台湾映画紀行など。

 ショウゲートさんにご招待いただき、「ハミングバード」試写へ。パッと見、浮浪者だったり少女との絆が隠し味になったりと、ステイサム映画としては「セイフ」を思わせる要素が散見されるが、それそこが本作を敢えてミスリードさせ、彼の新境地へと観客を迎える敷居の低さとして用意されたものだった。事実、「イースタン・プロミス」の脚本家の監督デビューとなる本作において、ステイサムの古巣であるロンドンとの相性は完璧だし、シナリオとのマッチングも当て書きに思えるくらいだ。さらに、「イースタン〜」を引き継いだ、基本的に銃のない暴力が蔓延る犯罪都市性的嗜好も含めた人種のるつぼとしてのロンドンの闇が濃く描かれている。加えて本作においてはこの都市を語る上で外せない、防犯に名を借りた監視社会としての側面も強調され、日本も他人事でなくなりつつあるだけに問題提起としても興味深い。また、物語を構成する娼婦殺し、人身売買、密入国等の要素は、「イースタン〜」とは別角度で掘り下げ移民社会のダークサイドを見せる工夫がされている。なお、各コミュニティが描写される際のエスニシティーを強調した音楽とその切り替えが、狭いながらに雑多な民族の入り交じるカオスを盛り上げてくれるのだ。そこに裏社会で力を蓄えていくステイサムと、東欧の故郷を捨てたシスターのぎこちない接近がクロスし、ビターなラブストーリーとしても完成度が高い。これは「イースタン〜」の主役ふたりの淡い交流に通じはしても、クローネンバーグが持ち味ゆえにドライに処理した、傷を抱えた者同士、ためらいがちにならざるを得ない触れ合いの妙を、当のライター自身が丁寧に演出したことで明確になった。それでいて、再度ストーリーに絡む復讐テーマとしての要点も、物語はきっちり押さえカタルシスと余韻が大人の心地よさを醸す。元アスリートとして確かに肉体派ではあるが、このところ少々無理しすぎに見えた、ステイサムのアクション路線を多少維持しつつ、ガイ・リッチー組出身性格俳優ステイサムとしての原点回帰、その契機となり得るネクストレベルを志向した、スター性と作家性を兼ねた映画である。


 一観客として、「蜘蛛人驚奇再起2:電光之戰(アメイジングスパイダーマン2:台湾公開タイトル)」へ。「(500)日のサマー」によって起用された監督の自己批判であり、買われた資質からの脱却願望が本作最大のエピックには明解に表れ、かつ原作の研究をそこに活かしたのはグウェンの衣装で分かり、あくまで原作枠内で自己表現をしようという監督の周到さは伝わる。とはいえジェイミー・フォックス的には明らかに“ドクター・マンハッタン”を意識した造形のエレクトロ戦は、前シリーズのヴェノム戦を想起させるバトルフィールドを用意と、オマージュも欠かしておらず、シリーズへの監督の複雑な思いも垣間見える。つまり、大きな流れのオチは想像通りだが、前作から小出しされた陰謀の中心が輪郭を現してきたのが重要とも言える。今回、敵が三人出ると知った時点で、前シリーズにおける「3」のような散漫と強引な収拾を危惧したが、その割には話がとっ散らかっておらず、理由はこうした展開にあったのだ。それが主人公や世界観における(現実には絶対に実現不可能な)テクノロジーのあられもない造詣の開示に対する疑問にも直結するのが、毎度マーヴェル映画化作品の欠点。その粗にさえ目を瞑ればいいのだろうが、その粗こそが荒唐無稽なコミックのセールスポイントでもあるらしく、ましてフィジカルなアクションもない人工的な作りで、容易に見過ごさせてくれないのが堪えどころなのだ。特に“ライノ”という、(最大の敵の差し金に見える)敵を単なる道具立てにしてしまった点からも、今回は人間関係の綾で見せようという意識の減退が明白だ。なので伏線でもない投げっ放しの謎も多すぎ、今後それをロジックではなくテクノロジーで強引に説明しようとする方便としての“オズコープ”という設定に投げ槍な悪意を感じた。こうした問題(謎)の先送りが、長いシリーズを望むのであれば後々の枷になることも前シリーズから学んで欲しいものだ。


