罪深き者、汝の名は…。

 ファントム・フィルムさんのご招待で、「シャニダールの花」試写へ。スプリットスクリーンで怪異を描く点は前作と共通し、あるいは「ネオ・ウルトラQ」的アプローチの延長とも受け止められる奇談。そう考えると、「女に花が咲く奇病」はボリス・ヴィアン的でも、「ウルトラQ」の「マンモスフラワー」のようにも見えなくもない。ヴィアン方面のアプローチはミシェル・ゴンドリーの新作に任せるとして、こちらでは怪奇現象の研究側/当事者のドラマが圧倒的な音の分厚さに支えられ展開する。一般にはなぜか自明と認められる、髪を伸ばし、自分を花に擬する女の性戦略に起因する姑息さは、そもそも花が受粉や生存闘争の全てに他者を利用するように、人たるを捨てる全力の卑怯さがなければ、その意味は全くないという、これまた自明の真理も作中からにじみ出る。無自覚ながら、性戦略に囚われてるのが外見的に分かるカウンセラー・黒木華が、外側から事件に翻弄され、花に擬する必要がない、マニッシュかつベストな(美形しか許されない)髪型の患者・山下リオが当事者として葛藤し、さらけ出されるのは、それぞれの「花」への距離感、即ち、各自の性戦略の不徹底だ。さらに作中、奇病に罹患した女達は、見た目のフェミニンさから見て取れるように、女らしさに縛られるほど花は開き、その宿主の生命に影を落とすという症状は一貫し、各患者に対し男が間合いを計れるのは、メタファーとして秀逸。現実にも、近づくことで男も「男らしさ」を強要される素質を持つ、「近づかない方がいい女」は、美醜でなく、自らの「女らしさ」への受容度、執着度等の、見た目に現れる部分から読み取れるからね。表面上は「流血鬼」や「みどりの守り神」のような、壮絶な価値転換を迫るドラマでもあるが、これは石井監督から、「『女らしさ』を追求するなら生命懸けでやれ!」という、女に覚悟を迫るエールだと思う。のうのうと生きて他者を出し抜けるなんて考えは、甘いってことさ。


 一観客として、「オブリビオン」へ。監督は「トロン:レガシー」で「マトリックス」の本歌取りを果たしたので、廃棄された地球のイメージもあり、今度はプロデューサーの顔を立て、「猿の惑星」的な言及か、「インセプション」的内宇宙モノかと思えば、“エージェント・スミス”が改心する話だった。ただし、結末や展開を煙に巻くための「インセプション」という題名と違い、こちらは親切にもタイトル(=忘却)が全てを言い表してるのだった。さらには藤子・F・不二雄先生のSF短編「一千年後の再会」との類似も見出せ、自腹で「俺映画」を作り続けるトムクルの(宗教や自己啓発性に裏付けられた)精神性と合わせて考えると、(特にその女性観において)かなり興味深い寓話である。もちろん、一瞬(ネオ的な)玉砕や自己犠牲はを期待させられても、それはやはり叶わぬ願いで、やはり“トム映画”の例に漏れることはなく、当然のようにトムは救世主となるが、程度の差こそあれ、ヴァン・ダムは同じことをすでに相当やって来てるので、ビジュアルやガジェットは若干新鮮でも、そのツイストに驚きはない。結局、映画というフォーマットはデストピアSFでも、セックスとジェンダーを利用されて生かされる人間しか描けないことを痛感する展開でもある。このルールを離れることがSFに許された可能性でもあるはずだが、同時に観客の想像力がついてこなかったり、共感を得ることでの商売が成立しないからだ。所詮、SFが「自分らの感情や記憶が最も美しい」と考えてる人類の手によるものである限りは、この縛りからの脱出は出来ないんだろうね。また、「エンド・オブ・ホワイトハウス」に続き、ちまちま小さい仕事で点数を稼ぐメリッサ・レオが笑えたのと、荒廃した世界にゾーイ・ベルってのは「梅に鶯」のようで、「マッドマックス2」の女戦士ばりに欲情できたのは嬉しい限り。


 一観客として、「グランド・マスター」へ。基本的に、ウォン・カーウァイは眠くなるから観ないんだけど、これはユエン・ウーピン作品としての鑑賞。それでもやっぱり酷く長く退屈だった。ワイヤーは最小限なのは伝わったが、何しろスロー(ハイスピード撮影)が多いので、昔のカンフー映画のように早回しまではせずとも、圧縮すればかなり短くできたのは明白だから。一応イップ・マンが登場してもこちらは群像劇なので、ドニーの「イップ・マン」シリーズとは多少被るのみだが、時折顔を見せるカン・リーのド迫力フェイスは往年の香港映画の空気が滲んでいい感じ。しかし中国拳法の歴史については、いきなり近代の迷走状態から始まるので、そこに至る近世の弾圧から、大陸に四散して行った過程については、基礎知識が必要かも知れない。要はユエン・ウーピン的には「グリーン・ディスティニー」を拳でやろうとしてるのは、再タッグをさせた、チャン・ツィイーチャン・チェンの顔ぶれから分かるが、ツィイーは復讐にも、拳名にも、女として割り切って生きることもできない、時代に負けた後ろ向きな役なので、史実なのだろうが好感が持てない。代わりに後ろ向きなのに時代に押され凶暴化して行くチャン・チェンに対しては、その異常な殺気と、実際に修得したという八極拳の殺傷力の高さも相俟って否応なしに気持ちが入る。しかし彼の登場は少なく、あろうことかイップ・マンとも一切絡まず、扱いが非常に投げやりに見えるのだ。ちなみにツィイーの手下である、猿連れの刀使いは、各キャラが半端な扱いなので、いっそ片腕とかになった方が良かったんじゃという気にもなり、隣で袋をいじくりまわす女に舌打ちをしていたら、しまいには老けたトニー・レオンがアン・ソンギに見えてきた…。とはいえ、外国人であるソン・ヘギョ(イップ・マン夫人)がほぼ喋らないのは、ルックス鑑賞に特化し、劣悪な上映環境にあっても好都合だった。ネオ・ウルトラQ VOL.1 [Blu-ray]ネオ・ウルトラQ VOL.2 [DVD]ネオ・ウルトラQ VOL.4 [Blu-ray]総天然色ウルトラQ 2 [Blu-ray]うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)クロエ デラックス版 [DVD]生きてるものはいないのか [DVD]藤子・F・不二雄SF短編集<PERFECT版>5 メフィスト惨歌 (SF短編PERFECT版 5)藤子・F・不二雄SF短編集<PERFECT版>3 俺と俺と俺 (SF短編PERFECT版 3)トロン:レガシー [DVD]マトリックス 特別版 [DVD]マトリックス リローデッド [DVD]マトリックス レボリューションズ [DVD]猿の惑星 [DVD]続・猿の惑星 [DVD]新・猿の惑星 [DVD]猿の惑星・征服 [DVD]最後の猿の惑星 [DVD]PLANET OF THE APES/猿の惑星 [DVD]猿の惑星:創世記(ジェネシス) [DVD]インセプション [DVD] [DVD] (2011) レオナルド・ディカプリオ; 渡辺謙; ジョセフ・ゴードン=レヴィット; マリオン・コティヤールタイムコップ [DVD]レプリカント [DVD]マッドマックス2 [DVD][rakuten:asiandrops:10005598:image:small]イップ・マン 序章 [DVD]イップ・マン 葉問 [DVD]グリーン・デスティニー コレクターズエディション [DVD]拳児 全21巻完結セット