映画が暴力を描く必然。

 ショウゲートさんのご招待で「キリングゲーム」試写へ。因縁の復讐者が長年の逆恨みを抱えて現れるというと、「恐怖の岬」みたいだが、発端にユーゴ内戦が絡むところは映画的に独特。ただしミレニアム・フィルム謹製だし、実質山岳アクションのため「ランボー」や「クリフハンガー」、「ロッキー・ザ・ファイナル」の息子が絡んだりなど、なぜかスタローン臭が強く、「リベンジ・マッチ」の再共演でより強化された。だがそもそも森林地帯での戦士のイメージは「ディア・ハンター」でもあるが、本作の場合はロートルのデ・ニーロだけに「キラー・エリート」に近く、ファイトスタイルはフリードキン版「ハンテッド」のように泥臭く、かつタイトで、目的も“人間狩り”のようで裏テーマは“異なる価値観の超克”である。だからルーツたる「北国の帝王」や「脱出」、「ザ・ワイルド」等の「闇の奥」ばりの哲学的やり取りがライトに堪能できるのだ。そのため二大キャストに花を持たせあう怪獣対決に余韻を持たせようと、劇中に登場する傷はなかなかリアルで、アクション担当のジェフ・イマダ先生が、拷問やアクションも最小の動きで最大の効力を発揮できるよう、痛々しいものを目指してるのが分かり、その繊細な仕事ぶりに感銘を受けたのであった。


 一観客として「キャプテン・フィリップス」へ。要するに「キャリー」が自身によるクロエ・モレッツいじめであったように、これも自身によるトム・ハンクスいじめというシリーズ?の一環。ソマリア沖の海賊という、「エクスペンダブルズ」的には前座以下でしかない敵の人質になったオッサンが、素人ゆえに責任感だけは人一倍ある仕事人間のくせに、交渉や軍事についてはド素人であったがために陥る危機の話である。要するに日本の会社人間ならコンビニ強盗程度の相手につまらん責任感を発揮したために殺されるなどの、もっと酷い目に遭いそうな教訓めき、かつありがちな実話なのだ。要するに「ダイ・ハード」的ヒーローのいない現場であり、事態収拾に立ち会うプロフェッショナルは外部の人間として時折描かれるのみなので、いじめられる当人のフィリップスさんことハンクスの浅知恵と社畜的に無駄な責任感の空回りが事態を悪化させ彼自身を苦しめ、救出作戦を仕切るSEALSの側からすれば堪ったものではないだろうし、ゆえに感動もカタルシスも少ない。そのザラついたリアリティと淡々とした無常観こそ、本作をポール・グリーングラスが撮った意味だし、監督のドキュメンタリー系アクションの集大成とも言える。だからか、スクリーンでの鑑賞には酔いやすい手持ちカメラ撮影に起因する手ブレへの配慮として、今回は普通のカメラ撮影を増やし広角の画が多くなってると分かる。にもかかわらず、タンカーや救助艇という閉鎖空間ばかりの場面だからなのか、息苦しく酔ってるような非常に生理的な不快感の強い時間が持続し、個人的には「ゼロ・グラビティ」よりキツかった(どっちの作品にも誉め言葉)。そういう感覚が好みの観客にはお勧めの、公開作品順で言うと「現場はつらいよ」シリーズ第一弾でもあるのだ。


