谷間の時期のアクションなど。

 ファントム・フィルムさんのご招待で、「ザ・マスター」試写へ。フォアキン・フェニックスは兄貴と違ってやっぱイイ顔してる。ポール・トーマス・アンダーソンが「マグノリア」や「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」に続いてカルト的な題材を扱うに当たり、フィリップ・シーモア・ホフマンはフェニックスの“愛の家族”出身という出自も含め監督へ推薦したと思われるが、単に復帰を拝めて良かった。「マグノリア」のトム・クルーズは今回の元ネタに迫りすぎて洒落にならないし、前作のポール・ダノには足りない暴力性と、前作全体に欠落していた下世話な下ネタを強化するのにその顔力が必要だったことも、見終えるとかなり納得。宗教的なテーマや酒との相克、二人の男の絆と対立という意味では、前作のテーマを深化させているとも言えるが、本作の主人公および周辺は加えて心的外傷にまつわる者や、単なる異常者も含めて、アルコール以外にも深刻なセックス依存(オブセッション)を抱えており、描写が極めて具体的(「チョーク!」=「セックス・クラブ」?)なのも、「ブギーナイツ」を髣髴させて安定感がある。また、そのもう一方の極が、「ブギーナイツ」でもゲイを演じたホフマンだからこそ、離れるに離れられない関係に、抑圧的な同性愛への陰画も垣間見せ、特に美しく描かれないのもリアルな手触り。さらに、彼をセックスで実質的に支配するエイミー・アダムスとの歪んだ夫婦関係も、孤独な変態役が多かったホフマンの出世を(その性欲処理法から)感じて嬉しい限りだ。とりわけ、近作では「フライト」においても描かれたらしい、アメリカ人にとっての清教徒的な的な原風景として、酒への忌避がカルトの中にまで滲んでいるのがかなりの皮肉だが、自分にない特性を持つ者(自分の願望の象徴?)を手元に置き、管理することで克服したかったのか、二人の噛み合わなさと「らしくない」下手な歌の数々は重々しく、かつ笑わせてくれる。


 一観客として「ゴーストライダー2」へ。引き続きニコラス・ケイジ主演とはいえ、設定はトーマス・ジェーン版「パニッシャー」と、「パニッシャー:ウォー・ゾーン」の関係みたいに、完全にリセットされてて、メフィストフェレスやケアテイカーとの関係もなかったことに。バイクの型も違えばバイク自体も変形せず、鋲のないライダー共々焼け爛れ、ルックスも大幅に変化。そして何よりも変身前の意識が継続せず別人格を呼び出し、制御不能どころか、ライダーにとっての悪と思える存在を、その特殊能力で散々おちょくり倒す、極めて「マスク」的なキャラに変貌した。マーヴルヒーロー的にはこっちのノリが原作に近いと見え、自らの暴走する能力を呪いながら、敵との対決ゆえに持て余しつつも決別できない位置づけは何ともハルク的で、同様に連続劇としては成立させにくいキャラなのも分かる。また監督が監督だけに、視覚的にトリッキーな省略演出や意図的でコミカルなカメラワークが依然鬱陶しいが、これまでの作品に比べればずいぶんと抑え目で成長は見て取れる。さらに、能力を隠し逃げ続けた、「ハイランダー」ことクリストファー・ランバートをゲスト出演させたのは、単に監督が好きだっただけとしか思えない関連のなさも潔い。ロケ場所をトルコやルーマニア等に求め、アメリカ的空気を排除したことも、 「ラスト・ターゲット」純な娼婦、ヴィオランテ・プラシドのエキゾチックなルックス、新キャラのイドリス・エルバと合わせて相乗効果を見せる。もし次回があるなら、こんな感じで一話完結を続ければ、今回登場した二代目候補?の伏線も生きてくるだろうね。


