搾り出した後の隙に溜まったもの。

　20世紀フォックスさんのご招待により「TIME／タイム」試写へ。「サウスランド・テイルズ」でジャスティン・ティンバーレイクとSFとの相性は確認済みだが、こちらはどっちかというとライトなSFアクションといった趣。とはいっても、あくまでアクションとしてはライトだが、SFとしては寓話的でもなかなかに深刻な未来観だ。人間は全て25歳で成熟を迎え、以後衰えることがなく死に至るが、そこから先の寿命は通貨と化した時間がものを言う世界なのだ。つまり生きるも死ぬもカネ（残り時間）次第。そんな世界に金の掛かりそうな一見イヤミな女としてアマンダ・セイフライドは「ジェニファーズ・ボディ」より前面に出てマッチしてる。ただ、互いの持ち時間を簡単に出し入れできるのが設定上の波乱を生むのだが、リアリズム的な面での欲になるが、財布にジッパーがあるように、時間の出納を固定するギミックが欲しかった。それでも、久々に「ガタカ」を継承したレトロフューチャー的美術が堪能できるだけでも満足度は高い。また、青年しか出てこない世界ゆえ、誰が親か子か愛人か判別不能な状態だけに、主人公の母、オリヴィア・ワイルドが近親相姦的な淫靡さを満身に放っている。

　一観客として「新少林寺」へ。本来「少林寺」で新作を作るなら、主役はジェットが演じるべきだとは、旧正月の香港へ旅行した際から思っていたが、その時は映画館へ観に行っている暇がなかった。そこで今回やっと観たが、アンディ・ラウや「風雲2」と似たようなアプローチのニコラス・ツェーなど、基本的に非アクション俳優によるアクション性の薄さをドラマツルギーの面で埋めて補整しているから、物語は起伏があって楽しめる。平べったくは「ミッション」に影響を受けたと思しき極悪非道な男の贖罪という骨格だが、辛亥革命の後始末って背景のために、流れとして「1911」も観たくなっちゃう。その主役ジャッキーの99本目とは謳っていたものの、その活躍は申し訳程度で、それでもウー・ジンやホン・ヤンヤンといった実力派が脇に配されているお蔭で、体技的にもスペクタクル的にも満足度は高く、これで俺の香港旅行の無念も晴らされたのだった。　　

　一観客として「コンテイジョン」へ。先日拝見した「パーフェクト・センス」とのいい対比に加え、「ダークナイト」で美しさに輝いていた“ラミレス”ことモニーク・ガブリエラ・カーネンの魅力で「トラフィック」以来ソダーバーグ作品が久々に面白く感じられた群像劇だが、「トラフィック」同様、娘がブサイクなところまで踏襲しないで夏緒みたいな娘を出せ！とは思った。だから大きな物語の流れは、風評被害で深刻なパニックが起きるところまで「感染列島」に似てて、でも発端が香港だったり、ジョシー・ホーを意外なくらい延々と登場させたり、感染者の轢死や解剖を見せようとするのは「エボラ・シンドローム」へのオマージュだと受け止めたい。特に観ている自分が風邪気味だったりすると、リアリズムの高まりと共に、劇場にいるのが申し訳なくなるが、パニックに陥れる人間とパニックに陥る人間がどうしようもなく愚かなので、鑑賞後は人混みで盛大に咳をしてみるのが楽しくなった。もちろん劇中にはそんな偉人がいたら一生ついていくレベルの犠牲的精神を発揮する人物も出てくるのだが、豪華キャストの中で鈍く要所を占めたジョン・ホークスがやはり持って行ってしまったのだ。　　　

　一観客として「50/50 フィフティ・フィフティ」へ。難病モノの癖に、がん告知を受けた主人公が自棄になるでもなく、どうせならやりたいことをやる展開にもしないのが腑に落ちない。あたかもそれが新機軸なんだとでも言いたげな軽妙さ。当たり前のように裏切る女は非常にリアリティがあるが、そのために主人公の傷を癒すカウンセラーを演じるアナ・ケンドリックの現時点での最高作となったのは間違いない。一応セックスしてるけど、無欲の勝利みたいなのは別に病気とは関係ないから、その描写に至る過程自体に説得力は感じない。むしろ明解なオチのない中、女に復讐するとかでもあれば納得もしただろうが、抗がん剤使用に伴う医療用マリファナや、術後のモルヒネによるトリップ、友人のヴァーホーヴェンへの造詣が言わしめた名言のいくつかに溜飲を下げるのみだった。