虚構と現実のフリークアウト、そして脱出。

 SPOさんのご招待で「ディラン・ドッグ/デッド・オブ・ナイト」試写へ。「デモンズ'95」という最悪邦題で公開された、イタリアの名キャラが満を持して正式名称を披露。しかも以前の映画が超ハードボイルドな傑作だったので、原作に忠実らしい本作のコミカルさは意外だった。でも連続活劇という原作の特性からして、私立探偵である本作の設定の方が自然で、原作のコマ割りを意識したようなオフビートな展開は、似た設定の「コンスタンティン(ヘルブレイザー)」が本邦公開済みだからこそ、すんなり入れる。その辺は作り手も意識してて、旧作よりも「コンスタンティン」のサタンこと、ピーター・ストーメアを配したり、舞台をロンドンじゃなくニューオーリンズに変更するなど、ゾンビ以外の要素が入る余地を追加している。その辺のモンスター入り乱れ平然と話が進むカオスは「ブレイド」や「狼男アメリカン(ファングルフ)」経由、「アンダーワールド」行きの過程に属すると言えるだろう。さらに、かつてCGでの「ミュータント・タートルズ-TMNT-」を経た、ケヴィン・マンロー監督だからこそ、ピーター・ジャクソンギレルモ・デル・トロにも近い、特殊メイクを貫く実写主義は理解できるし、頻出するエンフィールド・リボルバーなんて、デル・トロ趣味そのもの。それに主役が「スーパーマン・リターンズ」や、これまた最悪邦題「恋するポルノグラフィティ」、さらに「スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団」でキャラ崩しに努めるブランドン・ラウスで、オリジナルの原画に逆影響したルパート・エヴェレットに通じる端整さはキャラの特性を継承してる。ちなみに今回の相棒は知恵遅れの大男じゃなかったりするけど、いずれラウスの努力は、来年の「Man of Steel」で自動的に報われる予定なんだがね。


 一観客として、「危険なメソッド」へ。ホラー作品のせいで、クローネンバーグはいつまでも「ビジュアル的突出がないと“らしく”ない」みたいな括りをされ気の毒だが、むしろ監督は、物語の論理性の帰結に必然的なビジュアルを援用しているだけなので、今回、精神における奇形性でそれを発揮している。それに、またも「向こう側」に行ったまま帰らない人物も描かれ、従来作とその点は共通している。本作は治療者ユングにとって、妻と愛人の間を行き来する「ザ・ブルード」なので、見た目の大人しさに騙されてはいけない。精神の奇形性も「スパイダー」を経由した、我々の終着としての「クラッシュ」を予感させるし、実在の人物の主観的事実という面では、「戦慄の絆」、「裸のランチ」、「エム・バタフライ(これも本作と同じ、元・舞台劇)」の系譜に属するもので、コスチューム劇の手法以外は同じだ。これは意外性がないのではなく、事実なりの不完全燃焼感も作家性の一部にし、その指向する向きへ作家として無理がないということ。今では数が減っただけに見える狂った女の治療法や、手紙の迂遠なやり取りにより友情が齟齬を来たしていく過程は、メンヘラ女の増長や、メールから仲違いする友人同士のように、いずれも現代にも通じる問題の原点だ。つまり作家性として求められるものは満たしているし、その限りでは安心して堪能できる。それに、監督が以前から偏愛し「レプリカも持っている」と発言したフロイトの椅子は、やはり折に触れ、その奇形性もさりげなく強調されている。しかし、いつも監督作品のパンフは出来がいいのに、今回はいくらユングがオカルティストでも、占い師(ペテン師)にこうした繊細な作品への与太話を書かせてパンフを買わせようというのは、あまりにも失礼なので買わなかった。


 一観客として、「アルゴ」へ。 冒頭の在りし日の「ワーナー・ブラザーズ」のロゴでまず感涙。次に往年のニール・アダムスみたいな流麗なコミック調の絵で、イラン革命までの沿革を描いた導入に引き込まれ、ざらついた画面に展開される意外な物語の顛末までのめり込んだ。もちろん、やり場のなさ故に苛烈な、イラン人によるアメリカ人への怒りは、本来はイギリスに怒るべきじゃないのか?と思ったりもしたが、ヒッピーやマッチョ主義の残り香がするヤッピーたちの暑苦しいファッションも含め、70年代顔をよく揃えた!とエンドロールでも感心し、ベン・アフレックの今後に期待が高まった。今後、「デアデビル」のリブートや「ジャスティス・リーグ」の監督話も出てるけど、マンガの映画化とかの、全方向型の娯楽作品は、今回は変化球の娯楽作だっただけに彼の作家性としては、あまり期待したくない。やはり、前作「ザ・タウン」の出来がかなり良かったため、硬派な小説をチョイスしては映画化する、渋い作家性を追求して欲しいね。とはいえ、本作のオチは「デルタ・フォース」みたいだったんで、チャック・ノリスも復活したし、元々シュワ主演でテレビドラマのリメイクが進んだこともあるロス・ペローの伝記「鷲の翼に乗って」を、現在の枯れたシュワでやるにもいい頃合かも知れない。ただ、本作に関して惜しいのは、物語がスカスカなのに未だに神格化されてる、「スター・ウォーズ」礼賛みたいな終わり方。俺も日本がアメトイ後進国だった頃には「E.T.」観て憧れたもんだが、それは写実性の高いリアルなグッズ展開の幅広さにであって、作品そのものの質の高さからではない、ということはこの際強調しておきたいね。デモンズ’95 [DVD]コンスタンティン [DVD]John Constantine, Hellblazer Vol. 1: Original Sinsブレイド〈DTS EDITION〉 [DVD]ブレイド 2 ― コレクターズ・エディション [DVD]ブレイド3 スタンダードエディション [DVD]ブレイド ブラッド・オブ・カソン DVD-BOX狼男アメリカン [DVD]ファングルフ?狼男アメリカンinパリ? [DVD]アンダーワールド スペシャル・エディション [DVD]アンダーワールド 2 エボリューション コレクターズ・エディション [DVD]アンダーワールド ビギンズ コレクターズ・エディション [DVD]アンダーワールド 覚醒 [DVD]ミュータント・タートルズ-TMNT- 特別版 [DVD]ヘルボーイ [DVD]ヘルボーイ ゴールデン・アーミー [DVD]スーパーマン リターンズ [DVD]恋するポルノ?グラフィティ [DVD]スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団 [DVD]A Dangerous Method[US-Blu-Ray][Import][リージョンA]ザ・ブルード/怒りのメタファー [DVD]スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする [DVD]クラッシュ [DVD]戦慄の絆 <デジタルリマスター版> [DVD]裸のランチ [DVD]エム・バタフライ【字幕ワイド版】 [VHS]アルゴブルーレイ&DVD (2枚組)(初回限定版) [Blu-ray]デアデビル/ディレクターズ・カット [DVD]ジャスティスリーグ / ジャスティスリーグ誕生 ! [DVD]ザ・タウン [DVD]デルタ・フォース [DVD]鷲の翼に乗って (上) (集英社文庫)鷲の翼に乗って (下) (集英社文庫)スター・ウォーズ トリロジー DVD-BOXE.T.コレクターズ・エディション [DVD]