「犯罪」こそドラマの原点。

 一観客として、「L.A. ギャングストーリー」へ。冒頭ミッキー・コーエンによる「狼たちの街」の原題だった、マルホランドフォールズの処刑で始まる志の高さだけど、ショーン・ペンはコーエンに似てないので、「ディック・トレイシー」的エルロイごっこに見え、メイクだけでなく、ミニチュアのような“ハリウッドランド”の造形も似てる。しかも、物語はそのまま「アンタッチャブル」というか「狼たち〜」でもあり、かつ、ロバート・パトリックにより、裏切りのない「悪徳の都」という趣で、序盤にデ・パルマへのオマージュか長回しでクラブの内部まで入る目配せつき。かといって終盤の銃撃戦では「戦艦ポチョムキン」オマージュまでは見せなかった。キャスト的には太れないペンが、デ・ニーロ・アプローチを試みたら、より近い「バグジー」でのハーヴェイ・カイテルによるコーエンに近づき、パチーノ的手法で役を完成させたわけだ。一応、警察重鎮にニック・ノルティを配したり、「上海から来た女」的な中国人街も箱庭感覚で描写し、ジャンルへの神経も行き届いてはいる。しかし、警察側の無茶さも含めマンガっぽいのは、「ゾンビランド」の監督作品という点で顕著で、それはファム・ファタールになり得ないエマ・ストーンや、ペンのトミーガン乱射がゾンビ発生場面と同じ処理だったりからも見て取れる。また火炎瓶襲撃やエレベータ内の手首切断など、「ウォッチメン」というかザック・スナイダーの模倣も散見されるが、内容にはマッチ。ただし、コーエン側の最終戦略がホテルへの籠城という割には、近年殺到する「パニッシャー:ウォー・ゾーン」〜「ザ・レイド」〜「ジャッジ・ドレッド」系の籠城バトルにまで発展せず、タイマンで決着は淋しかった。また、話題程度のジョニー・ストンパナートの扱いは無念だが、昨今、「L.A.ノワール」等で当時の描写への要請もあったからか、「ブラック・ダリア」以来に実写の重みで見せるL.A.の美観は、人工的で毒々しくても、目には嬉しい。


 一観客として、「イノセント・ガーデン」へ。オープニングタイトルの、「ゾディアック」以来ぐらい偏執的な、草書的タイポグラフィーへのこだわりにまず引き込まれる。本作に関しては、原題のままはミスリードされる恐れがあるため、邦題変更は作品イメージ向上に功を奏した。また、単にパク・チャヌク監督のハリウッドデビュー作としての注目も高いだろうが、ウェントワース・ミラー脚本(「プリズン・ブレイク」の天才役)による、天才の覚醒を描いた物語でもあったことが、結果から考えると興味深い。何より、父の死を機に現れた、擦れたノーマン・ベイツのようなマシュー・グッド伯父さんが(ノンケだが「シングルマン」の影も引きずり)、最初から気違いって分かり過ぎて笑えるけど、「誰が狩る側か?」に着目すると、本作の眼目がサスペンスにはないのもハッキリし、割り切って楽しめるはず。その一つ、抑えつつ要所でビビッドな色彩設計は「親切なクムジャさん」の頃を髣髴とさせるし、ミア・ワシコウスカの肌の質感までの接写が、彼女の全裸オナニーシーンより監督の視点として卑猥に見えるほど、彼女の“美を押し込めた美”が徹底して切り取られ心地よい。対する母役のニコール・キッドマンは、美形なら誰でも代役可能なマネキン的不気味さが漂い、改めて燃費の悪い女優というのも再認識させられ、監督の意地悪な視点を窺わせる。それに病んだ美しさをシンプルに堪能させるための物語は、単純でも決して退屈ではなく、相変わらず小道具のフェティッシュな扱いも巧みで、鍵や靴、ピアノ連弾などの積み重ねで盛り上げてくれる。特にハサミの扱いや撲殺シーンの身も蓋もなさは、「復讐者に憐れみを」や「オールド・ボーイ」の延長として、期待通りの暴力描写のファンサービスだろう。あまり話に関係せず短めに切り上げるジャッキー・ウィーバーの瞬発力も効果的だったが、俺には自分の中で曖昧だったワシコウスカへの向き合い方が決まった作品として重要だった。


