斜に観ても楽しい完全娯楽＝アクション。

　ファントム・フィルムさんのご招待で「さらば復讐の狼たちよ」試写へ。とにかく現体制の不満を頑張って娯楽へ娯楽へ昇華しようという思いは涙ぐましいものがある、日本人には分かりにくいが大陸的なオールスター映画。分かりにくいといえば先述の現体制への不満はひたすら暗喩として描かれているようなので、娯楽としてや戦術としての整合性に欠けるところもある。しかしその力押しの推進力や適度に交えたギャグ、渾身の暴力描写や素晴らしいロケーションの数々もあいまって、暴れ馬にしがみ付いているようなひと時の娯楽として我々は消費できるのだ。以前から大陸に対して「ヘブン・アンド・アース」や「グッド・バッド・ウィアード」に限らず、ウェスタンからの翻案はいくらでも出来る地の利は感じているが、これなら民主化・自由化さえ進めば、検閲を気にした歴史スペクタクルにとどめず、将来的には雄大な暴力映画あるいはマカロニ的ドラマも実現可能だろうという点で応援したい。

　一観客として「捜査官X」へ。観れば誰でも指摘してしまいたくなるところだろうが、要するにこの作品、清朝の中国に翻案した「ヒストリー・オブ・バイオレンス」なわけ。物語の謎解きに金城が絡むものの、構造は見事にそのまんま。でもそれは不満点を引き起こすのではなく、オリジナルのウィリアム・ハートにおける役柄が、本作においては企画当初キャスティングに想定されたビートたけしなどではなく、ジミーさんで大正解！だったという満足感に尽きる。しかもキャスティングの意外性だけで速攻死亡したハートに対して、ジミーさんは花を持たせる意味での設定上の強さが半端ではないのだ。しかもその強さに対し、ジミーさんへの仁義を通した結果片腕というハンデを負ったドニーが金城と二人がかりで、しかも汚い手を使って辛勝、という、「リーサル・ウェポン4」のジェット並みの無敵ぶりを発揮するのだ。一応ドニー映画としては、高速で屋根を駆け抜けてのチェイスシーンは、「ドラゴン危機一発'97」の山を登りながらの追撃戦を髣髴とさせ、その発展形である意味でも満足。しかし、実はタン・ウェイよりも美しすぎるクララ・ウェイに本気で欲情してしまうだけの美が、俺には何より衝撃だったのだ。

　一観客として「裏切りのサーカス」へ。客にはおっさんが多く、加齢臭の中で観るのが正解。にもかかわらず、いやおっさんが多いからこそと言うべきか、エンドロールで突然携帯をいじる精神年齢の低いガキ（推定40代、茶髪、無精ひげ、長めの髪に薄色のメガネで年齢を胡麻かすありがちなタイプ）は、純真さを欠いた制裁として、座席を三回連続で蹴ってやった。間もなく終わりだし、どうせ言っても無駄だ。ともかく、裏切られた傷のない人間にスパイになる資格はないわけで、スマイリーの地を這うような仕事ぶりと風貌は、その紹介が初めて俺になされた「スパイひみつ大作戦」を買い与えた俺のお父さんを否応なしに思い出すのだった。また、国家への裏切りだけでなく、愛情と友情への裏切りを描いている物語だけに、とてもいい邦題だと思うけど、英題の美しさは欠落してしまっている。とはいえ、やたら仕事しているマーク・ストロングの本年のベストバウトであることは間違いなく、監督の作品的にも前作でも少年のお父さんがゲイの仄かな香りを放っていたが、今回も似て、より苦く、より深い愛憎がとてもいいスパイスになっている。女への非情な扱い、省略も問題の関係を際立たせるのに極めて効果的。

　一観客として「タイタンの逆襲」へ。初日に入場する時にいきなりなんか渡されたけど、開けてみたらビックリマンシールじゃないか。俺の場合、「どっきりシール」および「ウッシッシール」にしか興味ないんだよ。周囲の人間が収集していたのを尻目に、俺は田宮の戦争プラモ作りに忙しかったし、当時の流行に影響下にあるバカガキの成れの果てが未だにいるってことなんだね。こんなもん人間の悪意（暴力性）の研究には1ミクロンも役に立たないし、つくづく俺は「悪魔vs天使シール」に乗らなくて良かったね。作品は頭髪がギリシャ神話的にリアリティを増したペルセウスや、ミノタウロス、サイクロップスの登場と、神話の適当ないいとこ取りのパッチワーク。さらにブーボーの再登場も見逃せない。これまた俺の研究を連載当時からリアルタイムで寸毫も刺激しなかった、車田正美先生のポスターワークが宣伝の上でなされていないのは、時代的な“神々の黄昏”により、今回登場する神々はクロスを着ていない（みすぼらしい）ので、賢明な選択と言える。ちなみに予告にはあった、ダガーナイフを腰の後ろの両端に装着する場面がカットされているのは日本公開での余計な配慮と見られ大いに問題である。そんなもんより、最後のクロノスの顕現こそ、溶岩を飛び散らせ、大殺戮を巻き起こす、まさしくサドの夢の擬人化のようで不穏この上ない。