障害を押してまで出す価値あるか不明な残り汁。

　一観客として「マイティ・ソー」へ。お約束のエンドロール後サミュエルはもちろん、“ホークアイ（「テラホークス」とは無関係）”顔見せや敵の紹介、“行方不明のガンマ線研究者”等、「The Avengers」前振りに過ぎない珍品。神の世界の一大事にも車移動を覚悟しないと生活できない田舎舞台という点はアメコミ映画で「レギオン」の先例があるが、そこに一見さん拒否で北欧神話のどうでもいい縁起が働くのは新機軸かも。でも“ロキ”なら、「ドグマ」に倣うキャスティングなら、監督的にも他のキャスト的にも拒絶はなかったと思う。それだけ敵に華がなく、故に兄弟喧嘩に貢献しているとも言えるが。対する主人公は「スター・トレック」におけるカークSr.なので風格はあるが、暴れっ振りはやや物足りず、「スパイダーマン」他のヒーロー迷走を象徴するように味方として、最新「パニッシャー」こと、レイ・スティーヴンソンが三銃士のポルトス的活躍で穴埋め。しかし個人的には「ディフェンドー」のカット・デニングスのメジャー（・ヒーロー作品）昇格が浅野より気になっていたのだ。

　一観客として「BIUTIFUL ビューティフル」へ。そもそも“IKIRU FILMS”でイリャニトゥが一人の末期を通して描こうとしたのは何を基にしているかが明白であり、にしては実態が飛躍して別次元へと行っている意味で怪作。でも「21g」などの着想からこういう世界に興味があったのは分かる。享楽を交えた死の過程は、その悉くが思い通りに行かず、キチガイである妻の狂いっぷり共々、主人公の感じる焦燥と不快に包まれるのは「エンター・ザ・ボイド」に近いとも言える。だが一応アルフォンソ・キュアロンやギレルモ・デル・トロも製作に回って作り上げられた本作の主人公は、当たり前のように超能力（霊能力）者であり、死者との交流を常にしている時点で死の受容姿勢は整っているのだ。要するにオリジナルの志向したものと間逆なのだが、それでもなぜか邦画オマージュにはその心霊描写がいわゆる“Jホラー”的で事欠かない。だから執拗に込められているおっぱいとハナクソネタに関しては、製作陣の求めなのか、邦画繋がりで俺的には石井輝男オマージュなのだと受け止めておきたい。

　一観客として「ラスト・ターゲット」へ。ジョージ・クルーニーに“セス・ゲッコー”のような甘さゼロの犯罪者を再演して欲しいとずっと思ってきたが、これもストイックだが非情ではなく、求めていたものには遠かったと言わざるを得ない。だが近頃、何の上げ底もない殺し屋の生き様、死に様を静謐に描こうという志の高い映画はなかったので、その点ではどうしても評価しない訳には行かないのだ。アウトロー引退映画としては「暗殺者（あるいは『メカニック』）」と対極をなすであろう抑制の効きまくった演出。舞台となるイタリアの地味な田舎。そこでの小さくも濃密な人間関係。一瞬の夢が、闇を生きてきた人間の夢に過ぎないという点では、これが二作目のアントン・コービンにしてみれば、原作小説を下敷きにしていながらも「カリートの道」を意識しまくっているし、舞台がセルジオ・レオーネの故国として「ウエスタン」を強調するというのも単なる一映画ファンとしての視点を維持していると分かり、後半の捻りもその（ガンマニアではない）視点が逆に生きており、その結果に唸る佳品であった。