“任務”に必ず“裏任務”あり。

　ファントム・フィルムさんのご招待で、「ムーンライズ・キングダム」試写へ。平たく言えば、「小さな恋のメロディ」と「わたしは真悟」を足しマイルドにしたような物語。しかし回転、上下左右の小刻みなパン、強調されないのに密なドールハウス的ディテールと、その気配りに見合って行き届いた計算は、紛れもないウェス・アンダーソン印だ。こうした彼のコントロール志向の帰結点は人形アニメしかないと思ってたので、病んだリハビリに「ダージリン急行」を挟んでも「ライフ・アクアティック」→「ファンタスティックMr.FOX」の流れは必然だった。だが今回、流れが先鋭化するかと思えば、敢えて集団作業や生活が必要な「島」を舞台とし、今後の再確認にデコラティブな試みを意図的に施して見える。家具、設定、衣装、人間関係がそれほど隅々にまで力が入ってる。その上、青く固いがゆえに極端な互いへの執着を生まない、思慕のみの淡白なエロスときたら…って、何で俺が子供同士の恋に胸キュンしてるかと言えば、その清潔さ以外にも、ヒロインが「〜テネンバウムズ」のグウィネスを想起させるのも大きい。それに、子供とその所属コミュニティを描いたミニマルな話に終わらない、後半の意外な大スペクタクルは、箱庭を壊そうという子供（監督）の暗黒面としての破壊衝動の現れでもあるだろう。また、従来に比べると60年代アメリカが舞台なだけに、ロック代わりに地域性を活かしたクラシックと子供たちの合唱で占められるサントラも新機軸。悪意はないが不自由でぎこちない大人たちでは、新顔ながら安定したエドワード・ノートンに加え、アンダーソン組でもジェイソン・シュワルツマンがルーク＆オーウェン・ウィルソンっぽいポジションを獲得して目立ってる。天才マックスも成長したね。しかし、背後にはもっと偉大なゲストもさりげなく控えてるから気が抜けない。ちなみに個人的には、スイスアーミーナイフのマルチフックの珍しい用途を知ったのは、かなり得した気分。

　一観客として、「ロックアウト」へ。リュック・ベッソンが再び描く、誰もが既視感ありまくりの未来だが、宇宙監獄の割には「デモリションマン」状態の冷凍刑務所だから、案外内部は狭く、「フォートレス」みたいな脱出ものの要素はない。その上、当然のようにミッション（大統領の娘奪還）も決まってるし、「ドゥームズデイ」ばりに状況を観測する外部と連絡を交わしながらアクシデントに対処してるので、観てる側にも把握しやすいのが誉めどころかも知れない。潜入するスネーク…もとい“スノー”本人も、スネークほど嫌々ではなく、任務遂行に自発的な動機もあるし、そもそもアウトローでもない。囚人も極悪人らしいが、基本「眠ってる」か「バカ」か「粗暴」かってだけで、さほど苦戦せず、もちろん、監督の死により映像化が頓挫したままの「グリーンリバー・ライジング」みたいにもならない。ピーター・ストーメアも期待通りの役回りなので、ある意味サプライズではないし。つまり、設定は「エスケープ・フロム〜」シリーズなのに、「ドゥームズ〜」のような、オマージュを捧げつつオリジナルを意識した解放感は、予算の関係かまるでないけれども、ただ、閉鎖空間の息苦しさだけは、「パンドラム」にも似て閉所恐怖症にはキツい展開なのが、緊張感で俺にはプラスに作用した。しかし、未解決の謎はいくつかあるものの、続編がないのはほぼ確定なので、“ピーター・ウェイランド”や「アイアンマン3」に続き、「アメイジング・スパイダーマン」シリーズにおける“ノーマン・オズボーン”説も依然疑われるため、こちら側ににじり寄るのが油断ならない、（ナイス）ガイ・ピアースのジャンル演技追究には期待してる。しかも、保護されたマギー・グレイスの活躍は「96時間／リベンジ」に続くのだ。

　一観客として、「007 スカイフォール」へ。正直、何書いてもネタバレになりそうで困ってたんだ。やりすぎボンドだったブロスナン版からの脱却を意図し、クレイグ版は目先の変更に苦心が見えたが、要するに「カジノ・ロワイヤル（＝「00」襲名）」→「慰めの報酬（＝敵の出現）」→そして今回（＝周囲の環境整備）と、三本まとめて「ジェームス・ボンド・ビギンズ」だと思いたい。オープニングの硬さがシリーズ重ねてどんどん良くなるのもクレイグ版の特徴だが、今回はマティーニにもこだわり、名実共に成長を見せる。ノーランがバットマン再開に参考とした原典からの途中以降の逆引用、および自らへの回帰が凄まじく、アルフレッド…じゃなかったキンケイドと挑む、ウェイン邸…じゃなかったボンド邸の炎上と共に、上映時間の長さも「〜ビギンズ」級。また、「M:i:III」への嫌味っぽい上海はともかく、一切ロケなしのマカオは、敵となる“蒲郡風太郎”っぽい“シルヴァ”の本拠地の意匠参考とされた軍艦島と合わせ「ドクター・ノオ」っぽく、さらにはガジェットも…。つまり、離れようと見えたのは、実は大きなカーブを描いた回帰だったのだ。さらにボンドの裏返しである敵の“M”に対する執着は、捨て子の悲しみを持つそれで、彼女が“M”＝Majesty & Motherでもあったと裏付けられる。故に全体的として、元・内部の人間が企む復讐は“006（「ゴールデンアイ」）”だし、本部の破壊（「ワールド・イズ・ノット・イナフ」）、髭ボーボーからの復活（「ダイ・アナザー・デイ」）と、ジュディ・デンチ仕事を総括。これはデンチが、「純子引退記念映画 関東緋桜一家」みたく、いかに愛されていたかの証である。ともあれ、今回はアニバーサリーと共にイベントとして一度きり許されるとしても、とにかく時間を開けず、さらにはこれまでのあの殺伐と無常を維持し、あまりトラッドに戻らず次へ行って欲しいが、この宣言でブロスナン版の新鋭化努力も無にしてしまったわけで、本当に大変だろう。だから“クォンタム”との全面対決も決して放ったらかしにしたわけじゃなく、その際はカミーユも出るのを期待している。[rakuten:asr:10014156:image:small]