 一観客として、「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」へ。直球邦題+ネタバレ気味の副題だが、いくら「ドライヴ」のライアン・ゴズリングがバイクに乗る長回しから入るからって、監督が違うんだから似た話になるわけがない。その点では予告の時点でほぼ想像のつくネタバレ状態で物語は進行し、ゴズリングのインタビューにおける「活劇ではなくドラマ」的な発言も当を得た、深みのある展開を見せる。つまり、現実の残酷さに観客も向き合わされることになるが、ゴズリングの造形した、「インディアン・ランナー」のヴィゴ・モーテンセンにも似た、潰しの効かない破滅的な男の末路として、あまりに正しく美しく、「ブルーバレンタイン」ほどシビアには見えないのも事実。また、監督は話を絞らず、恩讐の遥か彼方まで盛り込み、ブラッドリー・クーパーとの二大イケメン対決だけでは終わらせてないのだ。これを蛇足と取るかそうでないかは分かれるところだが、対決の行方として、俺は主役じゃないのに“ゲロさえも美しい”ゴズリングの圧勝だと思う。しかし、実は二人とも「クロッシング」的ご都合主義を窺わせる立ち位置でありながら、デイン・デハーンお披露目の舞台装置に徹しているところがなんとも潔く、「アメイジングスパイダーマン」の続編における、デハーンのハリー・オズボーン役への期待も否応なしに高まる仕組みである。片や、犯罪ドラマとしてのキャストも小さい役まで充実させており、とりわけ「不法侵入」方面のレイ・リオッタ仕事の真骨頂と、「ジャッキー・コーガン」に比べればかなりシャンとしてるベン・メンデルソーンが観られるのもありがたい。L.A.ギャングストーリー ブルーレイ&DVDセット(初回限定生産) [Blu-ray]狼たちの街 [DVD]ディック・トレイシー [DVD]ブラック・ダリア (文春文庫)ビッグ・ノーウェア 上 (文春文庫)ビッグ・ノーウェア 下 (文春文庫)LAコンフィデンシャル 上 (文春文庫)LAコンフィデンシャル 下 (文春文庫)ブラック・ダリア コレクターズ・エディション 2枚組 [DVD]L.A.コンフィデンシャル [DVD]ハリウッドランド [DVD]アンタッチャブル(通常版) [DVD]悪徳の都〈上〉 (扶桑社ミステリー)悪徳の都〈下〉 (扶桑社ミステリー)戦艦ポチョムキン【淀川長治解説映像付き】 [DVD]バグジー [DVD]上海から来た女 [DVD]ゾンビランド [DVD]ウォッチメン スペシャル・エディション [DVD]パニッシャー:ウォー・ゾーン [DVD]ザ・レイド [DVD]ジャッジ・ドレッド [DVD]L.A.ノワール 【CEROレーティング「Z」】 - PS3イノセント・ガーデン [DVD]ゾディアック 特別版 [DVD]プリズン・ブレイク シーズン1 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]プリズン・ブレイク シーズン2 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]プリズン・ブレイク シーズン3 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]プリズン・ブレイク シーズン4 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]プリズン・ブレイク ファイナル・ブレイク [DVD]サイコ [DVD]シングルマン コレクターズ・エディション [DVD]親切なクムジャさん プレミアム・エディション [DVD]復讐者に憐れみを デラックス版 [DVD]オールド・ボーイ スタンダード・エディション [DVD]Place Beyond the Pines [DVD] [Import]ドライヴ [DVD]インディアン・ランナー [DVD]ブルーバレンタイン [DVD]クロッシング スペシャル・プライス [DVD]アメイジング・スパイダーマンTM [DVD]不法侵入 [DVD]ジャッキー・コーガン [DVD]