 一観客として「悪の法則」へ。職人リドリー・スコットだからこそ、感情を排し「ハンニバル」のように「ノーカントリー」的マッカーシーの醍醐味や情景再現に努められた。流れ弾や跳弾で意図しない人間から死んでいく、先の読めない「毒戦」的銃撃戦は、その職人技の極みとして素晴らしく、カルテルの蛮行の扱いもオリバー・ストーンとは対称的だ。映画用書き下ろしのシナリオのままだから、国境三部作から続くマッカーシーが描く境界(越境)ドラマとして成立してる上、現実の麻薬戦争を知ってれば視覚化されなくても一部登場人物の末路が分かり、現実の麻薬戦争を考慮せずとも、メキシコは地続きでアメリカの理性が通用しなくなる異界の象徴として、スペイン語字幕なしの配慮も効いた。「クソと世界を回る死体」というギャグのためだけにクソ漬けにされた死体のように、代わりのものを運ぶ人間ばかりいるが、ここに「火を運ぶ」人間はおらず、その意味では「ブラッド・メリディアン」的な悪意に満ちた世界と言える。また、かつては“判事”や“シガー”のような象徴を必要とした世界が、今や構造そのものが洗練され過ぎて修正する余地ない現実として、アメリカ(=ファスベンダー)の条理が野性や力(=メキシコ)になす術もなく侵食されて行く。この現状の解体には「ザ・ロード」で描かれたようなカオスの再訪がなければ、火を運ぶ萌芽さえも見えないとでも言いたげだ。“ベル保安官”が嘆いた世界から確かに人間自体は変わってない。だがさらに地獄の階層は下がり、世界は高速で不可逆的に変わってしまってる。だから主人公がどうあがこうが過ちは取り返せないし、悲しみはどんな行いでも交換できない。便宜上「悪の〜」とは銘打っても、実際は悪ですらないシステムについての物語なので、個人の欲得や正義感で変わりはしないのだ。理性で踏み込んでならない領域が非人間的なのは当然だし、それが荒野に見えるのも自然な話である。全ての望みが絶たれ、人間の矮小さが描かれた素晴らしい話だが、そうした現実に空しく抵抗する甘い考えを描く方便として、マッカーシーには珍しく男女のセックスも生臭く見せてはいるが、そんなイノセンスの象徴が映像版のマッカーシー的ヒロインとしてのペネロペなんだから、冗談きついにも程がある。特に今回は“シガー”こと、夫のてこ入れかも知れないが、「〜馬」に続く安直さで無垢には見えないのが一番のギャグだろう。そのため「ジャッキー・コーガン」にも似てスター映画として純文学を売る愚も(いい意味で)露呈されている。大満足!KILLING SEASON狩りのとき〈上〉 (扶桑社ミステリー)狩りのとき〈下〉 (扶桑社ミステリー)恐怖の岬 [DVD]ケープ・フィアー [DVD]ランボー [DVD]クリフハンガー [DVD]ロッキー・ザ・ファイナル(特別編) [DVD]ディア・ハンター デジタル・ニューマスター版 [DVD]キラー・エリート [DVD]ハンテッド [DVD]北国の帝王 [DVD]ジョン・ブアマン監督 脱出 特別版 [DVD]ザ・ワイルド [DVD]闇の奥 (光文社古典新訳文庫)地獄の黙示録 特別完全版 [DVD]真・地獄の黙示録 [VHS]キャプテン・フィリップス (初回生産限定版) [Blu-ray]キャリー 2枚組ブルーレイ&DVD (初回生産限定)エクスペンダブルズ (期間限定価格版) [DVD]ダイ・ハード [DVD]ユナイテッド93 【ベスト・ライブラリー 1500円:アクション映画特集】 [DVD]グリーン・ゾーン [DVD]ゼロ・グラビティ ブルーレイ&DVDセット(初回限定生産)2枚組 [Blu-ray]悪の法則 [DVD]悪の法則ハンニバル [DVD]ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)野蛮なやつら/SAVAGES-ノーカット版- [DVD]新品北米版Blu-ray!【毒戦】 Drug War [Blu-ray]!すべての美しい馬 (ハヤカワepi文庫)すべての美しい馬 [DVD]越境 (ハヤカワepi文庫)平原の町 (ハヤカワepi文庫)ブラッド・メリディアンザ・ロード (ハヤカワepi文庫)ザ・ロード [DVD]ジャッキー・コーガン [DVD]ジャッキー・コーガン (ハヤカワ文庫NV)