全ての道が迷走するとは限らない。

 ブロードメディア・スタジオさんのご招待で、「オン・ザ・ロード」試写へ。とにかく観賞後は酒が飲みたくなる。それもハードリカーによるダウナーで持久力のある酔い。なぜか?それは持続せずとも書くことの集中力と閃きへの本義を、登場人物全てのエネルギーにより思い出すからだ。俺自身がヘテロであることに揺らぎはないが、クローネンバーグと縁深いヴィゴ・モーテンセンならではのバロウズ解釈による、「イースタン・プロミス」以来のフルチンはかなり見どころだし、気の触れた妻エイミー・アダムスも意外に馴染む。また、バロウズつながりで、自身の念願の「おかま」への前振りに違いない、ブシェミの釜掘られカメオなど、同性愛的シーンに感激すると思わなかった。もちろん“メリールウ”そのものルックスに、脱ぎも厭わぬクリステン・スチュワートや、やはり脱ぐアリシー・ブラガによる男女の乾いた神々しい関係性に、肉体の会話として、セックス原初の生々しさと理想を思い出したのは言うまでもない。異種交流としてのセックスの重みというか、今はそう断言できなくさせられてしまった片輪の俺には、すぐ実行はできないけど、セックスも場合によっては忌避するものでもない痛切さがある。あと、原作の一読だけでは俄に分かりにくい、ビートニクスにとってのジャズに、かなりの具体性ある音がありがたい。もちろんテレンス・ハワードという、「ハッスル&フロウ」に通じる不良性の体現者あっての話だが、故にその乱暴かつ繊細な演奏に合わせた痙攣的な動きにも、原初の踊りの聖性に似た、セックスと同質の畏敬を見て取れる。さらに越境による、アメリカで死滅したフロンティアへの道行き、ここにまだ、西部劇における悪党どもの聖域としての、飲む打つ買うの聖なるメキシコが描出されるのも鳥肌が立った。製作やシナリオに携わるコッポラの思い入れはさほど鼻にもつかず、荒涼としたい気分に合う、ボリュームたっぷりの意欲作。


 一観客として、「アフター・アース」へ。レニー・クラヴィッツの娘が、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」よりいい女に成長してたのと、SFならではのガジェット描写に、ほんの少し観るべき所はあったが、地球を廃棄した人類にとって脅威となっているはずの動物たちが、登場人物の思惑に都合よく動き過ぎるんで、(ある意味現実ではそうなんだけど、)全部親父の仕組んだシミュレータでした、みたいな落ちも想像したがそれもナシ。また、恐怖を察知して襲うモンスターに「ヴィレッジ」的な盲人との組み合わせが重なったが、特に深化もなく、あれもやはり借り物だったと証明してしまった。だって恐怖ってさ、それだけが独立してある訳じゃなく、恐怖感じないなら、涙も流さないからね。全部の感情に紐づいてるんだよ。だから眠気に苦しむスミスと、アホらしくて本当に眠くなってきた自分がダブり、テレパシー使えるなら通信にこだわるなよ!と珍しく怒りが込み上げる。あまりにご都合主義なんで、これまであえて地雷として踏まずに来た、「エアベンダー」や、ジャッキー版「ベスト・キッド」を観る誘惑にも駆られたが、それは罠だな。要するにどれもこの位酷いのは、観ずとも分かってたから俺は観なかったんだが、今回は「SFジャンル」と「シャマラン」という偽装にまんまと引っかけられてしまった…。そもそも「原案ウィル・スミス」って時点で要警戒であって、才能枯渇したシャマランは上手いこと利用されたわけだ(シャマランもスミスを利用したけどね)。もう、「インデペンデンス・デイ」続編にも出ないと判明した以上、金輪際、スミス親子、あるいは片方でも出るものを目にすることはないだろう。さらば!


 一観客として、「ワイルド・スピード EURO MISSION」へ。ミシェル・ロドリゲスはいつも最高だけど、今回死んだはずが生きていた「魁!男塾」方式で、さらに記憶まで失ってるサービスに、周囲への他所他所しさと、かつしおらしさがかなり新鮮。にもかかわらずファイトはこれまで以上に凶暴で、心配になるほど激しいジーナ・カラーノとのバトルは両者の無傷を心配にしてしまう。でも今回一番の目当てで活躍を期待していたカラーノの扱いの雑さ、そしてエヴァ・メンデスの不在は寂しいもんだったのも事実だ。しかもロドリゲス生存情報とハン&ジゼルの向かったはずのベルリンは、今回ほぼ関係なく、あっちこそ暴走の本場だけに、今後の振りとして活きてくるか気になるところだ。気になると言えば、収監中なはずの前々作「ワイルド・スピードMAX」の“麻薬王ガルコ”の暗躍も示唆され、不気味ではあるが、前作より登場人物が整理されたからか、全体にあっさりと、見せ場は予告で全部見せ切ってる。しかし、“マーベル・シネマティック・ユニバース”と並ぶ、世界レベルのプログラム・ピクチャーとしては、最低限テレビの連ドラよりは元が取れるので、期待せずともまた次回劇場に行ってしまうんだろうな。ちなみに今回、シラット使いじゃないけど敵に「ザ・レイド」のSWAT隊長がいるし、だからなのか次回作にトニー・ジャーだとか、“スタントマン・マイク”ことカート・ラッセルや、完全確定組のステイサムと、「エクスペンダブルズ3」に匹敵する混乱が予感されるが、すぐ死ぬちょい役の黒人の一人が、なんとなく“50セント”に見えてしまう(結局違った)程度には観客の穿ちを誘う作りになっている、ということにしておこう。On the Road [DVD] [Import]路上 (河出文庫 505A)裸のランチ (河出文庫)裸のランチ [DVD]イースタン・プロミス [DVD]バロウズの妻 [DVD]おかまイントゥ・ザ・ワイルド [DVD]ハッスル&フロウ [DVD]荒野へ (集英社文庫)すべての美しい馬 (ハヤカワepi文庫)越境 (ハヤカワepi文庫)平原の町 (ハヤカワepi文庫)死にたいほどの夜 [DVD]ビートニク [DVD]アフター・アース [DVD]X-MEN:ファースト・ジェネレーション [DVD]ヴィレッジ [DVD]エアベンダー スペシャル・エディション [DVD]ベスト・キッド コレクターズ・エディション [DVD]インデペンデンス・デイ [DVD]ワイルド・スピード [DVD]ワイルド・スピード×2 [DVD]ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT [DVD]ワイルド・スピードMAX [DVD]ワイルド・スピード MEGA MAX [DVD]魁!!男塾 全20巻完結(文庫版)(集英社文庫) [マーケットプレイス コミックセット]エージェント・マロリー [DVD]ザ・レイド [DVD]デス・プルーフ プレミアム・エディション [DVD]