組】 [DVD]ケープ・フィアー [DVD]最後の誘惑 [DVD]