 一観客として「ダイ・ハード/ラスト・デイ」へ。俺は「エネミー・ライン」や「フライト・オブ・フェニックス」の監督という点で、ある程度信頼置いてたんだよ。でもこの妙な公開時期をやや怪しんでの鑑賞だった。「ダーケストアワー」や「ナイト・ウォッチ」でも楽しめた、ロシアならではのロケは臨場感があるが、かの国なら是非突っ込みたい、政治的暗部には触れず、前作同様家族の確執も不明なまま。唯一の見せ場は壊しまくりのカーチェイスだけだった。それも“ガンナイフ”のディテールを省いた描写で明らかなように、せっかくの実景の多用を活かし切れてないのだ。しかし、シリーズらしい身近な道具での「冒険野郎マクガイバー」風な脱出は微妙に残ってて、そこは安心した。ただ、後半の「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」を意識したと思しき、決戦場所やそこでの危機意識の低さは、日本人なら怒る向きも多いはず。そもそも、こうした危機に居合わせる偶然が続くだけでもおかしいのに、その成否は別としても、巻き込まれたハッカーの戸惑いや成長を描いたのが、「ダイ・ハード4.0」の、一作目のオマージュとして評価できる部分だった。それが今回は特殊任務を帯びた息子という、偶然性のない味方という点も問題ながら、時代に逆行する女キャラの薄さは、娘のルーシー再登場でも拭えない。何より敵の正体やキャラが弱く、手口やどんでん返しも機能してない。つまりこれまで“あり得ない話”ながら、現代におけるテロのあり方や、「3」の“クリスマス”や“限定空間放棄”の方針に対し、やむなく開き直り、敵のキャラ立ち、マギー・Qやシリル・ラファエリといった肉体アクション勢の充実に加え、二作目までのオマージュも交え魅せ切った、前作の偉大さを痛感してしまったのだ。要するに、「4.0」が現代テロの極北として、その描写とシリーズへのオマージュを突き詰めたのに対し、元々「4」のボツシナリオでしかない本作は、そうした練磨を放棄した、同じく「4」のボツの「ホステージ」同様、再利用品のセコさしか見えないのだ。それは敵の兵器が“F-35ステルス”から“ハインドD”へと退化してるのにも見て取れる。これはシリーズ、特に二作目までの絶対的な面白さに対する、俺のシリーズ愛がそう言わせてるんだ。そこを分かって欲しいね。マグノリア [DVD]ゼア・ウィル・ビー・ブラッド [DVD]ブギーナイツ [DVD]チョーク! (Hayakawa novels)セックス・クラブ(特別編) [DVD]ハピネス [DVD]フライト [DVD]ゴーストライダー™(1枚組) [DVD]パニッシャー コレクターズ・エディション [DVD]パニッシャー:ウォー・ゾーン [DVD]マスク [DVD]アドレナリン [DVD]アドレナリン2 ハイ・ボルテージ コレクターズ・エディション [DVD]GAMER ゲーマー [DVD]ハイランダー/悪魔の戦士 [DVD]ハイランダー2/甦る戦士 劇場公開版 [DVD]ハイランダー3 超戦士大決戦 [DVD]ラスト・ターゲット [DVD]ダイ・ハード [DVD]ダイ・ハード2 [DVD]ダイ・ハード3 [DVD]ダイ・ハード4.0 [DVD]ダイ・ハード/ラスト・デイ<最強無敵ロング・バージョン> 2枚組ブルーレイ&DVD (初回生産限定) [Blu-ray]エネミー・ライン (特別編) [DVD]フライト・オブ・フェニックス<特別編> [DVD]ダーケストアワー 消滅 [DVD]ナイト・ウォッチ/NOCHNOI DOZOR [DVD]トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン [DVD]冒険野郎マクガイバー シーズン1<トク選BOX> [DVD]冒険野郎マクガイバー シーズン2<トク選BOX> [DVD]冒険野郎マクガイバー シーズン3<トク選BOX> [DVD]冒険野郎マクガイバー シーズン4<トク選BOX> [DVD]冒険野郎マクガイバー シーズン5<トク選BOX> [DVD]冒険野郎マクガイバー シーズン6<トク選BOX> [DVD]冒険野郎マクガイバー シーズン7<トク選BOX> [DVD]ホステージ [DVD]