ハゲが活きる場としての映画など。

 一観客として「バレッツ」へ。ジャン・レノ主演だけあって実在の人物を基にしているとは言え、単にモデルにしているだけに過ぎないのがミソ。基調は信頼性の低いヨーロッパ・コープの暴力描写(相変わらずヘッド・ショットが弱い)の垂れ流し映画に思わせておきながら若干違った。そこに「エレクション/死の報復」における犬の嗾けや、「キッズ・リターン」的な一番風采が上がらないルックスをした人間こそが凶暴という、ハゲの殺し屋に代表されるたけし的論法を交えたことで、それなりに底上げはされているのが新味といえば新味か。しかし男の哀愁や極道でしかない主人公に子供や家族を絡めることで正当化するナルシズムはフレンチといえどもノワールとはとてもじゃないが分類できる代物ではない。でもそこそこ酷い目に遭う“レノ・娘”こと、監督リシャールの娘ジョセフィーヌ・ベリが美少女としての実在感に長けていたため、鑑賞の牽引力にはなってくれるというのが新機軸かも知れない。というのも、彼女の名前が俺に病気を感染してくれた唯一の女の名前を持っているということも大きいのだが。 


 一観客として「シリアスマン」へ。「オー・ブラザー!」で古典をなぞった作品には既に手を染めているのでその延長線上として旧約聖書(+自分たちのルーツであるユダヤ系コミュニティ)を扱ったと認識して観れば、難解でも作家性として奇異なものではない。アメリカにおけるユダヤ系コミュニティの見えにくい慣習が細かく描かれているだけでも楽しいが、マクロでの物語の円環構造+αも「未来は今」などを思い出させてくれる。そもそもコーエン兄弟らしい放り投げ方、唐突な暴力や死のイメージ、不条理に連打される災難など、「バートン・フィンク」にも共通するエピソードが連ねられ、むしろ「バーン・アフター・リーディング」の揺り返しと思しき、マイナーなキャスティングを徹底してもピュアに満足させる手腕を存分に発揮している。また、突き放し方や観客を煙に巻く語り口も、原作に忠実な結果そうなった「ノーカントリー」のセルフパロディだと見れば一際味わいも深い。


 一観客として「トゥルー・グリット」へ。「ノーカントリー」で原作つきの映画化に抵抗がなくなったんだろうし、スピルバーグの手前、やるからには徹底的に忠実にすることを今回も心掛けているのだろう。だから後半の寓意的な描写は原作に由来するものであり、ことさら「勇気ある追跡」との関連ばかりが喧伝される傾向にあるが、これはそのリメイクというよりはコーエン兄弟による同一原作の再映画化なのでしかないということは一目瞭然だ。「ノーカントリー」も現代劇ながら神話的、西部劇的だったが、突発的な暴力が含まれる純西部劇はアメリカという犯罪の神話でもあるだけに、犯罪映画にこだわり続けているコーエン兄弟と相性が良くて当たり前である。よってまた他のアンサンブルでも観てみたいし、尽き果てたように見える西部劇というシチュエーションにまだまだ可能性を感じてしまう。今回は特に意外すぎる小悪党だったジョシュ・ブローリンよりも、キャリア中最も汚い外見にもかかわらず、悪の信頼感と説得力を併せ持ったバリー・ペッパーは大収穫で、コーエン組初参戦のマット・デイモンは普通。バレッツ [DVD]エレクション~死の報復~ [DVD]キッズ・リターン [DVD]オー・ブラザー! [DVD]バートン・フィンク【ユニバーサル・セレクション1,500円キャンペーン2009WAVE.1】 [DVD]未来は今 [DVD]バーン・アフター・リーディング [DVD]ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]勇気ある追跡 [DVD]トゥルー・グリット (コーエン兄弟 監督) [DVD]