世界を滅ぼそうとする様々な意志について。

　SPOさんのご招待で「ダーケストアワー」試写へ。9.11や震災を経たから、前触れも因果もなく世界が突然終わる物語こそリアリティを感じられるわけで、スタッフによる「『インデペンデンス・デイ』物語上の侵略直後」という着眼点は当を得ている。いきなりデーモンの無差別合体が始まるような、前戯なしの終末であり、その正体に余計な説明もない。要するに「宇宙戦争」、あるいは「スカイライン -征服-」や「世界侵略：ロサンゼルス決戦」といった流れの延長で、少ない予算で大終末乱発という傾向は個人的にありがたい作品。よって物語構造は、多くの犠牲に素人が少しずつカタストロフへのサバイバル知識を吸収し、活用するという、もどかしくも醍醐味となる定番で、あくまで侵略者の姿を見せないために気も抜けない。辛うじて判明するのが、どうも磁場形成によってエネルギーを食うエネルギーという能力のみで畳み掛けるので展開も速い。さらに心眼で見えるエージェント・スミス的なグラフィック処理による侵略者の視覚が楽しく、このビジュアルだけはそろそろ、ロボコップやプレデターのようなサーモグラフでも、リディックのような特殊環境でもない新味を必要としただけに効果的だ。そこにモスクワロケの贅沢さによる「デイ・ウォッチ」並みの破壊やロシア人のタフさが垣間見え、一連の侵略ムービーとも一線を画した。また、主役のエミール・ハーシュはともかく、周囲がリメイク版「ロボコップ」の主役、「アートスクール・コンフィデンシャル」のヘナチョコ、仕切り直し「DREDD 3D」の相棒と、それぞれが今後の役の振幅に基準を見るようで、若手ショーケースとしても機能。監督も「ファイト・クラブ」の視覚設計スタッフ出身だけあり、今後のヴィジュアル面におけるハッタリを予感させる好編だ。

　一観客として、「ディクテーター 身元不明でニューヨーク」へ。サシャ・バロン・コーエンのキャラ作品は「アリ・G」みたいに物語のみのコメディでもキッチリ面白いが、「ボラット」が受けたせいで体当たり系のセミドキュメンタリーが続き、露悪性を前面に出したいのは分かるが、正直完成度には不安があった。というのも、日本人の場合、能動的に探さないとチェックできない、アカデミー賞のレッドカーペット（金正日遺骨ぶちまけ）やSNLのプロモーション映像（スコセッシ拷問）などが面白過ぎてね。だって、これらの映像は宣伝にも使われてないし。でも件のプロモーションのスコセッシや、本編のベン・キングズレーなど、本作は「ヒューゴの不思議な発明」で一番飛び出してた甲斐があった収穫を見せてくれた。遡れば「スウィーニー・トッド」を「レ・ミゼラブル」に活かされてしまう、溢れるガマン汁のような才能。加えて多言語のディスコミュニケーション、また、「アイアン・スカイ」にも通じる「チャップリンの独裁者」意識した全体の作劇や、“愛されたい独裁者”の孤独、その屈折に起因する処刑の乱発、その意外な周囲のアドリブによる急展開など、全くの杞憂で個人的にはミーガン・フォックスとの場面が一番笑えた。この濃さで90分ない無駄なさで嫌でも拡大されるのが、ジョン・C・ライリーの役の大きさに対し、エドワード・ノートンのどうしようもない無駄さ。さらに、「やればできる」少年のようなアンナ・ファリスのコケットリーとコメディエンヌの感性が拭われた、腋毛も含めての自然な存在感はかなり惚れ直せるし、そして出し惜しみないチンポ。この配慮はエンディングのNG集にまで続いてるから、とりあえずやり尽くした次は白紙でも今回は満喫しようじゃないか。

　一観客として、「バイオハザードV リトリビューション」へ。「3」くらいから既に収拾つかなくなっていたが、退くに退けない、レン“トータル・リコール”ワイズマン同様、夫唱婦随の安さ爆発アクションシリーズなのは言うまでもないとして、今回かなり開き直ってゾンビ映画であることも放棄して見える。ただし、これまでの全作の辻褄合わせ的ダイジェストのお蔭で、前作ほどあからさまな3D映画ではなくなっており、単純にシリーズ中の比率においては起伏のある物語はあった方だろう。あとはこの駄目な方のポール・アンダーソンへの好みで、内容の軽さと安さを乗り切れるかどうかだ。「キル・ビル」の“ゴーゴーボール”やザック・スナイダー版「ドーン・オブ・ザ・デッド」へのオマージュといった軽いアクションもさることながら、ミラも毎度の安い裸を披露しており、どっちも好きな人間には無駄のない作品といえる。しかし、既に予告編でネタバレとなっている、「スターシップ・トゥルーパーズ」の籠城戦さながらのカオスに覆われた状況や、ゲームのシリーズ化の現状を見れば分かるように、シエンナ・ギロリーやミシェル・ロドリゲスの再登板を踏まえて次回作へ続くらしいのだ。そして何よりも、よく不似合いな日本版オリジナルのエンディングが今回の場合に限っては、物語の中で最も心を揺さぶり、エンドロール中も席を立つ気にさせなかったことで、愛しの中島美嘉の起用が大英断だということを体感したね。