血の出ない通過儀礼はない。

 コムストック・グループさんのご招待で「モス・ダイアリー」試写へ。ゾンビ以上に飽和状態のヴァンパイアものに、「ぼくのエリ」などから、ホラーの正統を感じさせつつ耽美の装置として機能してもいるムーブメントが、アクション寄りヴァンパイアの流れとは別に再び盛り上がって来ている。「リヴィッド」などもその流れに属するだろうし、その一つの方向性を決定付けたニール・ジョーダンも「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」以来に手掛ける「ビザンチウム」で新しい流れを提示するはずだ。そんなニューヴァンパイア映画?の系譜にメアリー・ハロンも参戦したのが本作で、監督のフィルモグラフィー的にも異色のものとなった。とはいえ監督の従来作品に濃密だった、フェミニズム的視点も、男の役立たなさから損なわれておらず、かつ寄宿制女学校を舞台に百合的要素とのいいとこ取り。さらには「イン・アメリカ」からずっと成長を見守って来た、サラ・ボルジャーの美の開花に、作物を愛でるような楽しみも見出せ、つまり彼女自身が「蛾」の役目を果たしているのだ。そのトラウマとダークサイドの象徴であるリリー・コールの「ノスフェラトゥ」みたいなフリークス性、また、“ルーシー”という名を背負った宿命を迎える、年相応に無邪気なサラ・ガドンの魅力など、多角的に少女の不安定さを観測できる仕組みとなっている。もちろん従来の吸血鬼描写の伝統にも忠実で、「カーミラ」の文学的引用は言うに及ばず、「ローズマリーの赤ちゃん」の周囲への不信や、過去にホテルだったという「シャイニング」的な寄宿学校など、「マニアック」にも見られた古典ホラーへの言及も抜かりがない。そして訪れる、「トラウマは殺すことでしか超克できない」という、ややハードなジュヴナイル的クライマックスは、孤独に死ぬならメタファーとしての吸血鬼化を免れないのであれば、俺はどのように怪物化して行くのか?という想像が頭をよぎるものだった。


 一観客として、「マニアック」へ。主演のイライジャ・ウッドのお蔭で、愛の不毛と気違いの苦しみが象徴的に強められた、素晴らしいリメイク。そう、快楽殺人とか俗に言うけど、気違いは本人にすりゃ苦しい場合もあるのは、我々が見落としがちな基本だ。一方、苦しくない幸福な気違いなら、「マネキン」&「マネキン2」のような物語になったろうし。しかも、女への愛憎がビビッドに込められた悲しい物語に加え、オリジナルと同じでも幻想的で美しいラストは、現代の作品として蘇生した価値があった。故に残酷描写の修整も気にならない。また、オリジナルにも含みのあった「非情の罠」のラストのようなアジトに住み、マザコンで孤独、不能者としての業を抱え、その治療法を女体パーツ収集に求める殺人鬼像は、「シン・シティ」の“ケヴィン”と結果的に同じでも、観る側の感情の入り方が圧倒的に違う。これは「エンター・ザ・ボイド」やその元ネタ「スマック・マイ・ビッチ・アップ」のPOV演出を殺人鬼に当てはめたことが、ウッドの繊細さと相俟ってヨーロピアンな雰囲気や共感を盛り上げたと言える。ただし、その一因でもある凶器選別に関しては、シンプルな形状のボウイナイフが「ホステル」も憧れたポスター場面には合うとは思うが、個人的に好きではないし、頭皮剥ぎの利便性も疑問。さらに折り畳み式ストレート・レイザー(カミソリ)での頭皮剥ぎはさらに熟練を要するはずだ。やはり頭皮剥ぎのパイオニアであるネイティブアメリカンによる骨や石のナイフ、「イングロリアス・バスターズ」での描写(一部剥ぎ)の方が、全頭ではないだけに簡単そうだ。なお、犠牲者の背中を切り刻む描写は、昨年カナダで発生したルカ・ロッコ・マグノッタによる殺人の解体ビデオに酷似し洒落にならないが、女の皮膚のテクスチャーの強調など、特殊効果以外の演出にも神経が行き届いて好感が持てる。ただし、個人的には金ダワシで手を洗うのが一番痛々くて嫌だね。


