環境依存型娯楽なんだよね。

 プレシディオさんのご招待で「009 RE:CYBORG」試写へ。全てのミッションが完了した近未来(2013年)、個体によっては再起動、あるいは記憶が消去され、散り散りになったサイボーグ達が各地のテロをきっかけに再集結し、内なる敵の探索とテロ時代の正義についての主導権を巡り争う。かつての押井守監督による短編からCG臭さを取り除き、設定や断片的に提示されていた場面を有機的な物語でつなぎ、全体をアニメ調に再処理したものなので、ある程度「サイボーグ009」への予備知識は必要とされる。だから押井監督編の解答になってるし、画質も一新されているため、例の短編を観ているなら必見。だが、このプロローグを押井監督が手掛けていたように、リセットによる高校生を繰り返すジョーは「スカイ・クロラ」だし、「ケルベロス」的な使い捨てソルジャーは「エンジェル・ウォーズ」にもパクられた人狼系。さらに壮絶なシーンを背景に交わされる禅問答など、全てが押井印なので、監督のファンなら自然に入り込めるはず。さらにこっちは3DCG映画なので、3Dで鑑賞することにこそ作品としての意義がある。まさに体験としての映画。そして俺は線が細くてもリアルなこういうキャラはオリジナルも踏襲し、かつ最近の「鬼太郎」や「ドラえもん」みたいな原画の品位を損なう改悪にはなってないため、かなり好み。とはいえ各サイボーグの能力的な再定義によって、現代では突出した超能力と呼べるような能力ではないものも含まれるためか、活躍が平等にないのは残念でもある。しかしそこは「天使編」への軽い言及もあることだし、ぜひとも続編を待ちたいところだ。


 一観客として、「ソハの地下水道」へ。俺は「地下水道」がトラウマ映画なので身構えていたが、奥行きのある高解像度カラーで汚さ倍増でも、生業の地下水道網メンテの片手間に、熟知するネットワークを活かし、生活のため空き巣を繰り返す主人公・ソハのナビが頼もしく、意外と息苦しくなかった。それより若干の脚色はあっても、抜き身のドラマを提示することの重厚さが前面に出ていて、思わずそっちに集中してしまう。しかし、ゲットーのユダヤ人を踊らせるのは「戦場のピアニスト」にもあったが、他にも手はあるだけに、サディスティックに楽しいかは疑問だ。むしろ盗みの後、彼が森に目を凝らすと、全裸で追われる老若取り混ぜた女の群れが見える場面は、人間性の否定と、支配側の興奮を同時に象徴していて、それを一瞥しても動揺がない、殺伐としたソハの内面も見え隠れし、そのふてぶてしい面構えの活きるいいシーンである。また、地下生活の汚れ具合は、「ダークナイト ライジング」よりリアルに不衛生な環境が表現され、俺でもスカトロAV等が平気で観られる、臭気を再現できない映像ならではの利点は本作にも有効だ。それだけに、日野日出志先生の極彩色の腐臭と汚物の描写や、山野一先生による「どぶさらい劇場」や「人間ポンプ」の閉塞には及ばないのも事実ではある。さらに「タイタニック」なんかにも通じる、暴力の支配下では「女子供が先」という、平等思想の屁理屈が無力化する過程も描かれており、こうした女性監督側から欺瞞を突く痛快さは、「太陽と月に背いて」にもあったが、子ども、老人、傷病者、妊婦の優先はともかく、いつの時代も男女平等など有事には欺瞞でしかないと見事に暴いているのであった。


 一観客として、「そして友よ、静かに死ね」へ。実録原作と実力派の監督を揃え、申し分ないキャスティングによる、現在の登場人物の魅力にも拘わらず、若い頃の主人公役の似てなさが全て台無しにしてるのは痛恨の極み。トータルの出来、実話の重みとリアリティは別に、似たような経緯で製作された「バレッツ」の方が、若い頃の主人公の人選では圧倒的に勝ってしまっている。別に「バレッツ」も激似でもないが、要は物語が過去を振り返るたびに、切り替えねばならないこっちの頭が痛くなる辛さ。しかも現代パートはそのストレスがほぼ皆無だけに差が際立つ。時代を切り取ったサントラや、妻や親友の絶妙に似た人選の努力でも、友とのすれ違い以上に違和感が残る。これはずっと隣でガムをクチャクチャやってたジジイのせいだけじゃないはずだ(仕返しに、俺はすかしっ屁とゲップを送り込んでおいた)。それはそうと、主人公はロマで謂れない差別を受けていたことから親友と出会い、強盗団結成へと発展してるので、逃亡の果てに匿う羽目になる親友自体がどこか優越感を抱えたような、対等な友情でもない。話を在日に置き換えるなら、「やくざの墓場・くちなしの花」の渡哲也と梅宮辰夫というか、幼なじみ的には「新・仁義なき戦い。」のトヨエツと布袋というか。この根深い問題は、邦題を「友よ静かに死ね」に似せ、強盗としてのアラン・ドロン色を強調したいのだろうが、ドロンなら「ル・ジタン」に近い。ただ、友情と反目はさておき、人としてどう落とし前をつけるかで決着を迎える意味で、本作はまさしく仁侠映画なんである。サイボーグ009 1979 DVD-COLLECTION Vol.1サイボーグ009 1979 DVD‐COLLECTION VOL.2<完><東映55キャンペーン第13弾>サイボーグ009 超銀河伝説 [DVD]スカイ・クロラ [DVD]EMOTION the Best GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 [DVD]イノセンス スタンダード版 [DVD]紅い眼鏡 [DVD]ケルベロス 地獄の番犬 [DVD]EMOTION the Best 人狼 JIN-ROH [DVD]エンジェル ウォーズ [DVD]地下水道 [DVD]戦場のピアニスト [DVD]ダークナイト ライジング Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)毒虫小僧 (ヒットコミックス ショッキング劇場)地獄小僧 (ちくま文庫)どぶさらい劇場貧困魔境伝ヒヤパカタイタニック [DVD]太陽と月に背いて [DVD]バレッツ [DVD]友よ静かに死ね [DVD]やくざの墓場 くちなしの花 [DVD]新・仁義なき戦い。 [DVD]ル・ジタン〈HDリマスター版〉 [DVD]