どこでも極地になりうる想像力への誘い。
プレシディオさんのご招待で「アイアン・スカイ」試写へ。安っぽさが売りのコメディのような予想を大いに裏切り、有志による戦時国債購入(という名目の映画ファンド)と、長期の製作期間が設けられただけあって壮大なスケールの作品に仕上がっていた。そうでなければ日本で満を持して公開するはずはないが、主役のナチ党員を演じる女優の魅力も相俟って満足感が高い。とにかく細かいネタが多く、そもそものネタ元は「マーズ・アタック!」の火星人がナチになったということだが、「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」でも蒸し返された、月の裏側に建設された月面基地が「謎の円盤U.F.O.」の“ルナベース”そっくりだったり、ブッシュの衣鉢を継いだペイリン似の右翼大統領の報道官にまつわる場面も、日本で人気の「ヒトラー 〜最期の12日間〜」のパロディだったり芸が細かい。また、ペーペーの兵士はアナログなテクノロジーを背景にすると「ヘルボーイ」や「エンジェル ウォーズ」同様デザイン的に似通ってくるという好例。さらに、「ディクテーター 身元不明でニューヨーク」に先んじチャップリンの「独裁者」オマージュに着手しているのも感心した。唯一、ウド・キアが案外活躍しない点を除けば、中盤以降の“宇宙戦艦ブッシュ”を交えた壮絶な展開といい、田宮模型のドイツ軍シリーズをコレクションしたり、渋谷の「アルバン」に通ってたような人間なら、自然と足が向かう作品なのは間違いないのだった。
一観客として、「アベンジャーズ」へ。そりゃバジェットは桁違いだが、俺たちは既に同一コンセプトの作品を観ている。それは一応マーヴルキャラを借用したことになっている「バトルフィーバーJ」だ。よって今回は金のかかった“マーヴル戦隊”というだけで、足りないのは巨大ロボットくらい(戦艦も出る)なのだった。とはいっても、これまで散々続いた前振り(「アイアンマン」、「インクレディブル・ハルク」、「キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー」、「マイティ・ソー」、「アイアンマン2」)の期待に違わぬ重量級の娯楽巨編には間違いない。さらに至るところで衝突するヒーロー同士のエゴ!当然それは共通の敵と仲間の死によって劇的な結束を迎えるが、誰が死亡要員として前振りに配置されているかも、ちゃんと見て来たらすぐ分かるように設計されており、親切極まりない。その過程で敵はロキとも分かっていたが、某キャラの裏切りには驚いたね。ともあれ、そんな紆余曲折で地球の危機(アメリカの危機)は当然救われるのだが、前作以上にロキの情けなさは、コミカルというより悲哀が増してしまった気がする。そして一層の荒唐無稽が予感されるお約束のエンドロール中のオチを経て、まさかの最後に待つ二重オチに驚かされるわけだが、その是非は別として、これがノーラン版「バットマン」トリロジーには欠落したサムシングの象徴であり、本作がアメリカ人にしか撮れない所以の表明となっているのだ。
一観客として、「The GREY 凍える太陽」へ。こっちは監督の持つ「スモーキン・エース」じゃなくて「NARC ナーク」の重暗い部分が出ている上、何より、雪の中で妻を亡くしたリーアム・ニーソンのセラピーとして本人が出演したのが窺われるため、内容の粗は正直どうでも良く思わされるほど、ニーソン印アクションとして彼個人に重要。後はジョー・カーナハンが温める「ホワイト・ジャズ」実現に向け、ニーソンにダドリー・スミス役を依頼する恩着せの部分も濃厚そうだ。しかも「ザ・ワイルド」並みに登場人物が少なく、老け役のダーモット・マローニー程度しか印象に残らない。直接的な危機では、飛行機事故による遭難以外、狼の群れに狙われるのみで、他に立ち向かう対象もないが、事態に一人ずつ退場するのが寓話的で、リアリズムの欠如から好き嫌いは分かれるだろう。従って自然(神)と自己との対峙を突き詰めると、各自の内面との対決にならざるを得ない点では、極寒版「闇の奥」とも言える。それに単なる観光客の遭難かと思えば、全員脛に傷持つド玄人のオヤジのみで、さほど紛糾せず、「蝿の王」的人間の汚さを描くのは主眼が置かれてない。とはいえ「生きてこそ」に言及し、「ファイト・クラブ」以来のソツのない航空機事故描写には納得できたし、ニーソンの無骨な指先接写もフェチには大満足だろう。そしてトラウマを克服したニーソンは、「Taken 2」における、アルバニア系マフィア残党との全面抗争に臨むのだ…。