「ヒーロー」というフィクション。

　パラマウント ピクチャーズ ジャパンさんにご招待いただき、「ノア 約束の舟」試写へ。アロノフスキーはダニエル・クレイグに妻を寝取られ、JFK夫人ジャクリーンの伝記が撮れなくなったことで宗教に走ったわけではないようだ。奇しくもその寝取られた元妻レイチェル・ワイズの完全イメージビデオと化していた俺の大好き映画、「ファウンテン」に見て取れる独特の宗教観から、こうした作品に手を出す素地はあったのである。だから一見荒唐無稽な聖書エピソードをそのまま映像化するのではなく、方舟の現実的な形状と製造法、ノアのメンタリティや周辺人物の設定などの独自解釈を楽しむ作品となっていてそこは「十戒」みたいな単なる史劇スペクタクルになってないのが満足度が高い。「2012」のオリジンとも言える世界の終わりであり、終末映画としてもマストな出来だが、現実には世界は終わってないし、人類は類人猿から進化し、アフリカにその起源を持つという動かしがたい事実があるからこそ、現代においても人間を歪め続ける一神教の底を見る思いでファンタジーとして消費できる。つまりこうした頑迷が未だ支配する世界だから上映禁止措置を取っている国もあるという状況を含めて楽しみたい素材なのだ。何より神から大変な仕事を任され着手する“ジョー＝エル”こと、ラッセル・クロウの風貌が持つ説得力が凄まじいので、宗教アレルギーや予備知識のない向きにも全く問題がなく、「日本誕生」的な感覚でのめり込めたのも事実である。

　一観客として、「キャプテン・アメリカ／ウィンター・ソルジャー」へ。訪れた台湾でも 「美國隊長2：酷寒戰士」として上映していたから鑑賞しようと思ったが、尺が案外長く、現地で相当する時間が確保できなかったために断念した。で、満を持して帰国後に鑑賞したわけだが、予告から想像していた現実のミスター・アメリカン優等生であるところのロバート・レッドフォードによる、アメリカンスピリットの「グラン・トリノ」的継承が挿入された無害な話かと思ったら全然違った。今度ピンで活躍することになった“エージェント・カーター”がろくに見られない不満はあるものの、「アイアンマン2」で“トニー・スタークを叩く議員”の正体も明らかになるし、「マイティ・ソー／ダーク・ワールド」の小粒感に比べると、定番のスタン・リー探しも外さず、何よりポリティカルスリラー兼アクションとして成立している作品としてバランスがいい。そして思いっきり体制への不信を全面に出す陰謀まみれの世界観にも関わらず、政府の犬として汚れ仕事を一手に引き受けた「ウォッチメン」における“コメディアン”化しそうになるのを踏みとどまる、能天気なキャップの融通の効かなさは童貞ならではで痛い。今回登場する“ファルコン”も荒唐無稽だし、所詮はキャップといえど強化人間ではあってもスーパーマンと違いただの地球人で、その超人的な力もアイアンマンのようなテクノロジーに支えられたものでもないため、話を荒唐無稽にするにも限度があり、そう長くは続けられないジレンマが感じられる。ゆえにというか、だからこそ再来年の「Batman v Superman: Dawn of Justice」にぶつけられるキャップの続編は、どう考えても「X-MEN」における“ホロコーストの犠牲者の係累にある者”が暗躍するとしか思えず、ゆえにあっちのシリーズとのクロスオーバーの可能性を秘めているため、かなり期待してしまうのだ。

　一観客として、「X-MEN：フューチャー＆パスト」へ。まず「〜ファースト・ジェネレーション」のようにゲストでもレベッカ・ローミンは出てほしかった。そんなミスティークが復讐に燃える原因が前作の登場人物の遺品として端的に示される点はさらっと流してるが、「アメイジング・スパイダーマン2」における“オズコープ社”のショーケース場面と同様にかなりの情報量を秘めているだけに漫然と眺めていると大損をする。また全体の流れとして荒唐無稽なりに社会的メッセージを強くしてきたシリーズであり、ブライアン・シンガーのマイノリティとしての思い入れも強いはずなのだが、今回はマグニートーを“コメディアン”化してケネディ暗殺に絡めるなど、歴史的エピックの整合に注力しているせいかあっさり目。正直、「ウルヴァリン」シリーズや前作との整合性は取れても「〜ファイナル・デシジョン」との整合性は取れてないんじゃないか？という気がかなりするが、例のごとくエンドロール後には問題解決をしていない自覚からか、続編への含みがかなり見られる。ちなみに前作でプロフェッサーXが半身不随になる場面が最大の事件であったため、今回は彼が何らかの事情で禿げる瞬間が見られると思ったのに、今回も巧妙に逃げているということだ。これだけは是非とも次回やってもらわないとな。