開拓者ジョン・ウーの偉大さ。

 ファインフィルムズさんのご招待で、「ビトレイヤー」試写へ。設定から見て取れる、監督の香港映画への憧れに反して、都市が持つ冷たく硬質感が持続する良作警察片。この冷たさによるテーマの変質が世界観をドライに引き締めているが、それが製作のリドリー・スコットの意向も踏まえているか?は判然としないながらも、結果オーライの品質だ。また、本人的には嬉しくないだろうが、ヒゲを蓄え若干ワイルドになっても、主役ジェームス・マカヴォイは共演者を徹底的に映えさせるという特性(「ラストキング・オブ・スコットランド」、「ウォンテッド」、「つぐない」、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」等)をここでも全開にし、宿敵マーク・ストロングとの「要塞警察」的共闘として、ストロングの硬質な魅力を堪能させてくれる。マカヴォイにとってはダニー・ボイルの新作「Trance」でも、ヴァンサン・カッセルロザリオ・ドーソンに対して同じ働きを見せるか、化けるかのテストケースとしても必見な上、「オブリビオン」ではオルガ・キュリレンコの影に隠れてしまうであろう本作のヒロイン、アンドレア・ライズブローの透明感を品定めしておくにも好材料だ。


 一観客として、「ゼロ・ダーク・サーティ」へ。拷問なんかの描写は、オバマ陣営にとってブッシュの尻拭いでやった汚れ仕事として手放しで誉められんかもな。だから麗しのミシェル夫人アカデミー賞のプレゼンターをさせ本作を歯牙にもかけなかったとも言えるだろう。みんな知ってるこの事実の結末は、ヒロインにすれば行き着くところまで行ってしまった「ハート・ロッカー」の悲劇であり、「悪魔を見た」同様に“憎悪/執着”の対象だった、“倒す敵/憧れの対象”の喪失からこみ上げた感情の発露だろう。全体を通しても、拷問とテロの連鎖、未確定ながら即断の襲撃実行、四連の暗視ゴーグルや雑なステルスヘリと言い、なんか異形のSFスレスレのいびつな現実を観た感覚が強烈に残る。いずれにしても、続編が計画中の「ID4」を始め、今後の“エリア51ネタ”は全部嘘臭くなるからSF的には打撃だろうな。これは“宇宙人SF”の創意工夫を促すためにもありがたい。また脚本が「告発のとき」や「〜ロッカー」と同じ人間なので、その続編的な位置づけとも理解したいところだが、時系列に沿い、より多面的に理解するため作品が、それぞれ力作として出揃っていることもあるので、例えば「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」→「ワールド・トレード・センター」→「ユナイテッド93」→「グリーン・ゾーン」→「フェア・ゲーム」等も補足として鑑賞すると、この、実は復讐ですらなかった愚行の応酬に暗澹たる気持ちになれる。ただし、アクション映画的にはスコット・アドキンスや、ジョエル・エドガートンの細かい説得力ある面構えが、長い尺に句読点のように登場し、監督のキャスティングの確かさを思い知る作りにもなってるのは素晴らしいとしか言いようがないがね。


 一観客として、「ジャンゴ 繋がれざる者」へ。タランティーノはジャンル監督としてやっと完成した。というのも、B級由来ネタをA級の予算でオリジナル以上に見せる監督としてやっと完成したってこと。本作には前作で放棄して見えた、アクションの充実があり、そのさらに前の「キル・ビル」とも違い、やっと冗長でムラのないアクションが撮れるように成熟した証でもある。「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」や「グッド・バッド・ウィアード」、名前のくせにイーストウッドアプローチが多い「ランゴ」へのアンチテーゼとして、決闘がないのも画期的ながら、タランティーノの場合は既にセルジオ・レオーネの言及は「キル・ビル」までに充分やって来た。それに今回あくまでセルジオ・コルブッチ礼賛をしたかったのは予告(ジャンゴ「続・荒野の用心棒」、雪景色「殺しが静かにやって来る」)でも明確で、本編でもレオーネへの言及はほぼなくてスッキリ。そこにヤコペッティや「マンディンゴ」の奴隷エクスプロイテーションを絡めて、前作以上にメッセージ性の強い痛快作になった。ならば日本側のジェイミー・フォックスのチンポへの処遇は、全アフリカ系アメリカ人に向けた愚弄と言えるが、そこは「エニイ・ギブン・サンデー」におけるフォックスの無修正チンポで脳内補完するしかない。代わりに偏狭な日本人へのサービスか、座頭市が「どめくら」で怒るように、「Django」を「ドジャンゴ」と呼ばれ激怒するのには笑った。また、悪役・ディカプリオは傀儡の憐れさが物足りないが、その役者根性や、最も邪悪なサミュエル、ジューシー過ぎる銃撃戦のお蔭で必然性はあった。さらに、マルボロマン率いるKKKもどきは、ジョナ・ヒルは前作のマイク・マイヤーズの線らしく無意味すぎで笑えないが、かつて深夜放送で観た「國民の創生」でKKKの成り立ちを知っただけに、あれが試行錯誤を進めたと分かるのは情けなくも滑稽。そして、物語がやがてあのブラックスプロイテーションシリーズの源流をなすというネタは、着想当時出演した「スキヤキ〜」のマカロニを舐めたオチへのタランティーノなりの回答と言える。だがそれも全体の物語の構造は、ジョン・ウーチョウ・ユンファのハリウッドにおける再結成となるはずだったボツ企画、「メン・オブ・ディスティニー」(鉄道敷設の苦力に売り飛ばされた中国人労働者が妻を奪った白人に復讐する話)から頂いたと俺は確信する。それでもタランティーノらしいサントラの素晴らしさと、“ココ”を代表する黒人女性への趣味のよさ、多用される心地よいズームなど、完全にタランティーノ標準を更新したオリジナリティ溢れる傑作なのだった。ラストキング・オブ・スコットランド [DVD]ウォンテッド [DVD]つぐない [DVD]X-MEN:ファースト・ジェネレーション [DVD]要塞警察 デラックス版 [DVD]アサルト13 要塞警察 [DVD]ゼロ・ダーク・サーティ コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]ハート・ロッカー (期間限定価格版) [DVD]悪魔を見た スペシャル・エディション [DVD]インデペンデンス・デイ [DVD]告発のとき [DVD]チャーリー・ウィルソンズ・ウォー [DVD]ワールド・トレード・センター スペシャル・エディション [DVD]ユナイテッド93 [DVD]グリーン・ゾーン [DVD]フェア・ゲーム [DVD]ジャンゴ 繋がれざる者 ブルーレイ&DVDコンボ(初回生産限定) (2枚組) [Blu-ray]イングロリアス・バスターズ [DVD]キル・ビル Vol.1 [DVD]キル・ビル Vol.2 [DVD]スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ [DVD]グッド・バッド・ウィアード [DVD]ランゴ おしゃべりカメレオンの不思議な冒険 [DVD]荒野の用心棒 完全版 スペシャル・エディション [DVD]夕陽のガンマン アルティメット・エディション [DVD]続 夕陽のガンマン アルティメット・エディション [DVD]続 荒野の用心棒 [DVD]殺しが静かにやって来る [DVD]ヤコペッティの残酷大陸 [DVD]マンディンゴ [DVD]エニイ ギブン サンデー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]座頭市物語 [DVD]ハーレーダビッドソン&マルボロマン [DVD]D・W・グリフィス 國民の創生 CCP-256 [DVD]黒いジャガー [DVD]黒いジャガー/シャフト旋風 [DVD]黒いジャガー/アフリカ作戦 [DVD]シャフト [DVD]