帝国主義の後始末が招いたもの。
20世紀フォックスさんのご招待で、「マリーゴールドホテルへようこそ」試写へ。アクション的に“M”か「リディック」ってだけで認識充分のジュディ・デンチのリハビリ映画。偉大な女優だが加齢で目を病み、近い将来引退は免れないから、まずは撮影兼ねて休ませないと!とジョン・マッデンが乗り出し、労をねぎらいに英国ロートルキャストも大集結した。しかも、アクション親和性の高い旧友、トム・ウィルキンソンやビル・ナイ、果ては“マクゴナガル先生”ことマギー・スミスも参戦、イギリス年配俳優版「エクスペンダブルズ」の様相だ。さらに、「インドの海外ロングステイホテルに食い詰め老人が集結」という今日的な設定は、「スラムドッグ$ミリオネア」が嘘臭かった反面、デーヴ・パテールが今回は地に足を着け、自分の将来とホテル経営に葛藤する、リアリティある支配人として補強。それにしてもその恋人(コールセンター勤務は「スラム〜」を継承)といい、母親といい、インドは本当に美人国だと思うが、差別や犯罪、貧困や不衛生を超えないと接近できないので、強いて行きたい気にはならないけどね。でも、日本の老人にとっても、かつての統治下のアジアに行くよな感覚が理解できる作りなので、カルチャーギャップネタは年寄りの偏見ゆえに、不快かつ平易で、それだけに解消は重みのある笑いを獲得している。また、豪華な競演にあって、彼女らの異国での開明にも、寿命が忍び寄るのが容易に察せられる面々だけに、いつ誰が死ぬか危うく、全員ゴールに着けるか非常にサスペンスフルなのだ。まあ、そんな穿って観ずとも、包容力と、年輪を経た叡智の裏づけがないと生じない愛らしさに満ち、そのままデンチのPVとしても通用してるところが、従来の“M”好きや、マザコンや熟女好きにも堪らないはず!
一観客として、「リンカーン/秘密の書」へ。正直そんなに期待してなかったが、史実を案外厳密に踏襲し、知ってれば知ってるほど面白いのは、スター不在で日本人には敷居が高いだろうけど、ベクマンベトフ監督の実力を確認できる、またとない機会ではある。また、本編のリンカーンの激似具合に対し、夫人はかなり美化されてるが、真打となるスピルバーグの「Lincoln」を踏まえ、こっちのメアリー・エリザベス・ウィンステッドが、あっちのサリー・フィールドになるのは極めて自然で、その美を3Dで堪能できる多幸感は凄まじい。それに歴史に隠された偉人の暗黒面、その秘話という意味では、実際に囁かれるゲイ疑惑のメタファーにもなってるんだろうが、敵対する吸血鬼は「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」よろしく、ニューオーリンズを本拠地とするだけでなく、単純に南北戦争と絡めた彼らの野望が見事にかみ合い、原作小説の表紙絵で落胆した人間にも入り込ませる説得力がある。ただ、“吸血鬼に銀が効く”というのは、従来ジャンルでは“ゾンビの徒歩/走行”と同等に賛否両論要素で、それを不可欠の設定にするとちょっと苦しいが、先込め式が幅を利かせている時代ゆえ、銃が暴発する怖さも、アックス型ポンプショットガン機構の危うさと同じくスリルとして機能し、かなり後半で持ち直してくれる。さらに、この大統領のもうひとつ重要なエピックとしては「ナショナル・トレジャー2」で明らかなように、本人の暗殺は外せないわけだが、その辺をどう処理したいのか?までは、「ウォンテッド」と違ってこれ一作で終わらせるつもりなのか、ごくアッサリ流していて、歴史の盛り上がりの必然性としては、ちょっともったいないかも。
一観客として、「黄金を抱いて翔べ」へ。誰もが銃を使いこなす世界で、単に「金は重い」ってだけで、強奪を挑むテストステロン男どものうざい因業さで「ヒーローショー」を継承、動機も背景も極力排除した作品。「現金に体を張れ」、「黄金の七人」、「汚れた七人」、「仁義」、「ミニミニ大作戦(旧作)」等や、上記を踏まえた「ルパン三世」を狙ったと思えばハマるし、何より「犬死にせしもの」が好きなら必見。また、前作より深いアウトロー社会だけに、飯島洋一さん的なキャラの増殖(田口トモロヲ、鶴見辰吾、でんでん)も強化。それに、“キャスト重複(西田敏行、浅野忠信等)”、“公開時期”、“「家族を巻き込む暴力」へのこだわり”等も、かつて監督を揶揄したたけしへの、暴力映画としての引き続きの返歌なのだ。また、大阪弁のネイティヴ感は「アウトレイジ ビヨンド」の痛恨点だけに、リアルな方言と掛け合いはこっちの完全勝利。浅野は角刈りがハードすぎて、“バカボンパパ”というか、“鬼瓦権造”にしか見えない粗野さで新境地を開拓。実写版「タラちゃん」vs「のび太」は、「プレステージ」みたいに対決じゃないが、そこに言及するのが監督のサービス精神だし、顔が可愛すぎるチャンミンや溝端のお蔭で、向こうを張る妻夫木も得している。桐谷健太の繊細さと清潔感も見直した。実は「アウトレイジ」に共通するオタクの完全否定を見る限り、たけしと井筒監督の近親憎悪は互いにあるし、後半のロマンチシズムを見る限り、登場人物の寄り添い方も、役者への信頼でも、監督の方が優しい。しかし、「ガキ帝国」〜「岸和田少年愚連隊」から引きずる、独特な関西の喫茶店カルチャー描写や、たこ焼き、豚まん、てっちり、バッテラ等、関西への食のこだわりは分かるが、あの真っ黒な焼肉?は何?まぁそれは措いても、冒頭クレジットでスポンサーが分かったため、エンドロールを見たくても、予想通り内容と無関係な歌が流れ、逃げるように劇場を後にするしかなかったね。