最終・改変・頓挫の夏(秋)。

 プレシディオさんのご招待で、「サイド・エフェクト」試写へ。本人申告でソダーバーグ最後の作品ということになってるが、オスカー獲得辺りを境にジャンル問わず、職人監督として開き直りのように多作したので、本当に最後なら、もう追うのも大変だし感慨深い。それでも実験臭のするもの(例「スキゾポリス」、「ガールフレンド・エクスペリエンス」等)のと、コメディ(例「マジック・マイク」)や感動作(例「エリン・ブロコビッチ」)っぽいのは避けての現状なので、後からフィルモグラフィを潰す方が楽だ。今回はタイトルで「ナイロビの蜂」みたいな話かと思ったら、もっと小規模なサイコスリラーだった。しかも一応、二転三転する謎などに、ヒッチコックばりのサスペンスへの目配せを効かせるところは、内容は違っても「さらば、ベルリン」の系統に入りそうだ。あるいは、精神病院がやたら強調され、意味深な脇役に「ザ・ウォード」の気違い女の一人が配置されてるのを見ると、「ハロウィン」や「マウス・オブ・マッドネス」的なカーペンターへのオマージュのつもりもあるのかも。もちろん、女囚もの延長の精神病院ジャンルという意味でも、「17歳のカルテ」や、「エンジェル ウォーズ」に通じるので、ジャンル好きにもしっかりアピール。それにチャニング・テイタムはさておき、「コンテイジョン」の延長でジュード・ロウは常に疑わしく、物語のツイストもあえて「ワイルドシングス」的な唐突さで何度もひっくり返すなど、ある意味展開も読めない。正直、犯罪プランとしてはもっと賢いやり方があるはずだが、犯人の邪悪さを表現するための、結論先行の物語なので、これでいい。つまり、ソダーバーグのフィルモグラフィーは「嘘(セックスと嘘とビデオテープ)」に始まり、本作で描かれる多層的な「嘘」に終わることになる。なお今回は従来の軽快かつ無機質な音楽に、サスペンスならではの禍々しいエッセンスも投入され、印象に残る。


 一観客として、「終戦のエンペラー」へ。日本人による日本の本が原作となっていることが冒頭のクレジットで分かるが、劇中ではそれが誰の視点に相当するのか、全く不明なほど改変し、マッカーサーの命令を受けた将校の話にしてしまっている。タイトルが示すように、クライマックスに控えるマッカーサーとの会見は史実としても、一介の将校がその前に天皇に会うはずはないので、天皇マッカーサーを接近させる工作の合間に、将校周辺の戦前から続くメロドラマじみた話で尺を稼いでいるが、将校の実在はさておき、他は全部嘘と見て差し支えないだろう。またしても、これ見よがしに女との逢引に竹林が登場し、アメリカ男に都合のいい、ゲイシャとしての日本女という類型的な人物造形を超えることはないにしても、初音映莉子の太く濃い眉毛が醸す古風なエロスには普遍性があり、彼女の起用を素直に喜びたい。また、敗戦時の焼け野原となった日本の再現ビジュアルは、ニュージーランドロケでも、ちゃんと東京に見えて、将来新自由主義のバカどもによって、再度これを体感させられなければならなくなる前の、心の準備程度にはなる、さすがのWETAクオリティ。また、火野正平東条英機というのは、かつてドラマで演じたビートたけしに匹敵する思い切ったチョイスに笑ったが、中村雅俊伊武雅刀には、カリカチュアされてても、前時代的なシステムの嫌らしさがそれなりに象徴されて評価できる。とりわけ遺作と思われる夏八木勲には死相が滲み、己の生命も委ねて神に仕える者に相応しい風貌であった。肝心の昭和天皇は、歌舞伎役者に演じさせるというのが、時代が時代なら「太陽」で物議を醸す以上に不敬と思うが、それ以前に天皇をでくの坊に見せようとする意図が明白で、誰に向けてそうした天皇の人となりをアピールしたいのか理解に苦しむ。つまり、苦悩する人間天皇を提示したいなら、感情表現の深さにおいてもイッセー尾形の圧勝ということだ。


 一観客として、「ローン・レンジャー」へ。ジョニー・デップは、バディに格上げされたが、トントの元でもある従者キャラ、サンチョ・パンサ役だったはずの「The Man Who Killed Don Quixote」(「ロスト・イン・ラマンチャ」で補完可能)や、「デッドマン」および本作と監督も同じ「ランゴ」で西部劇の親和性も高く、新しさはない。自身の監督作「ブレイブ」でも演じたインディアン役で、ティム・バートン作品で幾度となく共演したヘレナ・ボナム=カーターとも顔合わせするのは、プロデューサー的な計算だろう。でもカーターの作り込んだ復讐キャラが、その動機や完遂に関し、途中うやむやになるのが惜しい。とはいえ、未亡人かつ子持ちの、扇情的な顔のヒロインを初めとして女優陣は大人の女ばかりで、「パイレーツ〜」との差別化か、美少女を出さないのは合格。しかも「ワイルドバンチ」的な橋爆破、「ペイルライダー」的な籠城、「グッド・バッド・ウィアード」でも引用された、レオーネの「ウエスタン」的な列車内描写など、監督の趣味か各シーンは考え抜かれてる。だが、発生するチェイスの大半が鉄道で、南北戦争周辺の設定となると、「リンカーン / 秘密の書」に酷似してしまいインパクトがないのだった。さらに格好悪いけど、流さないわけにいかない「ひょうきん族のテーマ」のせいで、アクションも切れが半減。また敵の一人、ブッチ・キャベンディッシュ(キャシディ)のように、人気アウトローを単純な悪人として、ウィリアム・フィクトナーのようなブラッカイマーお気に入りの悪人顔に演じさせたのももったいない。しかし彼のルックスに顕著な、西部の埃っぽい汚なさは、長期の乗船で臭そうな海賊どもの延長で当を得た描写だった。それは「トゥルー・グリット」以来西部劇づくバリー・ペッパーにも活かされ、「〜グリット」でも鍵となるサイドショー(大西部ショー)的演出でノスタルジーも盛り上げるが、続編狙いだからか、全部途中で放り出してしまうのだ。ナイロビの蜂 [DVD]さらば、ベルリン [DVD]ザ・ウォード 監禁病棟 [DVD]ハロウィン BD [Blu-ray]マウス・オブ・マッドネス [Blu-ray]17歳のカルテ コレクターズ・エディション [DVD]エンジェル ウォーズ [DVD]コンテイジョン [DVD]ワイルドシングス エロティック・バージョン [DVD]セックスと嘘とビデオテープSE [DVD]Side Effects / [DVD] [Import]Emperor / [DVD] [Import]太陽 [DVD]ロスト・イン・ラ・マンチャ [DVD]デッドマン スペシャル・エディション [DVD]ランゴ おしゃべりカメレオンの不思議な冒険 [DVD]ブレイブ [DVD]ティム・バートンのコープスブライド 特別版 [DVD]チャーリーとチョコレート工場 [DVD]スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 [DVD]アリス・イン・ワンダーランド [DVD]パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち(期間限定) [DVD]パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト(期間限定) [DVD]パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド(期間限定) [DVD]パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉 [DVD]ディレクターズカット ワイルドバンチ 特別版 [DVD]ペイルライダー [DVD]グッド・バッド・ウィアード [DVD]ウエスタン [DVD]リンカーン/秘密の書 [DVD]明日に向って撃て! (特別編) [DVD]トゥルー・グリット スペシャル・エディション [DVD]