内も外もこの世は荒野だっ!

 カルチュア・パブリッシャーズさんのご招待で、「ミッドナイト・ガイズ」試写へ。アラン・アーキンはともかく、パチーノやウォーケンが、己の過去の暴力の履歴(ヒストリー・オブ・バイオレンス)がなけれ説得力のない、こうした作品に出ることが重要だ。こうしたものはともすればセルフパロディになる危険も秘めるが、シナリオでそうしたアプローチを徹底排除すれば、最近のデ・ニーロの乱発作のような轍は踏まずに済む。イーストウッドマイケル・ケイン、さらに人物も重複する「エクスペンダブルズ組」や「レッド組」などの関連仕事でも皆そうして、極力セルフパロディに陥らず暴力で正義を遂行するヒーロー像を己に重ね肯定する、開き直り的セルフイメージ総括を重ねてるのに、日本では素晴らしい暴力の履歴を持つ俳優は、本人の意向なのか、好々爺と化すのが至上目的のような有様だ。だから渡辺謙のように、大した暴力の履歴もない(暴力を伴う生き様の説得力がない)人間に薄っぺらな暴力を語らせようという愚行がまかり通るのだ。本作は一見軽妙で、“ボーナーピル”を服用したパチーノの「マレーナ」における少年のような大袈裟な勃起や、本来ならウォーケンの見せ場のはずのダンスシーンをパチーノがさらうなどのネタが随所にちりばめられるが、あくまでバランスを損なわないレベル。過去との落とし前を迫られるトラブルの規模も、さほど大きくはならない分、年老いたギャング(と、そうした役を多く演じてきた役者の)透徹した死の覚悟が充満し、しかも鼻につかないさじ加減で気持ちがいい。しかも作中で描かれるギャング界の高齢化は、かつて「ゴースト・ドッグ」でネタに描かれた段階から歩を進め、現実の映画界における想像力の枯渇(=高齢化)も示唆し、パチーノの問題意識がそのまま「フェイク」から引き継がれてるのにも思い至るだろう。そして、潔い幕引きの場を探す男達に対し、未来を感じさせる女優たちの異様な充実にも目を見張るものがある。


 ワーナー・ブラザーズさんのご招待で「ゼロ・グラビティ」試写へ。本来は断じてアドベンチャーなどではなく、深海を舞台にした“潜水艦もの”ジャンルなどでよく描かれる“現場の大変さ”を、愚直に徹底した科学考証と、トリッキーなカメラワークで描き、逆に唯一無二のアドベンチャーに昇華させた超大作。にもかかわらず、約90分という超ソリッドな作りだけで、内容の過酷さも分かろうというものだ。しかもこれは3Dでの鑑賞が前提の久々に必然性ある作品。なぜなら、これまでの宇宙を舞台にした全ての映画の(殆どSF故に観客に甘え、見過ごされて来た)欺瞞と観客側の予定調和に挑戦し、宇宙空間という、本来人間がいてはならない世界の厳しさを骨身に染みさせるために必要な上映方式なのだ。よって本作の3Dは「アバター」のように奥行きの豊かさに採用されたわけではなく、360度縦横無尽にカメラが回り込み、想像だけで分かり難い、文字通り寄る辺の一切ない、無重力の不自由さを観客に体感させるために必要な上映方式である。よって描かれるのも宇宙空間の峻厳な現実のみで、物語もその空間で起き得る事故の徹底したシミュレーションに過ぎず、SF的な要素は皆無だ。俺は昔から個人的に“きれいな海”に信用がなく、“写実的な名画”同様、近づくほどに粗が目立ち、ゴミやひび割れしか目に付かないと力説してるが、宇宙も同じだ。特に人間がフロンティアと錯覚し宇宙を侵略してから、宇宙は海以上にゴミだらけなのだ。それがあらゆるトラブルの危険を内包し、他の惑星に行くならまだしも、宇宙空間など既にフロンティアではないのもよく分かる。なお、クルーニーは「エグゼクティブ・デシジョン」のセガール扱いだが、サンドラ・ブロックはいつの間にこんな大物扱いになったかは謎でも、その扱いに応える激闘を見せる。そして過去、唯一近似した志で作られた「アポロ13」に向け、エド・ハリスの声の起用は、革新者アルフォンソ・キュアロンの男をより上げるのに一役買った。


 一観客として、「トランス」へ。「シャロウ・グレイブ」のような小品。それでいて「(脳内)127時間」というか、そこそこのリミットで盗難品の所在を巡る仲間割れ。だから「シャロウ〜」なわけで、そこに女が絡みややこしくなるのが一味違う。“脳内からの脱出や逡巡”というイメージは、けっこうコラボってるアレックス・ガーランドの「昏睡(コーマ)」にも近いが、脳内のものを引き出す意味では「ザ・セル」や「インセプション」的な重層性や閉鎖性を期待もした側にはかなりシンプルであった。それは人間の思考や記憶についてのダニー・ボイルの考えが反映でもあるだろう。むしろ、撮影当時バーホーベン的に主演女優とデキてたのを公言するだけに、自身のパイパン主義表明と、ロザリオ・ドーソンの幅と厚みのある乳を強調し、惚れた女を美しく撮る方が作品の意味的には重そうだ。つまり金より女、愛情の狂気性(思い入れや執着)の方がカネなんかの損得勘定や恐怖をも上回るということだ。また、脳内のフィルターの面積には限りがあり、複数人が毛布を奪い合うように、何かを引き出そうとすれば、他の隠したものが見えてしまうということでもある。だからこそ、「キラー・スナイパー」のジーナ・ガーションばりの、ドーソンの前面マンコ接写が作品的にはナイスかつ重要なわけだが、別にマンコの具を見せたわけでもないのにボカシがあるのは目も眩むような殺意を覚えた。お前らも結局、「裸のマハ」を弾圧した奴らと一緒だよ。弾圧されればこそ、そこがマン毛ボーボーというのが作品のテーマでも重要なんじゃないか。「美しき諍い女」のように、アートをテーマとする作品ごとにダブルスタンダードが通用する矛盾だけでなく、「シャロウ〜」や「ザ・ビーチ」、そして「28日後…」のような、終盤の内省的な泥沼という作家性においても後味は良くないが、それは駄作という意味ではない。そしてこの扱いが「フィルス」におけるマカヴォイのバックラッシュを引き出すことになったのだと考えたい。Stand Up Guys [DVD] [Import]アナライズ・ミー [DVD]アナライズ・ユー [DVD]許されざる者 [DVD]グラン・トリノ [DVD]狼たちの処刑台 [DVD]ヒストリー・オブ・バイオレンス [DVD]エクスペンダブルズ (期間限定価格版) [DVD]エクスペンダブルズ2 [DVD]RED/レッド [DVD]夜叉 [DVD]ビッグボス/BIG BOSS [VHS]マレーナ [DVD]ゴースト・ドッグ [DVD]フェイク エクステンデッド・エディション(1枚組) [DVD]ゼロ・グラビティ ブルーレイ&DVDセット(初回限定生産)2枚組 [Blu-ray]アバター [DVD]エグゼクティブ・デシジョン [DVD]アポロ13 [DVD]トランス [DVD]シャロウ・グレイブ [DVD]127時間 [DVD]昏睡(コーマ)ザ・セル [DVD]インセプション [DVD]Killer Joe [Blu-ray] [Import]ポスター アクリルフォトスタンド入り A4 ゴヤの裸のマハ 光沢プリント裸のマハ [DVD]美しき諍い女 デジタル・リマスター版(2枚組) [DVD]ザ・ビーチ (特別編) [DVD]28日後...(特別編) [DVD]フィルス