返礼の可能性について。

 キノフィルムズさんのご招待で、「偽りなき者」試写へ。誰もが見過ごしてるけど、実は鉄道会社にその責任がある痴漢冤罪より、誰でも陥る可能性のある不条理を描いた、ヘビー級の作品。成熟したデンマークでも防げない、「ディア・ハンター」を髣髴とさせる、狩猟中の誤射のような、理不尽でやりきれない物語だ。それに性犯罪の中でもとりわけ実証も反証も難しい、子供を対象とした性犯罪、その冤罪に晒された人間の苦悩に果敢に切り込んでいる。性犯罪というだけでも、「被害者だから嘘は言わないだろう」との見なしに基づいて、被害者側の言い分しか聞かない、状況証拠のみを積み重ねての有罪でっち上げが横行しているのは、日本の検察だけじゃなく万国共通らしい。特に子供は、証言が妄想に基づく嘘と周囲に発覚すると怒られるから、簡単には嘘を嘘と明かさない上、ショックが記憶を封印、あるいは改変するという解釈だっていくらでも可能なんで厄介だ。社会的にも、こうした犯罪は一度レッテルが貼られると、有罪ならもちろん、仮に疑惑が晴れても白眼視されるのは、アメリカなら「ハピネス」や「リトル・チルドレン」、また「ラブリー・ボーン」などでも描かれるように自明のことだったが、“大人の国”であるヨーロッパでも大差はないところを描いたのは画期的だ。また、そこから所詮は警察国家的な魔女狩りコミュニティを形成するしかない、人間の業までも立ち上ってくる深遠さである。それに成熟した国にあっても、「子供はイノセント」という前提に立って、いくらでも誘導できるのが恐ろしく、類似のケースが現実にあったとすれば、もっと悲惨な展開をしていてもおかしくない。この巨大な受難にあっても、無骨なマッツ・ミケルセンのひたすら耐える表情が活きるテーマに、「ヴァルハラ・ライジング」との近縁性が見えるので、セットでの鑑賞をお勧めしたいところだ。


 一観客として「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」へ。監督の作品としては「ラスト、コーション」を超えるものではなかったが、いきなり「アメイジングスパイダーマン」における、怪しいオズコープの社員が登場したので、「こいつの言うことなら話半分で受け止めた方がいいな…。」と思ってたら、案外想像ほど奇想天外ではなかったので逆に驚いた。寓話とサバイバルもののいいとこ取りが絶妙なブレンドで、シンプルな話にもかかわらず、ボリュームのある上映時間もダレ場がない。また表向きの話とは別に、終盤には観客がボンヤリと抱いてたはずの、もうひとつの恐ろしい現実がほのめかされるのだが、真相は藪の中ながら、鑑賞後も尾を引く思考を誘発して、感動とはまた違った余韻を与えてくれるのだ。それにしても、あんな絶体絶命の孤立の中で、生き残った自分も含めた生命が繋がれる場を見てしまえば、生かされてると感じざるを得ないだろうし、その後もそれでも続く生を生きないわけにはいかないわな…。要するに、どんな悲惨が過去にあったとしても、その艱難が過ぎた以上は、それは安易な希望とかでもなく、振り返らずに前を歩むしかないんだろう。なぜなら、生命はそのように作られているからね。まあ、そうした厳しさを表現したいのかは不明だが、さりげなくミーアキャットを大量殺戮しているのが笑えたし、ハイエナがゲロを吐くという珍場面は映画史でも指折りの奇景として語られるのは必至だ。そして個人的には、漂流生活の中で主人公は、伸びた爪の処理をどうしていたのかが非常に気になった。しかし、「ダージリン急行」や「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」でもそう思ったが、カーストの上下に関わらず、インド人は美形が多いね(今回は特にお母さん)、しかし、だからと言ってインドを訪れてみたい気には全くならないのが不思議なところなんだが…。


 一観客として「PARKER/パーカー」へ。テイラー・ハックフォードの割に、本気で「悪党パーカー」に取り組んでて好感が持てる。初めて原作通りの名前が使えることへの力みなどは監督・主演ともに感じられず、そのふてぶてしさがまさしくパーカーのようだ。ふざけてるのは冒頭のステイサムの髪型だけで、インフレ状態にあって軽くなる一方だったステイサム・アクションのトリッキーな動きも全面排除。甘味ゼロでさらにニック・ノルティ等の渋味をまぶしたパサパサの復讐物語として成功している。さらにはヒロイン候補として欲に目をギラつかせたジェニファー・ロペスと並ばせ、「スペシャリスト」のような特濃カップルを成立させても、それでいて徹底してドライな関係は維持され、彼女の「Uターン」以来とも言えるビッチ振りがたまらなく扇情的だ。唯一、パーカーが半殺しで済んでしまう発端には納得できないが、テキパキした中立者への交渉、銃の構造に細工する周到さ、肉を切らせて骨を断つ復讐への渇き、いずれも「ペイバック」などには及びもつかない満足度。殺し屋のスパイダルコも大活躍し、映画に登場するナイフ鑑賞の意味でも楽しめる良作として、久々に純度の高い暴力映画を観た幸福感に満たされたね。【映画プレスブック】「The Hunt 偽りなき者」マッツ・ミケルセン トマス・ヴィンターベアディア・ハンター デジタル・ニューマスター版 [DVD]ハピネス [DVD]リトル・チルドレン [DVD]ラブリーボーン [DVD]ヴァルハラ・ライジング [DVD]ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日 4枚組コレクターズ・エディション(特製ブックレット付) (初回生産限定) [Blu-ray]ラスト、コーション [DVD]アメイジング・スパイダーマンTM [DVD]ダージリン急行 [DVD]Best Exotic Marigold Hotel / [DVD] [Import]Uターン [DVD]スペシャリスト [DVD]ペイバック スペシャル・エディション [DVD]SPYDERCO パシフィックソルト C91SBK 大海人 ナイフ 折りたたみ H-1防錆鋼 H1鋼 | Spyderco 折り畳みフォルダー フォールディングホールディング