全力疾走後の癒し三題。

 アルシネテランさんのご招待で「ドラッグ・ウォー 毒戦」試写へ。大陸の広大なロケを駆使し、当然検閲酷いはずなのに、どう見てもジョニー・トー作品なのはさすが。カルテルを扱い、雇われ仕事に徹しつつ作家性が出たのも、「野蛮なやつら」と見比べると楽しい。しかもこっちは、自由な体制で作った「エレクション2」で切った、中国本土(共産党政府)の非情さをより結果的に出す離れ業も見せる。悪名高い公安警察も、表向きは政府が汚職にナーバスな分、登場人物全てが役人的にグレーな司法取引や囮捜査等を展開するため、オリジナルの特報に敢えてクライマックスを使用、登場人物全てに「道徳的結末」を課す、自由主義者渾身のイヤミとしても結実(料理より食うのに重点を置いたのも反抗の証)。さらに検閲に対してヤケクソだったからか、自由陣営で同種の暴力映画クリエイターに向け、大同団結を暗に呼びかける姿勢にも胸が熱くなる。ここに監督の私淑する北野武や韓国暴力映画界がどう応えるか見所で、これは監督が既にぶち上げた「エレクション3」の成否に関わる(逆・たけしの)挑戦状でもあると考えたい。それは当然「アウトレイジ3」への呼びかけ(挑発?)でもあり、現実に「〜ビヨンド」以降がアジアを巻き込む発展性も秘めるだけに、色々楽しい暴力ファンタジーをもたらしてくれる。だから結果までは「『エレクション』と『アウトレイジ』の融合?」や、「昔からたけしにアピールしているアンソニー・ウォンとのコラボ?」なんか妄想するだけで楽しいのだ。なので試みでは失敗な「強奪のトライアングル」的な遊びも窺えるが、その延長の本作がスン・ホンレイへのスクリーンテストだったとも分かる仕掛け。また、現に大陸滞在者から障害者差別が酷いと聞いてたので、障害者が麻薬ビジネスに従事するしかない現実や、扱うのがシャブのみなのも「プロテージ」との差別化としてリアル。加えて唐突で乾いた銃撃戦も「ザ・ミッション」的ながら、銃のディテールは控え、直接の傷口描写も避け、血煙で被弾を表現したり、アップ多用などの工夫で飽きない。もちろんトー印の女優選択眼にも大満足!


 一観客として「マラヴィータ」へ。もうベッソン仕事だからさ、ヌルいのは分かり切ってるんだけど顔ぶれで期待してしまった。邦題はなぜか家の犬の名前らしいけど、本来は意表を突いたコジキが主人公の「夜を食らう」の作者による「隣のマフィア」を下敷きにした「The Family」でしょ?「グッドフェローズ」の“ヘンリー”のさらにその後は一応「GTA5」に要素として盛り込まれてるが、本作の場合はスコセッシの名前貸しもあって、“ヘンリー”に相当する証人保護プログラムを“ジミー”が受けてたら?みたいなファンタジーになってる。だが、原題に対応して、家族各メンバーそれぞれの極道の属性から逃げられない戦いが描かれるのかと期待したけど、実は暴力描写も満足にない単なるコメディなのであった。だとしても予告で見せてしまっていた少々の修羅場からは、全員が殺しと暴力のスキルを発揮して組織の追跡に立ち向かうと思えばそれもなく、「アナライズ・ミー」と同系列の(スコセッシ公認)「グッドフェローズ」パロディなのであった。それでもこうした作品の依頼を受けてもきっちり仕事する、デ・ニーロという俳優の人となり(生真面目さ)が出てるので、常識人/職人としての彼への好感度は個人的に上がった。同傾向のセルフイメージを上書きするように作られた作品を楽しんでるという意味では、アル・パチーノの「ミッドナイト・ガイズ」と比べてみる楽しみ方もできるので、作品自体の価値も全否定はできない。また、年齢の割に美「少女」に見えるディアナ・アグロンの、「自分を高校生に見せかけるスキル」も安定してたと思う。 


 一観客として「キャリー」へ。ホームスクールしてたクロエ・モレッツにとっての学園疑似体験というか、要するに「転ばぬ先の杖」ならぬ、いじめられる前のクロエいじめなんだけど、本人になかった学園生活を本作を通して楽しんでるように見えて、痛々しさはない。それはそこそこブスになっても、やっぱりクロエ・モレッツでしかないのと、配慮のないエロ描写(サービス)や残酷描写(サービス)が抑えられているせいだろう。つまりナンシー・アレンばりのおっぱいと本気でキチガイに見えるお母さんの不在により、普通の学園映画になってて不穏さは少ないのだ。ただ、これでキンバリー・ピアース監督のテーマが世間の「理不尽さ」にあることもハッキリした。ならば原作のように町を消滅させたり、数少ない自分の味方まで力の暴走で死なせてしまう「理不尽さ」も欲しかったが、おっぱい同様にレイティング対策か、いずれもミュート。確かにいじめ動画の配信や、十代の妊娠などの今日的な描写は盛り込んでるが、いずれも穏当なレベルで、オリジナルのスプリットスクリーンなどの気持ち悪い見せ方もないので、十年先にも語るというのは難しいホラーもどきになってしまった。しかし“プロム”というジェンダー振り分けの最悪の習慣がポリティカリー・コレクトネスなものでないと明白なのに、いまだに残る事実への告発はデ・パルマより力が入る。そんな風習に盲従するからか、男はみんな優しいかバカとしてしか描かれてないのも作家性と思いたい。なので家庭内の狂気も、俺の大好物ジュリアン・ムーアが出てるのにさほどウェイトが置かれず、ミラ版「三銃士」に引き続き、美少女だけどその場にいることがただ不自然なガブリエラ・ワイルドだけが印象に残ったのだ。新品北米版DVD!【毒戦】 Drug War!野蛮なやつら/SAVAGES-ノーカット版- [DVD]エレクション~黒社会~ [DVD]エレクション~死の報復~ [DVD]アウトレイジ [DVD]アウトレイジ ビヨンド [DVD]悪いやつら [DVD]強奪のトライアングル【DVD】プロテージ 偽りの絆 [DVD]冷たい雨に撃て、約束の銃弾を [DVD]エグザイル/絆 スタンダード・エディション [DVD]ザ・ミッション 非情の掟 [DVD]夜を喰らう (ハヤカワ・ミステリ文庫)グッドフェローズ [DVD]アナライズ・ミー [DVD]アナライズ・ユー [DVD]隣りのマフィア (文春文庫 (フ28-1))グランド・セフト・オートV 【CEROレーティング「Z」】 - PS3グランド・セフト・オートV 【CEROレーティング「Z」】 - Xbox360Stand Up Guys [Blu-ray] [Import]キャリー [DVD]ボーイズ・ドント・クライ [DVD]ストップ・ロス/戦火の逃亡者 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船 [DVD]