SF（すこし・ふしぎ）もつらいよ！

　一観客として「アジャストメント」へ。何度も書くがディックとコメディは相性がいい。だから調整班の人間は居眠りもすれば、その後始末に神様までもが登場する羽目になる。しかもその実行役としてはテレンス・スタンプが例の無表情で登場するのだからマット・デイモンも霞んでしまう。だが対するエミリー・ブラントが従来のコスプレが多目の役とは違った新機軸でちゃんと現代の生身の女を強く演じているのが頼もしい。ケツアゴも麗しい彼女が体現するのは、女の結婚はその場のノリと、性としての価値（残り時間）から算出された妥協の産物であり、男はその事実を全く考えもしないで「運命」だとか錯覚しているという、目も当てられない現状だ。だからその先に、結果として存在することになった俺らも、実はそうしたノリの産物ってことも見据えた上で自己認識しなきゃいけないってことを教えてくれるのだ。

　一観客として「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」へ。度重なる監督やキャストの変更により、企画先行型の印象からあまり期待してなかったのだが、そのせいもあって非常に高水準。従来の同性愛的なメタファーとしてのミュータント表現に加え、公民権運動が隆盛を迎えつつあった時代が舞台だけに、周囲の偏見との戦いというテーマがより前面に。コミックの世界観で「差別」の本質に迫ろうとする志の高さに、俺は何カ所かウルウル来てしまった。人類からは暴力衝動と同様に絶対に除去できないものとして、人類の差別意識こそが根本問題なので、安易にナチをその根源とするのは力及ばずだが、ホロコーストの生存者でもあるマグニートーは、思想的立場としてはマルコムXがモデルなのも今回明確になり、ミヒャエル・ファスベンダーの繊細かつ酷薄な容貌で余計に親近感が湧く。酷薄といえば、彼の精神的支柱となる敵、ケヴィン・ベーコンに加え、レイ・ワイズやマイケル・アイアンサイドなど、ヴァーホーヴェン系悪人顔役者を贅沢に配し、ともすれば「デビルマン」似（要するにマグニートーとミスティークは、不動明とミーコだ）とも取れる容赦なき世界観に説得力を与えてくれる。「X-MEN2」における、ナイトクロウラーの父（「キックアス」に続く友情出演的登場！）やストライカー（元大佐）の父の登場など、前作への言及も多く、プロフェッサーXの外見上重要な要素の原因となるエピソードも網羅。でもこういうのは三部作構想というから、これでも小出しの方なんだろうが、数名のスペシャル・ゲストの登場にも大満足。でもさ、後のパトリック・スチュアートの若い頃なんだから、「ネメシス/S.T.X」におけるトム・ハーディと今回のジェームス・マカヴォイはイコールになっても良さそうなもんだが、ご存知の通りに全く違うので各自辻褄合わせをしよう。しかし、キューバ危機こそは核の危機なので、原潜の機関部を「リアクター装置」って字幕でぼかすのは時節柄、却って良くないね。

　一観客として「スーパー8」へ。「未知との遭遇」や「E.T.」は一回観れば充分だよ。それっぽいものの集積でスピルバーグへのゴマすり映画を作ったというところか。だいたいこのJ・J・エイブラムスという監督は何がやりたいのかいまいち作家性が感じられず、単に奇を衒いたいだけに見えるのであまり信用していない。「スター・トレック」の若返りとかさ、単なる便利屋じゃないの。ただ、モンスター関連物質が“メンジャースポンジ”状であるのは興奮したが、それっぽいだけで最も素晴らしいのが主人公の少年の愛らしさのみというのには話も時代背景への思い入れも弱い。父との確執を抱える少年のイドがモンスターとなり少女を拉致して少年を大人に成長させるなんて、意外性も何もないメタファー。それに監督の関連作である「クローバーフィールド」の方がモンスター映画への愛と敬意を感じるね。ただ、オリジナルのTAKARAの路線を潰して展開された「トランスフォーマー」に深い遺恨を持つ身としては、「Mission: Impossible - Ghost Protocol」のプロデュースに回ってまで「ミクロマン」の実写化に動いているという心意気は買おうじゃないか。