世界や脳内で明滅することの意味？

　ファントム・フィルムさんのご招待で「I'M FLASH!」試写へ。“新興宗教教祖の暗殺”、“トラブルの逃亡先、沖縄でのモラトリアムな時間”と来れば、「ときめきに死す」や「ソナチネ」を想起していた。しかし監督ならではのミュージシャン系人脈の多用と、藤原竜也生来の芝居がかった教祖っぽさのリアリティによって、単なるハイブリッド的な映画ではない、豊田利晃監督らしい禍々しくも挑発的な作品となっており安心した。鮎川誠の同名タイトル曲にインスパイアされた物語とのことで、「チンピラ」が鮎川の曲のトッピングで息を吹き返したように、先述の想起される作品の痕跡を音楽の荒々しさが上書きし、前作の静謐や内向とも違う、新たなイメージを提供している。金子正次と言えば松田優作だが、こっちは松田龍平に意識的な抜けた演技をさせていて、汗ばんで飲み食いする様は、親父の「あばよダチ公」なんかを想起させて微笑ましい。ちなみに俺は瑛太の弟が出てるものを初めて観たわけだが、実は教祖ボディガード三人組では、仲野茂さんのナチュラルさが随一。個人的には、豊田組のマスコット、渋川清彦さんの登場がイマイチ分かりづらかったのは残念だったが、それは同じく豊田組の大楽源太（ex.大宮イチ）や中村達也さんの新境地に、それぞれ眩惑されていたからかも知れない。

　一観客として、「トータル・リコール」へ。製作発表の時点でリメイクの意図不明だったが、観てもやはり不明。舞台は火星じゃなく、格差によりヨーロッパ周辺と中国に分断統治された地球であり、主要登場人物も減り、要するに新しいイメージの提示もなくスケールダウンしているからである。一応立体的な構成を意図したらしいアクションも、トラフィックを多用したチェイスは、同じディック原作の「マイノリティ・リポート」や、または「アイ，ロボット」等のチェイスシーンと似ており、既視感に襲われてしまうのだった。ただ、兵士をロボットにすることで流血描写を避けてるのが、旧作との差別化とでも言わんばかりだ。この「見た目派手だが軽い」という感覚はレン・ワイズマンの持ち味のようで、「ダイ・ハード4.0」でもそのデメリットを遺憾なく発揮、早く「アンダーワールド」の続きでも撮ればいいような気にさせられた。というのも、犯罪小説や映画の見せ所である、善悪ダブルヒロインを強調したヴァーホーベンの意図さえも封殺、旧作のシャロン・ストーンに当たる役にワイズマン自身の妻を配し、間を持たせているので、感情移入どころか、コントラストによるヒロインの視覚上での快楽さえも減退というのは辛い。せめて「ブレードランナー」っぽくしているのがディックへのリスペクトの表れかも知れないが、環境汚染によるものと良心的に解釈しても、地球なので当然フリークスは関係ないし、現実への懐疑も皆無、唐突に現れる“トリプルおっぱい”を観るためだけの作品なのだった。

　一観客として、「ダークナイト ライジング」へ。かつての敵とその係累キャラが出るのは、ずいぶん前から知ってたから、展開上の驚きはなかった。要するに「バットマン・ビギンズ」に物語構造を敷衍させることで強化される幕引きとなっているが、来た道を帰る（広げた風呂敷を畳む）ことにより生じるループという物語のカタルシス上、ネタバレでも何でもないだろう。だから、シリーズをちゃんと観て来た人間には、かなり伏線明かしまくりの予告編と言えるのだった。とはいえヒース・レジャーが生きてさえいればシリーズを続けるつもりが明確だっただけに、苦し紛れに終わらせた感は否めない。それでも、前作で問われたさらに先の自己犠牲（ヒーロー資質）を表面上問う、完結編らしいテーマ設定にはしてあるし、その「トゥルーライズ」や「ブロークン・アロー」的対処法は別として、一応は納得したよ。それに私設裁判所におけるサプライズゲストの登場にも笑ったし、タンブラーが変形してザ・バットになるのか（それは構造的に無理なくない）？と思ったが、そうじゃなくて安心したね。また、“ベイン”〜“ラーズ・アル・グール”といえば外せない、“ラザラス・ピット”も、荒唐無稽ギリギリのラインで形を変え、象徴的に登場するし、ベインと女の関係という点では、「バットマン＆ロビン」にまで目配せしていると言えないか？前作の完成度がたまたま高かっただけで、トリロジー全体では、レイチェルの役者交代、各作品でジョーカーのプロフィールに差異がある、等の瑕疵が元々あるので、最初からそういう目で見ていれば、本作の瑕疵もそんな気にはならないさ。