これはこの世のことならず。

 プレシディオさんのご招待で、「インポッシブル」試写へ。「ヒア アフター」の上映打ち切り、「唐山大地震」の上映取りやめ、果ては「ジャッカス3D」の大洪水オチへの物言いなど、地震のせいで数々の表現の自由が侵害され二年少々。本作もスペイン版予告の段階で、圧力団体による日本公開への言い掛かりがないか心配だったが、無事公開のようで喜ばしい。もともと「アレクサンドリア」に似た、ハリウッド系キャストにスペイン資本という製作体制に注目してたんだが、こちらも同じく両者の力量が絶妙に融合、内容的にも実話ディザスターとしてほぼ完璧だった。こちらは「〜アフター」同様、スマトラ島沖地震津波をサバイブした家族の実話だが、本来なら9.11映画と同じに、3.11映画は手を抜かずに近いうち映像化されるべきなのに、表現の自由に及び腰な日本では期待しようもない。しかし、誤解を怖れずなぜ必要か?と言えば、誰かの最悪に悲惨な艱難は、こちらの矮小な悲惨を相対化して生き抜く活力をくれるからに他ならない。それはこの映像体験よりさらに巨大な、観る側にいずれ降る悲惨によって、今度は他の誰かを生かすため、相互に消費されるからだ。その最たるものが「タイタニック」であり、延長に待つ、キャメロン悲願のヒロシマポンペイ企画とも言える。本作では足の悪い男の額に鍵十字がない(!)のはともかく、現地医療スタッフの凛々しい美、ナオミ・ワッツの傷も痛々しいポロリなど、描写も「はだしのゲン」並みの容赦なさ。また同じ釜の飯により、さらには老若男女一緒に泣くことで、無関係の人間を深く瞬間的に結ぶ、巨大な神秘体験としての災害を描き、力作の条件にもブレはない。監督の前作、「永遠のこどもたち」とは別ジャンルながら、ジェラルディン・チャップリンという刻印も健在し、より多角的に本件のドラマを観たくなった。例えば、このクオリティでジェット・リーの体験談を彼の主演でやるとかないかね?日本では絶望的なだけに。


 一観客として、「クラウド・アトラス」へ。輪廻のうちに同じ顔ぶれが繰り返される不自然さは、原作さえなければ、登場人物全員が意識を共有し、共通フォーマットの仮想現実(=マトリックス)で見せられる意識の中だけで、各々が転生を繰り返すプログラムを経験していると解釈してもいいと思う。なぜなら、死の恐怖の麻痺は、生体を栄養分とされる前の準備にもなるしね。それに、「マトリックス」の世界観にしたって、既に何度もリブートされ失敗してる設定だったから。原作者や監督達の都合のいい個人的願望も含まれたもの理解した上で、展開されている「来世で味方となってくれた人々は味方でありますように/今生で敵となった人々は味方となりますように/そしてその変転が己の持ち様でありますように」的な、永遠回帰への願いに敢えて乗っかると、映画を通じ死への恐怖が軽減する奇妙な体験が味わえる。ただし、カルロス・カスタネダへの言及は、そこまで解説しないと輪廻転生の概念がない文化圏の奴らは理解できないんだろうし、我々のようにネタ元に近い文化圏の人間からすると鼻白むので、その点ではニューエイジ臭は強め。なお、転生の過程でのアジア系の特殊メイク描写は、“ドクター・ノオ(あるいは1920年代のチャーリー・チャン)”から変わってないとはいえ、名著「イエロー・フェイス」への新しいページへの追加になるべきもので、この手の試みの到達点と言える。要するに差別的と取る奴もいるだろうが、アジア人が白人になる無茶をするなら、白人俳優も「ミスター・ソウルマン」みたくミンストレル的黒人になるべきで、かつ兄(姉)の性転換の正当化としても本作を位置づけたいなら、性の往還ももっと多くて良かった。そう力説したくなるほどに、ベン・ウィショーのケツは美しかったのだ。


 一観客として、「オズ はじまりの戦い」へ。ここまでやるなら、「Lost Girls」を映画化して欲しいが、作者の許可的にも、内容的にもどう考えても不可能なので、腹いせに蛇足的な前日談を作り上げたとしか思えない。それをディズニー製作でサム・ライミがやってるもんだから、「誰も文句言えないだろう(言わせないぞ)!」という遠回しな恫喝が透ける空っぽ映画。しかし、空っぽは空っぽなりに、かつてのディズニー作品「オズ(リターン・トゥ・オズ)」並みにヤケクソで話を成立させてて、どうでもいい話の割に退屈しない。というのも、ライオン等もゲストで無理に出るが、基本は小人(「白雪姫と鏡の女王」を超える人数が登場!)やブルース・キャンベル探しに集中できるライミ作品ならではの作りだからだ。その点では、通常ファンタジーって、SFより作り手のご都合主義が明解なんで、筋とかかなりどうでもいいけど、さらにヒロインのつるべ打ちによって緩和されてる。特にミラ・クニスは一番のヨゴレなのに、バカバカしい話に気持ちを込め、「テッド」以上に感心。つまり、ファンタジーは狂気でなく理性で作り上げるものと良く分かる計算が行き届いてるってこと。まして、現実の狂気はアウトサイダー・アートなどに表出する、ごく一部の閃きを除き、大部分が映画冒頭のようなモノクロの煩悶であるのも、狂気や妄想の実態が丁寧に表現されてるし、その後の突き抜けた狂気がカラーでフルスクリーンになる明解な演出など、現実の狂気の単調さをライミが意識してればこそ、極彩色に配慮が伺える。また、定番のダニー・エルフマン節に加え、「ヒューゴの不思議な発明」以来の再評価の機運を後押しするジョルジュ・メリエス的な目配せなどのネタも作用し、物語の空疎な異常性が、主人公が逃げ込んだ狂気ではないと分かるんで、後の話に説得力は出たが、仮に続編があっても、俺には全く興味が持てないのだった。ヒア アフター [DVD]ジャッカス3 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]アレクサンドリア [DVD]タイタニック [DVD]〔コミック版〕はだしのゲン 全10巻イングロリアス・バスターズ [DVD]永遠のこどもたち [DVD]クラウド アトラス ブルーレイ&DVDセット(初回限定生産) [Blu-ray]マトリックス 特別版 [DVD]マトリックス リローデッド [DVD]マトリックス レボリューションズ [DVD]ドクター・ノオ(デジタルリマスター・バージョン) [DVD]イエロー・フェイス―ハリウッド映画にみるアジア人の肖像 (朝日選書)ミスター・ソウルマン [DVD]オズ はじまりの戦い ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]Lost GirlsReturn to Oz [DVD]白雪姫と鏡の女王 スタンダード・エディション [DVD]テッド(原題)(マーク・ウォールバーグ主演) [DVD]ヒューゴの不思議な発明 [DVD]ジョルジュ・メリエスの月世界旅行 他三編/映画創世期短編集 [DVD]