映画的実験の果て?

 ワーナー・ブラザースさんのご招待で、「R100」試写へ。「難解」と評する観客を想定し予防線か、ハードルを上げた結果がタイトルに反映された。俺は予告から「ゲーム」的な作品と思ったが、ああした整合性も超え脱構築が施された意味では「大日本人」に近い。ただし、今回は映画作りに専心した姿勢が“映画”という容れ物を意識し表題させたのも窺わせ、方向性はたけしの「監督・ばんざい!」と似たものを見せる。あれも、誰もが「監督・ばんざい!」とは言わない(と、たけしが想像した)実験と葛藤の塊で、タイトルで先手を打ったと考えられるからだ。しかしこちらは、実質作品で行われるのはSMの域を出ないが、作劇の脱構築で映画を注視する立場の足場を脅かし、かつ笑いも取りに行く点で、「花と蛇」的な様式美SMとも全然違うSMにも見える。カメラは被虐側の貪欲さに着目せず、やはり「ゲーム」的に日常を侵食され、後悔する主人公の俗物性で突き放し、さらに一段階の先の突き放しが待つ多重構造である。また大地真央の浮世離れした風貌はSM嬢役に似合い、広げれば純粋暴力映画になりそうな萌芽も見せるが、手を緩め別方向に追いやる“透かし”は、たけし的な要素の拒絶表明だろう。その念押しか、セルフカバー/リミックス的な試みで、「HITOSI MATUMOTO VISUALBUM Vol. (ぶどう)“安心”」のネタも入れ、被虐側の感覚の新しいチャネルを開くような、想像を超えた逸脱プレイはせず、あくまで日常の不快などを拡大しプレイ化する姿勢は、戸惑う主人公は別に、SMテーマには誠実かもしれない。時折不条理な演出で笑いを目配せするのは監督の照れか、観客を欲情させる方向を断ち、そここそが作品の眼目とも言える。ちなみに渡辺直美には元風俗の風格はあるが、役回りはあくまで仲間意識からの起用で、たけし映画のたけし軍団との共通点は見い出せる。とはいえ、監督の発想を極力スタイリッシュで退廃的に見せようという、衣装等スタッフの努力は一見に値するはずだ。


 ファントム・フィルムさんのご招待で、「ムード・インディゴ〜うたかたの日々〜」試写へ。作家によって本が完成していく作家の創作過程と、作品としての物語の進行が溶け合い、クローネンバーグの「裸のランチ」のようだ。「エターナル・サンシャイン」や「恋愛睡眠のすすめ」などの試行錯誤の系統を一にした作品よりも、原作としての物語に骨がある分、よりビジュアルの試行錯誤を先鋭化させ遊べている。アメリカ製暴力小説を溺読したであろう、目に特徴のある実存哲学者パルトル(笑)、多元宇宙の果てに出現するはずのハイブリッド型ミニテルまで登場させ、睡眠時の夢のように時空をかき回す。その具体的な表現では視覚化し切れないニュアンスをこそ作品から忠実に映像として翻訳した演出は、結果として前二作に引き続き、かつ三作中最高の眼福に満ちる。にもかかわらず、物語にも極めて忠実であろうと心がけているのだから、まさに三部作のトリに相応しい。しかもその細部は「僕らのミライへ逆回転」でも手の内を明かした、手作り特撮の味わいと楽しさを追及したガジェットで埋め尽くされ、ゴンドリー映画における贅沢さを知る者なら、間違いなく豊かな時間が保証されるという寸法。さらに、その描く(クロエの)死を見ると、ボリス・ヴィアン自身の死と、高密度の人間の一生の限界に思いを巡らせた多重性も(ネズミの生活と同じに)浮かび上がる。つまり、高密度になればそれだけ死が近づく可能性も。そしてそんな予感があるからこそ、作中のクロエの死を見つめるように、己の死をも対象化したであろうことも。また最近では「オン・ザ・ロード」もそうだが、サントラが原作の年代を再現する小道具として意識的に多用されるのは、ジャズへの憧れと紐づくパルプ・ノワールへの憧れが、副業で暴力小説の量産を後押ししたヴィアンの内面とも通底し、当然ながら作品を引き締める。その躊躇なく観客を没入させる配慮は、最近の映画体験では少ないだけにとても粋だった。


 一観客として、「スター・トレック イントゥ・ダークネス」へ。今回も“艦の内部が広い”というリアリズムをちゃんと移動の困難さと活劇性で表現する上、デッキが映ればクルーが揃い、そこには必ずウフーラがいるから、これほどの幸せもない。もちろん旧シリーズの二作目鑑賞済みならば相当楽しいし、なくてもかなり楽しいのが驚き。能天気なスペースオペラのルックに騙されやすいが、新シリーズは人間の暮らす地球が毎回崩壊の際に立たされるほどの文明の飽和状態で、超未来でさえも人類は原子力を手放せないというデストピア的世界観が前提になってるのはJ・J・エイブラムスの意向だろうが、これがなかなか効を奏してる。新シリーズ初のクリンゴン描写も凶悪で、今後お約束化するはずの、パラレルワールドの老スポックとの交信など、他の作品が気を持たせるだけで全般的に駄目なのに対し、このシリーズだけはエイブラムス仕事でも信用できる(もちろんSWなと微塵も期待してない)。エンディングは毎回「ウルトラクイズか?」と思うのが世代的に恐ろしい刷り込みを感じるが、「レゴラスに扮したオーランド・ブルームが好きなだけで、オーランド・ブルームが好きなわけではない」と力説する、数人の知人の女を思い出した。俺の場合はウフーラに扮したゾーイが一番好きだけど、どんな扮装をしたゾーイにも美と安らぎの合一しか感じないわけで、その分深刻なのかも知れないからだ。今回はかなり身体を張って大活躍したスポックに対し、ずいぶん口だけ出してるように見えたウフーラも、最終的には身体を張って落とし前をつけたので、その点でも大満足だし、何よりまさかのピーター・ウェラーが文句なしに素晴らしかった。ゲーム [DVD]大日本人 通常盤 [DVD]監督・ばんざい! <同時収録> 素晴らしき休日 [DVD]花と蛇 飼育篇 [DVD]花と蛇 究極縄調教 [DVD]花と蛇 [DVD]花と蛇 地獄篇 [DVD]花と蛇 [DVD]花と蛇2 パリ / 静子 [DVD]HITOSI MATUMOTO VISUALBUM Vol. (ぶどう)“安心” [DVD]うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)クロエ デラックス版 [DVD]裸のランチ [DVD]エターナルサンシャイン DTSスペシャル・エディション [DVD]恋愛睡眠のすすめ [DVD]僕らのミライへ逆回転 プレミアム・エディション [DVD]存在と無〈1〉現象学的存在論の試み (ちくま学芸文庫)存在と無―現象学的存在論の試み〈2〉 (ちくま学芸文庫)存在と無―現象学的存在論の試み〈3〉 (ちくま学芸文庫)On the Road [DVD] [Import]スター・トレック イントゥ・ダークネス ブルーレイ+DVDセット【2枚組】スター・トレック スペシャル・エディション [DVD]ロード・オブ・ザ・リング ― コレクターズ・エディション [DVD]ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔 コレクターズ・エディション [DVD]ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還 コレクターズ・エディション [DVD]スター・トレック? カーンの逆襲/リマスター版スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]