重い!暗い!惨い!こそ映画の本分。

 アルシネテランさんのご招待で「孤島の王」試写へ。ノルウェーにかつて存在したという、少年向け更生施設の島(監獄島)における、反逆と暴動のドラマ。ステラン・スカルスガルドがVシネ版「男組」における、哀川翔扮する宮城秀一(神竜秀一)所長のように特別出演ではあるが、案外登場時間も長く、大盤振る舞いである。一応少年の施設が舞台なので、「スリーパーズ」のケヴィン・ベーコン的な鬼畜看守も登場し、フォアキン・フェニックス似の跳ねっ返り少年が(「暴動島根刑務所」における松方弘樹ポジション)が対抗する様を見つめる模範囚少年(先述作品の北大路欣也ポジション)の視点で語られていく。そうした非人間的な施設があったというのは過去の話ではあるが、「エンジェル・ウォーズ」的に逃避しない直球の姿勢は一事実として好感が持てる。また作品自体は小粒であっても、不良少年特有ののふてぶてしさと、残虐に徹しきれないイノセントが、刑務所映画とは異なる余韻とノスタルジーを喚起させるのも事実。


 一観客として「セルビアン・フィルム」へ。どんなにセックスとバイオレンスに塗れている、凄惨で背徳的な物語を作るのも一向に構わないが、それが子供にハードコアを見せる描写があったり、その撮影方法において法的な問題がクリアされているのかが気になる。フィクションとしては全く衝撃を受けてないと言って差し支えない、露悪的なこけおどしのみの実体を伴わない作品であり、例えばパゾリーニ作品のような気品や諧謔も感じられない、凡俗極まりない作品である。しかし、先述したように、ノンフィクションとしては、「子供(主人公の子供役)にそれをやらせるな!」という不快感には確実に飲み込まれる作品であり、その点では不快な疑惑に襲われるわけで、「映画とは作り物である」という事実を前提としている観客にこそ、その隙間にある真の邪悪さが伝わって来るのだ。


 一観客として「ドラゴン・タトゥーの女」へ。原作から再構築された物語でありながら、結果として社会にねじ伏せられたが、類似の痛みを持つがゆえに、類似のルックスをしていた俺としては、陳腐なジャンルとしてのミステリーに対する拒絶感と同様にとっつきにくかった。ただ、スウェーデン版は謎解きを口当たりの良さとして、背面に充分とは言えないまでも、原作者の伝えたい主題が見え隠れしていたことが辛うじて吸引力となり、凝視し続けることができた。そしてこちらは、「ソーシャル・ネットワーク」でルーニー・マーラが穏当な外見の女だというのは周知の事実であるため、「原作の原題」に基づく主題は影を潜め、下半身にだらしない男とのラブストーリーが強調されていたのだった。ゆえにリスベットへの起用には、乳首のピアスが装着されていたり外れていたりと、同じ装飾を施している人間からすれば無理を感じるのだ。もちろん、「ゾディアック」風なタイポグラフィーへのこだわりや「セブン」的な背景に流れるノイズ、そして初のセクシャルなシーンなどの差異や共通点を、フィンチャー論として指摘もできる。しかし元々フィンチャーは、“女性嫌悪の世界(「エイリアン3」、「セブン」、「ファイト・クラブ」、「ゾディアック」)”、“売春/聖化の対象としての女(「セブン」、「ゲーム」、「パニック・ルーム」、「ベンジャミン・バトン」)”、“女を買うこともできない男(「ゲーム」、「ファイト・クラブ」、「ソーシャル・ネットワーク」)”、と描いてきたわけで、一連のフィルモグラフィーで避けてきたベタな要素を上乗せして描くことで、職人気質と同時に本作を監督する必然性を発揮した、とも言える。とにかく陳腐な謎解きに興味がないのがありありと分かる上、原作における主人公の不倫関係の強調以外は悪意も毒気も(暴力性さえも)感じないのだ。だから俺はむしろ、上映が始まってコソコソ後方で喋ってる金髪の女に対してこそ、女を憎む気持ちになったね。


 一観客として「メランコリア」へ。普通に発想を煮詰めれば、「妖星ゴラス」に始まり、「アルマゲドン」に至るような正統パニック映画になるはずだが、その発想している主体が欝なんだから直情的だし浅くなるのは仕方がない。こう書くと作品に対して難癖をつけているようだが全然そんな事はなく、「アンチクライスト」が酷い作品だったので、あれに比べればそのスカスカ(=シンプル)さと静的な画面作りが妙にマッチして非常に心地の良い作りだったのだ。具体的には、誰でも形にはしなくても、こういう個人の「みんな死ね」的な自意識肥大は、主観として遍く持っているはずで、その幼稚さが気に入ったのだ。また、どこかで極端に悲惨な災害や事故が起きると、まるでそうした狭窄した自我がそれらを起こしたようにも思えるから不思議だ。しかもその割にはその思い込みが弱いからか、映画と違っていつも現実は局地的被害を受けるにとどまってしまうわけなのだが。また、多くの人間がブサイクだというが、俺はクローディアを演じていた女優であると同時に、白人女特有の腕毛への無頓着さも評価できるキルスティン・ダンストが案外巨乳であり、特に巨乳が好きでもない割には、これまで秘められた部分がさらけ出されているという点でも満足だった。男組 [VHS]スリーパーズ [DVD]暴動島根刑務所 [DVD]エンジェル ウォーズ Blu-ray & DVDセット コレクターズBOX [トレーディングカード・ブックレット付](初回限定生産)Serbian Film [Blu-ray] [Import]パゾリーニ・コレクション ソドムの市 (オリジナル全長版) [DVD]ドラゴン・タトゥーの女 ミレニアム<完全版> [DVD]ドラゴン・タトゥーの女 [DVD]ソーシャル・ネットワーク [DVD]ゾディアック 特別版 [DVD]セブン [DVD]エイリアン3 [DVD]ファイト・クラブ(2枚組) (初回生産限定) [DVD]ゲーム [DVD]パニック・ルーム [DVD]ベンジャミン・バトン 数奇な人生 [DVD]妖星ゴラス [DVD]アルマゲドン [DVD]アンチクライスト [DVD]インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア [DVD]ヴァージン・スーサイズ [DVD]