 一観客として、「KANO」へ。この日本統治時代が大きくフィーチャーされた台湾映画は、単に「セデック・バレ」と表裏をなす作品という点でスタッフが重複するだけではない。そのディテールの正確さには、字面が台湾人的でスルーしそうになってしまうが、林海象監督が日本人シナリオ監修として参加してたのである。そこで適役過ぎな、嘉義農林高校野球部のスパルタ監督・永瀬正敏の起用が“濱マイク”という一本の線で繋がった。とはいえ外国映画なので難を言えば、当時は公用語だったはずの日本語台詞の応酬に、少年によっては流暢さでバラつきがあり聞き取りづらくもあるが、北京語字幕と英語字幕の同時表示という、日本の劇場にないサービスのお蔭で気にならない。しかもそんなディスコミュニケーションは、能年玲奈ちゃん同様、「告白」に出ていた妻夫木似の大倉裕真くんが、その幼さ混じりの中性的なルックスと共に中和してくれるのだった。でも実はルックスという点では、強打者を演じた原住民の少年に「モンゴル」や「ニュー・ワールド」の武骨なヒロインのような、そのエキゾチックな風貌の隅々から少年由来の硬質なエロスと、少年期の儚い魅力が漂い、それが的確に切り取られておりとても官能的に見えた。また正直なところ、鑑賞前に既に台湾の書店で漫画版を発見していたため、日本における「ルーキーズ」のような浅い受け止められ方してるのか?とやや疑ってもいたのだが、柔らか目のタッチで描かれた漫画は映画ヒットに合わせコミカライズされたらしく、その人気と物語の素晴らしさが本物と思い知らされたのである。実際劇場では、二月下旬公開から現在もロングランし、遥かに回数は少なくなってるものの、日曜昼の興行にあっては子供で一杯だった。それも共通の野球帽を被ったいくつかの少年グループが認められ、地域の野球チーム単位で鑑賞に来ていると窺えたのだ。だから少年たちは劇中のギャグにもビビッドに反応し一体感を盛り上げていたが、対する俺はと言えば、中国語字幕付きの日本製AV流出裏ビデオにおいて、女に対しピストン運動を続ける男優の喋りに、「好棒!好棒!」というのでお馴染みの単語だったため、日本人設計のダム完成に駆けつけた少年たちが「好棒!」と言う、別に笑う場面ではないシーンで大爆笑してしまい顰蹙ものだった。後に調べたところ、「好棒(ハオバン)」は単に「素晴らしい」という意味の北京語で、俺が裏ビデオの男優チンポ挿入時に被された字幕のせいで強く印象づけられてしまった、「俺のチンポは気持ちいいか?」的なニュアンスは、穿ちすぎだったのである。Hummingbird [DVD] [Import]SAFE / セイフ [DVD]イースタン・プロミス [DVD]スパイダーマンTM [DVD]スパイダーマンTM2 [DVD]スパイダーマンTM3 [DVD]アメイジング・スパイダーマンTM [DVD](500)日のサマー [DVD]WATCHMEN ウォッチメン(ケース付) (ShoPro Books)ウォッチメン スペシャル・エディション [DVD]KANO Original Soundtrack (OST) (台湾盤)セデック・バレ 第一部:太陽旗/第二部:虹の橋【通常版 2枚組】[DVD]我が人生最悪の時 ― 私立探偵 濱マイク シリーズ 第一弾 [DVD]遥かな時代の階段を ― 私立探偵 濱マイク シリーズ 第二弾 [DVD]罠 THE TRAP ― 私立探偵 濱マイク シリーズ 第三弾 [DVD]私立探偵 濱マイク (TVシリーズ) DVD-BOX告白 【DVD特別価格版】 [DVD]モンゴル [DVD]ニュー・ワールド コレクターズ・エディション [DVD]