喪失の補填か、現実の捏造か。

 20世紀フォックスさんのご招待により「幸せへのキセキ」試写へ。マット・デイモンも父親役というのが感慨深い。そんな主人公の娘の子供らしい可愛さと、息子の一筋縄ではいかない胸キュンストーリーに興味が持続。実話ながら「エリザベスタウン」を髣髴とさせる遺言エピソードがキャメロン・クロウらしさに感じるが、「ザ・エージェント」に継続し、独走する(スピコリ的?)主人公と、傍観者(飼育係)に「あの頃ペニー・レインと」における自分役の少年(現在は青年)を配しているのを見ると、依然、監督としての思い入れも強く感じられる喪失からの再生テーマの物語。子供たちの手前パッと見には分かりにくいが、深刻な欠落と、フィクションとして埋め合わせてあげたいエピソードの付加は、寄り添う監督の気持ちとしては分からないでもない。


 一観客として「ヒューゴの不思議な発明」へ。本作を日本では映画の日に公開するのには意味がある。しかし映画愛というよりは、原作に起因するのかもしれないが、一見不条理に見える暴力や狂気も意味があるという機械論を提唱したいのかもしれず、その主張だけでも充分にスコセッシ作品なのだ。唯一暴力性を体現しているように見えるレイ・ウィンストンだけに囚われると見落としてしまう。加えて、ここまでの情報量と映画への偏愛を子供向けの映画にこめていいものか?というほどの圧倒的な情報量で、冒頭から「上海から来た女」の滑り台や、後に展開される代表的な引用だけでも、ジャッキーの偏愛する「ロイドの要心無用」だの花屋の壁面のポスターだの枚挙に暇がない。とりわけテーマとして取り上げられているジョルジュ・メリエスの彩色フィルムが3Dで上映される場面は感涙ものだ。製作者として名を連ねるジョニー・デップの肝煎りと思われる、「スウィーニー・トッド」以来の劇映画登場となるサシャ・バロン・コーエンが、第一次大戦での負傷によるビッコを装具で補整して主人公の邪魔をするが、そのアップが無駄かつ最高の飛び出し具合を発揮していたのが、3D技術に対するスコセッシのイヤミとも取れて爆笑してしまった。


 一観客として「アーティスト」へ。フランス映画という意味ではアダルトな「イリュージョニスト」といった感触のウェルメイドな話。「HOLLYWOOD“LAND”」の看板が象徴するように、殺菌されファンの頭の中だけにある、偽のハリウッド・バビロンを表層的に描いたもので、それはあくまで作り手の憧れでもあるため、周囲のキャストを(ジョン・グッドマン、ジェイムズ・クロムウェルペネロープ・アン・ミラー等の)ハリウッド勢で固めているわけだ。こうした上っ面の時代賛歌を、先日暴露された平均年齢がジジイで白人が大半を占めるアカデミー会員が喜ばないはずはない。とはいえ、ほぼ完全なサイレントなので野心的ともいえるが、「モダン・タイムス」のように時代の要請も加わった必然性はなく、二度は通用しない手口である。なので、構造や志は「ヒューゴの不思議な発明」と対になるべきものに見えるが、対するこちらは感情的に揺さぶられる点は皆無、毒にも薬にもならない。観客のテンションを無理に上げようというこの手の音楽が不快に感じる手合いには苦痛な時間となるだろう。俺もそうだった。


 一観客として「ヤング≒アダルト」へ。監督の前作より、前々作とのシナリオによる再タッグなだけに、よりブラックで“身につまされ度”は近くなった。そしてそんな痛々しい物語の、痛々しい登場人物への意地悪な視点も突き放すというよりは、寄り添う形で徹底している。質は違えど成長への拒絶を抱えたまま老けて行っているという点では俺も殆ど一緒だが、その痛さが「さらさら変える気はない!」という確信につながり、変えようがない人間への悲しみも突出してくる。その逃げ場のない悲壮さという点では間違いなく前作に共通しているが、別に居場所がある人間の話じゃないのでより絶望的だ。幸せへのキセキ 2枚組ブルーレイ&DVD&デジタルコピー〔初回生産限定〕 [Blu-ray]エリザベスタウン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]ザ・エージェント (1枚組) [DVD]あの頃ペニー・レインと (1枚組) [DVD]初体験 リッジモント・ハイ [DVD]ヒューゴの不思議な発明 3Dスーパーセット(3枚組) [Blu-ray]上海から来た女 [DVD]プロジェクトA デジタル・リマスター版 [DVD]ロイドの要心無用 [DVD]イリュージョニスト [DVD]ハリウッド・バビロン ?ハリウッド・バビロン?モダン・タイムス (2枚組) [DVD]JUNO/ジュノ (特別編) [DVD]マイレージ、マイライフ [DVD]