 一観客として、「バレット」へ。一般には重要でもないが、アクション映画に筋を通す意味で、スタローンとウォルター・ヒルのコラボレーションは歴史の必然だった。スタローンは「エクスペンダブルズ」前から、ブロンソンの「狼よさらば」やら「メカニック」といった殺し屋系作品のリメイクをやりかけてたので、殺し屋をやるのも「暗殺者」や「スペシャリスト」以来だが、あまり久しぶりに思えない。しかも実質流れてステイサムになった「メカニック」のごとく、スパルタ若手教育に徹し、アメコミ原作と思えないスタローン純度である。今回の対象は、「コナン・ザ・バーバリアン」の失敗によりシュワ再登板を招いたジェイソン・モモアで、かつてのラングレンやスナイプスのように、「ストリート・オブ・ファイヤー」ばりの斧対決で鍛えられる。結局、つまらん「女子供は殺さない」的ダンディズムの勝利でも、「金で動かない奴こそ危険」という思想に、ヒルのマッチョだけでは済まないニヒルな視点も端的に見えて興味深い。さらに、「ストリートファイター」、「48時間」、「レッドブル」のような奇妙な友情、「ダブルボーダー」、「ラストマン・スタンディング」、「デッドロック」のような宿命の対決が描かれる点でも、従来の要素が出揃い、紛れもないヒル作品だ。一応、「ランボー」時代をマグショットに流用するのはギャグかもしれないが、シワシワになってるシュワと違い、赤ら顔に粉っぽい白い表皮が乗る感じ(あれが杉作局長の仰る「童貞膜」?)のスタローン風老け方も克明に捉え、「エクスペンダブルズ」で見出した刺青も、もろ肌脱いで大盤振る舞い。そんなキャラ設定も含め、刺青以外はスタローンの生き様なしには説得力ゼロな、役作り不要のリアリティがある。なお、最初に殺される“スペースモンキー”とその解剖シーンを筆頭に、クリスチャン・スレーターといった隠し玉、あるいはカランビットや、現代風スイッチブレード等のガジェット類、脇の要素も充実。ぼくのエリ 200歳の少女 [DVD]リヴィッド LIVIDE [DVD]インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア [DVD]Byzantium [DVD] [Import]イン・アメリカ/三つの小さな願いごと [DVD]アレックスライダー [DVD]スパイダーウィックの謎 スペシャル・エディション [DVD]吸血鬼ノスフェラトゥ 《IVC BEST SELECTION》 [DVD]ドラキュラ [DVD]吸血鬼カーミラ (創元推理文庫 506-1)ローズマリーの赤ちゃん [DVD]シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン [DVD]マニアック COLLECTOR’S EDITION [DVD]カリガリ博士【淀川長治解説映像付き】 [DVD]マネキン [DVD]マネキン 2 EMD-10020 [DVD]非情の罠 [DVD]シン・シティ [DVD]エンター・ザ・ボイド ディレクターズカット完全版 [DVD]Smack My Bitch Up [VHS] [Import]ホステル 無修正版 コレクターズ・エディション [DVD]イングロリアス・バスターズ [DVD]バレット [DVD]エクスペンダブルズ (期間限定価格版) [DVD]狼よさらば [DVD]メカニック [DVD]暗殺者 [DVD]スペシャリスト [DVD]メカニック [DVD]コナン・ザ・グレート<特別編> [DVD]キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2<特別編> [DVD]コナン・ザ・バーバリアン [DVD]ロッキー4 [DVD]デモリションマン [DVD]ストリート・オブ・ファイヤー [DVD]ストリートファイター [DVD]48時間 [DVD]レッドブル [DVD]Extreme Prejudice /ダブルボーダー (1987)  [Import] [DVD]ラストマン・スタンディング [DVD]デッドロック [DVD]ランボー [DVD]ファイト・クラブ [DVD]