「生きるための戦い」って暴力じゃなくて？

　パンドラさんのご招待で「よりよき人生」試写へ。資本主義、それもとりわけ新自由主義を標榜したものは、先進国が軒並みそうであるように、実直な人間が人生をステップアップさせるために夢見る、堅実でわずかな賭けでさえも、その失敗により全てを失わせ、より深い転落へ引きずり込む、リスキーな賭けに変貌させる。その点はフランスも一緒なので、転落者が住まうバンリューを舞台にした「憎しみ」や「アルティメット」シリーズみたいな作品が生まれているわけだ。「住まう人間に夢を見させない国に未来はあるのか？」という問いかけである。とはいえ、出稼ぎ先で失踪してしまった女の連れ子と慎ましやかな擬似家族を形成していく、少年のような笑顔が印象的なギョーム・カネに、力押しで突破する解決法を与えたのは、セドリック・カーン監督も答えを出しかねているからだろう。かといってそうした力に頼りすぎてしまうと、「ロベルト・スッコ」のように救いのない方向に行くが、今回は動機としても、必要以上の逸脱を制御する存在としても連れ子との絆は大きく、その母たるレイラ・ベクティの存在にもいつしか説得力を感じていた。だって、「パリ・ジュテーム」や「変人村」では“可愛らしい女の子”といった風情だったから注目してたのに！女優としての秘めたポテンシャルが本作や「虚空の鎮魂歌」で開花してるのかもね。

　一観客として、「96時間／リベンジ」へ。前作公開時に続編の報を聞いて、次は娘がまた別の国で誘拐されるのの繰り返しじゃないのか？と、「ダイ・ハード」方式を疑っていたが、さすがにそれはなかった。しかも原題「TAKEN」に相応しい、本当の意味での続編。だからリミットなんてものはなく、今回誘拐されるのは、全快誘拐犯を追いかけた父親なんだから、前作の邦題が枷になってる。さらには敵が前作でリーアム・ニーソンにブチ殺されたアルバニア系人身売買組織の親父（“ボリス・ザ・ブレイド”！）、即ちそうした生業の元締めなんだから、シリーズとして作品を観ようとしている観客にはかなり配慮したアプローチだ。その期待に応えて前作の親父のエージェント仲間も援護射撃しているが、それならば娘がファンだったはずのホリー・ヴァランスも何からの形で絡めて欲しかった。とはいえ今回の舞台はトルコなので、「007 スカイフォール」や、モロッコだけど「ボーン・アルティメイタム」みたいに、ザコに至るまで濃い髭面でむさ苦しく、クマ系の好みがある人には堪らないであろうしつこさ。ラストバトルの場面はトルコ風呂なので、「アクシデンタル・スパイ」や「トランスポーター」みたいになるのかと思えば、浴場の内装が「アジョシ」っぽく、ならば得物へのこだわりに期待したが、プッシュダガーのようなものと匂わせる程度で扱いが低く、残念。しかし、吊るされたり泣いたりと、様々な角度からファムケ・ヤンセンの骨格美が堪能できたので、その点は大満足。でも、もう続編はいいよ。　

　一観客として、「LOOPER/ルーパー」へ。「こちらブルームーン探偵社」あたりをリアルタイムで観てる世代はもとより、我々は既に「サロゲート」で無理に若くしたブルース・ウィリスを目撃してるので、単に試みは面白くても、耳の形が決定的に違うジョゼフ・ゴードン＝レヴィットを若いウィリスとは思えなかったのだった。度々書いているが、デ・ニーロを始めとする、彼らの“若い頃役者”のウォッチングとしても、表情や動きをレヴィットはかなり研究しているが、ウィリスの獣気が足りないので本質的に違うタイプ。しかし、そこで乗れなくても、エミリー・ブラントの割れ顎の女性美が堪能できるのは良かった。ところが、彼女が斧を振り回す手つきが危なっかしくて怖かったし、不自然なセックスでマイナスされてしまうのだ。仮に女の側が飢えてたとか、子供を守る代償に自分を与えたとも言えるけど、そういう意図なら余計に、そんな行動に走る人物の卑しさが好きになれないからマイナスだね。基本的に何を観てても、それはいい所を探す作業と同義なので、あまりこういうことないんだけど、鈍くさい銃の造形や、物語に必然性のない中国へのゴマスリが不快だったりもする。また、伏線としてPKの設定は重要なんだけど、タイムパラドックスを盛り込んだ近未来SFに、超能力まで容認すると、設定的に何でもありになっちゃうし、ジャンルとしても話の説得力も弱くなるからいただけない。それに、何よりも我々は先んじて、「自分会議」などの藤子・F・不二雄によるSF短編で、似た話をもっとビターな結末で知っていたから、あの安易な幕引きにナルシスティックな甘さが見えて堪らなかったのかも知れない。