夢の補充装置＝劇場。

　アスミック・エースさんのご招待で「ゲノムハザード ある天才科学者の5日間」試写へ。合作とはいえ本作は韓国人監督によるものであるため、韓国映画であることに重きが置かれている。即ち、邦画の府抜けたアクションや暴力描写が通用しない動きが日本的風景の中で繰り広げられることに大変なカタルシスが得られるということだ。日本人作家の過去の原作を下敷きにしているため、現代のテクノロジーの状況や、舞台が二か国にスケールアップしたことで生じる齟齬は多少あるにせよ、どちらの国で観ても楽しめる作品にしようという気概が随所に見てとれる。バイリンガルな内容の話し手一つ取っても、韓国人俳優が日本語を、日本人俳優が韓国語を、少なくとも耳障りでないレベルにまで高めており、これは数多の韓国映画で聞かれる日本語シーンと比較しても圧倒的クオリティの高さ。さらに細面に反して鍛え抜かれた西島秀俊による、「ブレイキング・バッド」を意識した危機脱出のプロセスが、同種のものを邦画から見て取れないだけにかなり楽しい。タイトルからも明解なように予め設定されたリミット内での陰謀劇がスリリングだったのももちろんだが、ヒロインの、韓国人女優に珍しい、自然でぽってりと肉感的でいながら穏やかな表情の数々に、喉がカラカラになるほど欲情した。

　ムヴィオラさんのご招待で「新しき世界」試写へ。棄民や差別のテーマを「タイフーン」やリメイク版「男たちの挽歌」（脱北者）より深化させ、「哀しき獣」で露になった中国朝鮮族、さらには韓国内における華僑系のマイノリティをスパイスとして効かせた新機軸潜入捜査官作品。だから「悪魔を見た」の脚本家でもある監督がオマージュを捧げているもののいくつかには、当然「フェイク」や「ステート・オブ・グレース（ディパーテッド）」の等の潜入モノがあるが、前者はイタリア系、後者はアイルランド系コミュニティ内部の話なので、差別はあまり見えない。だが本作では潜入者自身が持つ被差別意識を利用され捜査参加へ踏み切らせるという、ハッキリした動機がある点に、作り手からの目配せを感じ、ゆえにのっけから「インファナル・アフェア」との決定的な違いを打ち出して疾走するのだ。そしてその果ての終盤の急展開、宣伝で自ら「ゴッドファーザー」と言及したくなるのも分かるが、それはすなわち「エレクション」でもあり、「アウトレイジ」でもあることが三重写しになって見えてくる。このところ悪役続きだったチェ・ミンシクが、「悪魔〜」の「エボラ・シンドローム」に続き、今回は「インファナル〜」的なアンソニー・ウォンへのオマージュを見せつけ、我々を最後に裏切るさまに痺れる。「ドラッグ・ウォー」でも感じたたけしへの求愛、そして韓国からの香港への求愛を見る限りだと、この幸福な三すくみは後に壮大なコラボを予感させて止まない。今回ばかりは、韓国映画にアレルギーを持つ奴が本当に可哀想だと思ったね。

　一観客として「ハンガー・ゲーム2」へ。前作から俺はゲーム自体が厳密なルールに従って行われ、参加者の個性でその進行が左右されるような観客にとってのゲーム性が低い、つまり外部からの介入でルールの可塑性が高いことに問題を感じていたが、今回まさかの勝者選抜による仕切り直し。ルールの柔軟性は殺人ゲームのシステムとして不完全であることを意味し、ゆえに体制＝ルールを司る側への不信に満ちた作品だったが、まさに読み通りの手のひら返し。しかも原作ありきの三部作の二作目なので、連続した話をぶった斬って二作目と三作目としたいのが明白で、「BTTF」や「マトリックス」、あるいは「指輪〜」のように、本作では事態の収拾がないまま終わり、来年とおぼしき次回作に向けて終劇する予定のようであった。しかも次回、完全にシステムの不全性の証明や体制の崩壊を描いて終わるのだろう。しかし、今回も尺だけは無駄に長く、その分、ジェニファー・ローレンスのナチュラルで骨太な美しさを堪能できるとは割り切っても、要約すれば似たような話をたった一本で成し遂げた「バトルランナー」の偉大さもよく分かる。この不完全燃焼感は、さらに途中で終わることが明らかな「ホビット 竜に奪われた王国」でも行って紛らせるしかないようだ。