現実、マンガ、童話の追体験としての映画。

 ファントム・フィルムさんのご招待で「その夜の侍」試写へ。あらすじがショーン・ペンの「クロッシング・ガード」に激似と思ったが、さすがにブコウスキーへの献辞も、石橋凌の出演もなく、より凶暴に日本へのスライドに成功していた作品である。俺は観客に想像力で画面の貧困を埋めることを強いる舞台の芝居には全く興味がないので、これは常套的な演出なのかも知れないが、舞台出身の監督の演出は、「下妻物語」や「ボーイズ・オン・ザ・ラン」に通じる、コンビニや居酒屋などの固有名詞の連発による俗化で地に足が着いていた。さらに、元ネタでのデヴィッド・モースに対応するキャラを演じる山田孝之の、感性が麻痺することによってモンスター化する、ごくありふれた地方のロクデナシ(現実の激安犯罪の主人公)のリアリティが半端ではない。「ちゅらさん」における“恵達”への拒絶を本人も行動で表明していたが、「クローズZERO」辺りまではまだ名残があったし、ヒゲ面がイウォークみたいで地顔の可愛さも滲むが、この不快なキャラで、従来のイメージだけでなく演技力でも完全脱却。もちろん周囲を固める、七光りを超越してハマり過ぎの風俗嬢・安藤サクラや、主体性のない綾野剛田口トモロヲ谷村美月の愚かさなど、世界に溢れる感度の低い人間が容認する矛盾や、そこから生じる数々のルール無視や暴挙など、「ヒーローショー」にも通じる、圧倒的多数のどうしようもない大衆による、治安の悪化とそのプロセスが端的に描き出されている。今回の山田の元ネタ的な怪物を、かつて「隣人13号」で演じた新井浩文が、その陰画のような底なしの善人を演じているのも新鮮。新井くん初体験だった「青い春」前半の延長線上のようなイノセントなキャラがネタにも見えるが、「普通でいる困難さを」主張している作品の良心として、侍と呼べるような人間はいない現代では、許しも救いもなく、ただ押し寄せてくる日常や生活に埋没させ、うやむやにしていくしかないのだと思い知らされる。


 一観客として、「コロンビアーナ」へ。一応、「Mathilda」として温存した企画の流用だが、もういい加減「リュック・ベッソン云々〜」とか「『レオン』云々〜」というのは、本作とも無関係なばかりでなく、旧作の品格も下げるので止めましょう。で、映画としてどうなのかと言うと、体技の説得力では「エージェント・マロリー」に勝てない分、ゾーイ・サルダナ特有の流麗さが際立ち、特にアジトを急襲された逃走時の切れはただ美しい。しかしターゲットをブルース・ウェインばりにパニックルームへ籠もらせるなど、時流を安易に取り入れる社風ならではの軽薄さで損をしている。とはいえ、導入の「子連れ狼」の「赤猫まねき」に似た、獄中潜入ミッションからして復讐アクションの約束てんこ盛りなので、両親の仇討ちに殺しの師匠へ弟子入りという、「黒の天使 Vol.1」的な展開も持っており、引用し切れているかは別に、ちゃんと作ればいかにこの雛形が優れてるかの証明にもなっている(でも師匠はおっさんのクリフ・カーティスなので、また違った味わい)。また、現場に花の意匠を残すなどは「五瓣の椿」にも見えたりするが、幼少時が案外密に描かれているところは、極めてドライな「修羅雪姫」にも見え、ヒロインの少女時代の子役、アマンドラ・ステンバーグもパルクールばりの派手な逃走劇を展開するので将来が楽しみだ。ドライと言えば唯一のウェットな場面のサメがCGモロバレというのも残念だが、やはりサルダナのアップがもっと欲しかった。そしてやはり、ヨーロッパ・コープ謹製の軽量級アクションは→「ロックアウト」→「96時間/リベンジ」と続くけど、その前にステンバーグの出演する「ハンガー・ゲーム」には行かねばならないと固く誓うのだった。


 一観客として、「Mirror Mirror」へ。邦題が酷すぎるので原題で表記。こんな邦題のせいで俺以外は女の観客しかおらず、やや恥ずかしかったぞ。「白雪姫」をパロディしたいのか新解釈したいのか、ブレがある架空戦記のような薄さの居心地はちょっと問題として、親父の片鱗が見えない奇跡の存在リリー・コリンズのPVに開き直っている点は、彼女の眉が気持ちの澱を落とすブラシのように働いてくれ、極めて清々しく正解。それにチラシやポスターで気持ち悪くて鼻についていた、女王役のババアのアップもなく快適な上映時間を過ごせた。小技ではショーン・ビーンの登場や、小人の一人に「ウォッチメン」における“ビッグフィギュア”を起用しているのは芸達者で楽しい。また人種混淆、フリークスへの(半端な)偏愛、白鳥などの部分的な意匠等にウィトキンの影響が窺えたが、これがターセムの趣向なのか石岡瑛子さんの進言によるものなのかははっきりしないのはちょっと消化不良。それでもこれまで半端なアートへの引用が取り沙汰され(それゆえにビジュアル面でも評価され)てきたターセムにとって、彼女は再三指摘するように、北野武にとっての久石譲なのだ。だからそれなりに能動的な白雪姫が登場する、女王にとってはかなり意地悪な話でもあるが、表面上の装いのせいで、激しい描写の貧困が強調されてしまい、無理に娯楽寄りに力を入れていることもあってか、「インモータルズ」に続いて、いよいよターセムの底が尽きたように見える。でも、毎回それだけに次の作品が気になるわけで、石岡瑛子さんとの死別による強制コラボ解消が、次回にどう反映されるのか、早くも期待されてしまうのだ。クロッシング・ガード [DVD]下妻物語 スタンダード・エディション [DVD]ブコウスキー:オールド・パンク [DVD]ボーイズ・オン・ザ・ラン [DVD]ちゅらさん 完全版 DVD-BOXちゅらさん2 DVD-BOXちゅらさん3 DVD-BOXちゅらさん 4 [DVD]クローズZERO スタンダード・エディション [DVD]クローズZERO II スタンダード・エディション [DVD]ヒーローショー [DVD]隣人13号 [DVD]青い春 [DVD]Colombiana [Blu-ray]レオン 完全版 アドバンスト・コレクターズ・エディション [DVD]Haywire/エージェント・マロリー[日本語字幕無][リージョン2][PAL-UK] [DVD][Import]ダークナイト [DVD]子連れ狼 第1巻 愛蔵版 (キングシリーズ)黒の天使 Vol.1 デラックス版 [DVD]五瓣の椿 [DVD]修羅雪姫 [DVD]修羅雪姫 (上巻) (単行本コミックス)修羅雪姫 (下巻) (単行本コミックス)ハンガー・ゲーム [DVD]Mirror Mirror [DVD]ウォッチメン スペシャル・エディション [DVD]Witkinインモータルズ ?神々の戦い? [DVD]スター・ウォーズ トリロジー DVD-BOX