各人なりのリアリズム配慮。

 ショウゲートさんのご招待で、「ブロークン・シティ」試写へ。「ヒューズ兄弟」名義ではない、ピンの監督「アレン・ヒューズ」というクレジットの時点で新境地なのだろうが、この監督の場合、毎回の作品そのものが常に新しい試みに溢れてるので、ことさら身構えずに済むという強みがある。作品的にはまず目につく「マーク・ウォールバーグ vs ラッセル・クロウ」という対決の構図も、どちらが悪かは鑑賞前からある程度分かるにしても、作品のテーマが違うところにあるので旨味も失われない。つまるところ、「アイアン・フィスト」とは大幅に体型が変貌したクロウ演じるニューヨーク市長の、大統領とはまた違う権力の絶大さ、警察も巻き込んだ乱用の危うさなのだ。それだけでも日本じゃ撮れない題材であるのは必至であり一見の価値はある。なお、対決に挟まる、キャサリン・ゼタ=ジョーンズの「サイド・エフェクト」に続く相応な老け方にも、マイケル・ダグラスとの離婚により、露出が増えるはずのこれからを予感させ、激しく欲情した。彼女に関連し、選挙目前のクロウの対立候補を支えるのが、「スーパー8」や「アルゴ」のスクエア専門役者、カイル・チャンドラーというのも、対立候補が、実直ゆえに頼りなさげな(新境地!)バリー・ペッパーが扮してる点からも納得のキャスティング。また、対するマーク側も、観客が探偵という職業にリアリティを見出せるよう、健気な事務所の助手、アロナ・タルにより、細々した日常業務で補強して見せるのも、作劇として配慮が効いてる。さらに対決に伴い、ちゃんと肉を切らして骨を断った後の始末についても触れ、その苦味で物語の硬度を維持したのも余韻がある。ちなみに市長の執務室をうろつき回る飼い犬の名が、なぜかオバマ家の愛犬と同じというのは笑えた。


 一観客として、「ホワイトハウス・ダウン」へ。本作は冗談を抜きに、現代において「ダイ・ハード」的シチュエーションは成立するか?を徹底して突き詰めた考察の解答である。限りなくテロリストの側の計画に寄り添うことで編み出されたギャグや、マンガにならないギリギリの範囲での活劇展開に加え、「エアフォース・ワン」をアップデートしたジェイミー・フォックス大統領自身の大活躍。その絶妙なブレンド。果ては、有事の場合における、大統領からの権力委譲のツイストがちゃんと面白さに直結してるのが、実に天晴れである。また、センスのない外敵を設定した「エンド・オブ・ホワイトハウス」に対し、“敵を内部に抱えた病める国”という視点も、外国人のエメリッヒならではと言えるし、“解決に向けて一致団結する国”への羨望もないまぜに描かれ、「ID4」から連なる作家性の刻印としても興味深い。さらにそれだけに想像力がホームグロウン・テロへの予見へと行き着いてしまった点でも、絶大に評価できるのだ。また、毎度子役にはひとかたならぬ思い入れを発揮するエメリッヒのこだわりは、主人公の娘にレイチェル・ワイズ似に成長した“タリア・アル・グール”ことジョーイ・キングを起用するなど健在で、美少女の今後も超気になる仕上がり。さらには「サブウェイ123 激突」をアップデートしたような、テロ現場からのリアルタイムでの配信や、脇を固める細かいキャラ達の描き込みの深さなど、これらの作用が渾然一体となり、単に「エンド〜」より後発というだけでなく、作品として段違いに優れてるのが誰の目にも明らかだろう。この事実は、日本が舞台と噂される、「ダイ・ハード6」を、監督エメリッヒとまでは行かずとも、少なくとも本作と同じライター、ジェームズ・ヴァンダービルトに任せないとダメだという、何よりの証明になってると思う。


 一観客として、「マン・オブ・スティール」へ。“スーパーマン”という名前が「ダークナイトライジング」における、“キャットウーマン”的な扱いで、誰が見てもそうなのに、誰からもそう呼ばれないのは、まあ響きが間抜けだからか。やり過ぎ描写がリアルと言いたいらしいが、個人的には全アメコミヒーローの中でも、最も思い入れのないのがスーパーマンなので、今後は単に力のインフレを起こしていくであろう懸念しか感じない。まして、レイティングを下げたいのも分かるが、せっかくのザック・スナイダー作品なのに、バイオレンスとケレンのある画が撮れておらず勿体ないことしきり。またリアリズムの追求が中途半端にノーラン臭を醸し、別にヒーローに感動など求めない立場としては非常に困る。しかし既に「ウォッチメン」で“オジマンディアス”に弾丸を手で受け止めさせたので、スーパーマンの特殊能力をそういうアホな方向では表現しようとしないのは救いだった。次回作は、やっと「アイ・アム・レジェンド」でのタイムズスクエア掲示された看板の世界が実現することになるのだろうが、クリプトン星からのポッドも複数見え、(「ジャスティス・リーグ」的な)別のクリプトン星人による広がりの余地も計算されてるらしい。「300」、「ウォッチメン」と回り道してきたように、本当はスナイダーが「ダークナイト・リターンズ」をやりたいのは分かる。しかしバットマンの場合、例えば「“ラーズ・アル・グール”が不死身」だとか、リアリズム追求のためにはファンが意図して見過ごせる設定があるのに対し、バットマンが否応なしにスーパーマンと“同じ時空の存在”として並べられてしまうと、“宇宙人”というアホらしい設定も受け入れなければならなくなるのが非常に辛い。つまりマーベルが幼稚な理由、即ち「アベンジャーズ」に“ソー”や“ロキ”が出るだけで、それがコミックの体裁を保つハッタリではあっても、テクノロジーが支配する、人間だけの理性的な世界から、神のいるアホらしく愚昧な世界へと一段下へ転落するため、こちらも「真剣に見よう」とは、とても思えなくなるのと同様な哀しみが生じてくるのだ。だが、色々苦言を呈しても、本作がアンチェ・トラウェただ一人のためにこそ、鑑賞する意義を持たれるべき映画であることだけは間違いないがね。BROKEN CITYアイアン・フィスト [DVD]Side Effects / [DVD] [Import]SUPER 8/スーパーエイト [DVD]アルゴ [DVD]ホワイトハウス・ダウン [DVD]ダイ・ハード [DVD]エアフォース・ワン 特別版 [DVD]エンド・オブ・ホワイトハウス [DVD]インデペンデンス・デイ [DVD]サブウェイ123 激突 CE [DVD]ダークナイト ライジング [DVD]ウォッチメン スペシャル・エディション [DVD]アイ・アム・レジェンド 特別版 [DVD]300(スリーハンドレッド) (Shopro world comics)300〈スリーハンドレッド〉 [DVD]WATCHMEN ウォッチメン(ケース付) (ShoPro Books)DARK KNIGHT バットマン:ダークナイト(ケース付) (SHO-PRO BOOKS)アベンジャーズ [DVD]