物語に投入された異物の成否。

　東映さんのご招待で、「ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀」試写へ。「Star Trek Into Darkness」が控えているから、シリーズ一作目のロバート・ワイズをリスペクトしてというわけでもないだろうが、旧作「ヒンデンブルグ」でも有名な飛行船事故をよりリアルに再現。その燃えやすさから、以後作られなくなったのも至極納得の脆さが、冒頭のグライダー場面同様、全編に渡り危なっかしく怖かった。元はドイツのテレビドラマを劇場用に再編集したものだが、「U・ボート」とは違って端折られたことで事故原因についての陰謀部分がよりミステリアスになってて、結果オーライではなかろうか。日本じゃテレビドラマをこんな贅沢に作って流用することもできないから、まずはその驚異を讃えるべきだし、主役になじみはなくても、鉄板のステイシー・キーチや老けても美人なグレタ・スカッキなど、ハリウッド的キャストにも気を配っているのでキャスト的なアンサンブルも映画として申し分なし。このところ、「フライボーイズ」や「エンジェル ウォーズ」といった、やや変化球で当時の雰囲気の再現に努めた作品は散見されてたが、直球で当時のインフレ気味だった空へのテクノロジー依存（と挫折）を描いているのは珍しい。そういう視点で本作を観ると、人類の無謀な挑戦の記録としても、最新のテクノロジーで視覚化される価値はある惨事だったと分かるはずだ。

　一観客として「テッド」へ。要するに、東西の笑いのセンスの違いとかではない。本来日本より進んで攻撃的なはずのアメリカのコメディ映画の割には、予算が掛かっているせいか、その基本設定にも拘らず暴力と差別とグロが圧倒的に足りないのだ。つまり、コメディとして致命的なのは、案外上品でそんなに笑えないのである。せっかく酒と女とマリファナに目がないぬいぐるみが主役なんだから、もっと下品じゃないと。下ネタもあるにはあるんだけど、別に直接描写を入れろと言うのではなく、その絶対量が少ないことが問題なのだ。作り手としては毒の強い「ハワード・ザ・ダック」程度の水準を目指していたんだろうか？だとしても、「ミート・ザ・フィーブルズ」や「マルキ」を通過している我々は、動物の人形が織り成すセックスと暴力にまみれた笑いの基準値が元々高いのは自明だ。アメリカン・カルチャーについてのネタは、ティファニーとシンニード・オコナーについての箇所は笑えたが、監督が再三にわたり強調している「フラッシュ・ゴードン」とトム・スケリットのネタは、アメリカ的に受けるかどうかよりも、監督自身が勝手に面白がってるだけに見えて、お寒いのも悲しかった。対して全体に血を通わせた、マーク・ウォールバーグとミラ・クニスの健闘には拍手したいけど、それはコメディを誉めるのとは別の話だ。

　一観客として「アウトロー」へ。完全に邦題の失敗。予告で「6発の銃声。5人の死体〜」とか言ってるから、「ザ・シューター」のような射撃技術への造詣を駆使した偽装を期待してたが、単に一発が打ち損じの乱射事件（に見せかけた陰謀）ってだけだった。それに、予告といえば自分が寝落ちしてたのか？と自身を後で疑ったが、強調されてた土砂崩れっぽいシーンは、それが出ると期待させた採石場での最終決着シーンでも全く登場しない…。だが中盤、マッスルカーのカーチェイスのみ、「ゲッタウェイ」を意識して傑作「誘拐犯」を撮った、クリストファー・マッカリーの70年代風アクションへの思い入れと意地が見えたのは良かったけどね。また、登場人物にハゲが多いので、混乱する奴は混乱するだろうが、ロバート・デュヴァルだけが結局ちゃんとしたスナイパーで、海兵隊出身として狙撃技術において、陸軍出身者をを見下してる描写は原作由来の良さだろう。しかし、シリーズとしては、流れ者がそんなに毎回都合よくトラブルに巻き込まれるはずがない時点で持続性に無理があるし、本作もシリーズ途中から映画化したために、陰謀の全貌が現時点では意図的に暈してあって不満が残る。あまり悪事への忠義立てやパッションが感じられない今回の敵、ジェイ・コートニーは、その悪人面だけは頼もしいので、「ダイ・ハード/ラスト・デイ」における、“ジャック・マクレーン”こと、ジョン・マクレーン.Jrとしての活躍で判断したい。ヒロイン的には、干からび具合で欲情させるロザムンド・パイクより、不憫なアレクシア・ファストがとにかく最高で、相変わらずプロデューサーとしてのトムの女優観察眼は信頼できると再認識したのは間違いないけど、続くのかねぇ。