映画による弱肉強食順応訓練。

　ファントム・フィルムさんのご招待で「アメリカン・ハッスル」試写へ。デヴィッド・O・ラッセル復活後の諸作品は全て本作への下準備でしかなかったような気にもなる、スコセッシ風実話ベースのドラマでありながら、お気楽なコメディ。要するに「ザ・ファイター」の実録性と「世界にひとつのプレイブック」のトラブル体質の人間関係を文字通り合体させたところにアンサンブルの妙味があるわけだけど、お膳立てまでしたら後は自然に面白くなりそうな素材（キャストと元になった事件）でもある。詐欺師が出てくるために、どんでん返しを期待する向きに応えてる作りになってるとは言え、汚職政治家への献金そのものが酷いでっち上げ過ぎて引き笑い。時代に合わせた音楽の使い方や本作への布石に過ぎなかったデ・ニーロという飛び道具が、スコセッシへのオマージュを嫌が上にも盛り上げる。ジェニファー・ローレンスは「〜プレイブック」に続いた面倒臭い女の延長だが、エイミー・アダムスは頭の切れるビッチな感じが新機軸で、一番注視してて飽きず、「マン・オブ・スティール」の人形扱いへのリベンジとなった。

　一観客として「大脱出」へ。スタローン的に「ロックアップ」と「デッドフォール」を超えるものを！という意気込みを交えつつ、実は脱獄ジャンル童貞であるシュワをサポートするかのように、非常に親切に作られた「強盗放火殺人囚」的バディ脱獄映画。で、問題のタンカー刑務所“トゥーム”はテクノロジーの粋を集めたという割には「ダブルチーム」の“コロニー”や、「ノー・エスケイプ」の監獄島“アブソロム”のようなセキュリティはなく、どっちかというと存在が秘せられてるという意味では、「フェイス/オフ」に登場する海上監獄に近い管理体制だ。秘密なんで当然、「監獄島」や「デス・レース」のような外に開かれた殺人ゲーム要素はなく、あくまで邦題・原題が示す通りのシンプルな脱出シチュエーションにより、刑務所もの特有の、主人公と確執のある二つ名の囚人や看守の描写は薄い。房の構造は「Xメン2」のマグニートーの牢、そしてレクター博士の牢からの影響が見てとれるアクリル製のセルで、その結節構造がチェンジすることはないにせよ、蜂の巣のような連節は「キューブ」辺りの着想元が窺える。そこそこ虐待や懲罰に関しては水責めなど力が入ってて、特に懲罰房は、ブザーこそ鳴らないものの「ロックアップ」のそれを思い出して笑えた。そして耐えるキャラとしてスタローンの十八番が当初前面に出過ぎてるため、終盤の野外での銃撃戦にはシュワに花を持たせ、さほど不要でもない大量殺戮をプレゼントしたせいで、その時だけ場内爆笑による一体感が味わえたことも特筆しておきたい。

　一観客として「オンリー・ゴッド」へ。マザコンや血の色へのこだわりがそうさせているのか、本作はホドロフスキーに捧げられてる。しかし、「ドライヴ」でも「アレックス」へ言及していたように、今回も極彩色の色彩設計が「エンター・ザ・ボイド」に似ててギャスパー・ノエへのラブコールも再度窺える。そこに今回は湿度が加わってる感じ。しかも、殺しの後カラオケに臨むタイ人のオッサンの歌が上手い！何を歌ってるのか分からないのに胸に迫る歌声というのは、ああいうのを言うのだ。また、かなり問題も多いのに、個人的にこの作品が嫌いになれないのは、書籍版「悪の法則」でマッカーシーが補足したシナリオの結末を継ぐような、倫理を超越した“超人”の「その後（キャメロン・ディアス→クリスティン・スコット・トーマス）」が見られるからでもある。さらに、“神への挑戦”というテーマでは、ゴズリングとの続投コンビ作ながら、そのさらに前の「ヴァルハラ・ライジング」に引き続くものだった。しかもまだ、このテーマを今後も追求するというのだから、今回の内容に不満があってもまだ結論を出すのは早いのだろう。