「カネ」や「信仰」を超える「行動」の至高性。

 20世紀フォックスさんのご招待で、「LIFE!」試写へ。コメディアンとしてだけでなく、硬軟使い分けの効く監督としてのベン・スティラーの才気が前作の失敗によりいい方向で揺り戻された逸品。「青い鳥」の変形でありながら、ファンタジー要素を絡めずに、人生という不思議を寓話として描き出した。代わりに主人公の妄想が切れ目なく日常からスペクタクルとしてスライドするのが見所だが、次第に人生そのものがスペクタクル化していくところに人間の行動力と、本作を実現した監督の自負と称賛が見える。その所々に隠れキャラとして、エキセントリックでもないのに極めてインパクトある役で登場するショーン・ペンは、“クリス・マッカンドレス”的「自由人」の象徴としてまさに「イントゥ・ザ・ワイルド」を撮った監督(ペン)に相応しい贅沢な配置。また、ヒロインのクリステン・ウィグにも笑いを封印させ、生来の美を堪能できる配慮をするなど、「リアリティ・バイツ」の監督ならではの女優への目線の確かさも垣間見せる。しかも、作中で大役を果たすアイテムに、俺の人生に決定的に影響した玩具まで登場するとなれば、その話に人生で一人しか反応した奴がいない以上、誉めないわけにはいかない!(「君は“海をこえてやってきた不死身の男”を見たか。」参照 http://d.hatena.ne.jp/HikaruNoir/20090726)ちなみに「ズーランダー」絡みのネタが、妄想の一部でどさくさ紛れに繰り返されてるのが個人的には一番受けたね。


 ファントム・フィルムさんのご招待で、「あなたを抱きしめる日まで」試写へ。さすがは「グリフターズ」をものにした職人スティーヴン・フリアーズである。デイム・ジュディ・デンチから、“M”とはまた違った、“無学で信心深いお婆さん”という親しみやすさを引き出した。アイルランドで未婚の母を精神異常者と見なし、修道院で強制労働させた挙げ句、その子供を教会によって組織的に売り飛ばした実話に基づいている。人工股関節のお婆さんに長旅はきついだろうが、調査を依頼されたジャーナリストが共に追った先には、自分の性的抑圧を他人にも強いる、信仰に名を借りた単なるルサンチマンが潜んでいた。そんな卑小な悪意から受けた損傷を赦免できるか?がテーマとなるが、無神論者であるジャーナリストの主人公が「赦し」を到底許容できないほどの悪を宗教は強いており、その傲慢さへの怒りが、観る側として自分には一番しっくり来た。アイルランドカトリックに人生を破壊された母と、アメリカでプロテスタント右派に人生を破壊された息子、ともにキリスト教のもつ本質的な欠陥とグロテスクさは、宗教的思考を放棄した日本人には分かりにくいだろうが、ことの善悪くらいは判断つくだろう。それだけに、コメディとして演出された噛み合わない二人のディスコミュニケーションとシニカルなギャグは、このやりきれない実話へ随所でクッションに効いてくれる。また、「ダラス・バイヤーズクラブ」と並び、レーガン政権の弱者排斥/強者優遇、その支持基盤となるキリスト教原理主義という、現在も幅を効かせる巨悪が今頃連続で暴かれるというのは実に興味深い。宗教とは無縁なだけにより悪質な、復古的資本主義と新自由主義によって、我々も日本で同じ過ちが繰り返されようとしてるのを汲み取らなければならない。しかしデンチの目は大丈夫なのか?心配だ。


 一観客として「ウルフ・オブ・ウォールストリート」へ。暴力を行使せず男を支配しようとする女の狡猾な暴力性を、「エイジ・オブ・イノセンス」で表現したように、スコセッシは経済による「金が生来持つ暴力性」を極力暴力を描かずに表現するのに挑戦したかったように見える。その試みが事実ならば、まあ成功だろう。暴力の代わりに金を行使したマッチョ主義の極みが描かれるため、直接的セックス描写が多く、マッチョな世界の鋳型に入ることしかできない奴しか楽しめない快楽と金の使い方で、その虚しさはなぜかより暴力性にバイアスの掛かった「グッドフェローズ」や「カジノ」に比べると軽い。主人公が懲りないところも、人格破綻者であるがゆえに女を最も金の掛かる付属品としか考えず、常に家庭内不和を抱えるのもスコセッシ作品の常套型の主人公であるにもかかわらず、だ。女も個性のある女は登場させず、マッチョ社会の消耗品としての記号的な女(メス)ばかり。ロレイン・ブラッコやシャロン・ストーンほど男の障壁となる強欲な女ではないので、主人公の愚かさが余計に際立つ。暴力とはほぼ無縁の「ヒューゴの不思議な発明」以降の反動として、意識して暴力に抑制的になったのもあるだろう。抑え過ぎて、題材としての主人公たちも幼稚過ぎ、かつスコセッシも「ミーン・ストリート」を撮った時ほどに若くなく、(異物としての子供は別に)若い主人公を描くには老成しすぎてしまったのではないか?というほどに、まともな大人なら付き合い切れないほどの主人公たちの暴走が幼稚で過剰にナンセンスで描かれ、これが実話ベースであるのに呆れるばかりなのだ。だから基本はコメディとして全体が演出されても、洒落にならない話ばかりで笑えない(誉め言葉)。そして主人公の師匠がコークを決め鼓舞する妙な歌がエンディングに再度流れるのを聞く限り、「ウォール街」の悪役ゲッコーを、オリバー・ストーンの意図に反し崇拝するバカが、金融危機に拍車をかけたように、本作に触発されるバカもまた、今後の経済を狂気へ追いやる推進力になるだろうという確信が強まった。日本でも犯罪者ホリエモンをヒーロー視するバカが後を絶たないのと同じだ。現時点におけるスコセッシの集大成として必見。イントゥ・ザ・ワイルド [DVD]トロピック・サンダー/史上最低の作戦 ディレクターズ・エディション [DVD]リアリティ・バイツ [DVD]ズーランダー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]グリフターズ/詐欺師たち [DVD]グリフターズ (扶桑社ミステリー)ゴールデンアイ(デジタルリマスター・バージョン) [DVD]トゥモロー・ネバー・ダイ(デジタルリマスター・バージョン) [DVD]ワールド・イズ・ノット・イナフ(デジタルリマスター・バージョン) [DVD]ダイ・アナザー・デイ(デジタルリマスター・バージョン) [DVD]007 カジノ・ロワイヤル [DVD]007/慰めの報酬 [DVD]007/スカイフォール [DVD]QSKL プロジェクタースクリーン60インチ (16:9) 自立式 携帯式 三脚式 4K 吊り下げ 洗濯可能 ホームシアター 投影 会議 教室 (A) (A) (A23)エイジ・オブ・イノセンス [DVD]グッドフェローズ [DVD]カジノ [DVD]ヒューゴの不思議な発明 [DVD]ミーン・ストリート [DVD]ウォール街 (特別編) [DVD]ウォール・ストリート [DVD]